公爵令息と悪女と呼ばれた婚約者との、秘密の1週間

みん

文字の大きさ
22 / 23

22 ネイサンとノクス

しおりを挟む
ジャクリーヌは、実家と旦那の実家の両男爵家から縁切り、除籍処分をされ、少量のお金だけ持たされた上に、辺境にある町に追放された。
元男爵夫人が、侯爵夫人になりきり好き放題した上に、次期侯爵のシャーリーを陥れようとしたのだ。おまけに、自分勝手な理由でブロンディオ公爵家も巻き込んで。
そこまでくると、両男爵家ともブロンディオ公爵家とカシリスト侯爵家から睨まれたくない─となったのだろう。
ジャクリーヌは、王太子妃ナターシャの実の親ではあるが、戸籍上はカシリスト侯爵家の養女であり、ナターシャ本人が『アレはもう、私の親ではないわ』とハッキリと口にしたのも大きいだろう。

少量のお金と言っても、平民からすればそれなりの金額で、平民レベルの生活を送れば数年は働かなくても暮らせるし、その間に職を探す事ができる。ただ、プライドだけが高く、贅沢に慣れたジャクリーヌが、贅沢を止めて働くのか?それは「否」だろう。働くのが嫌なら、ジャクリーヌは性格云々は置いといて、容姿は年齢よりも若く見えて美人だ。うまくいけば、金持ちと結婚する事もできるだろうが、それもまた難しいだろう。

『私は侯爵夫人になるのよ!』
『エリック様が迎えに来てくれるわ』

と、最後迄そう叫んでいたから。となれば、ジャクリーヌはいつ迄のか………そう長くはだろう。
正直、ジャクリーヌがどうなろうと、どうでも良い。ジャクリーヌが二度とシャーリーの視界に入らなければ、どうなろうとも知ったことではない。シャーリーが穏やかに過ごせるのなら──

「私、実は、ヤモリを飼っていたんですけど──」
「ゴフッ───」
「ネイサン様、大丈夫ですか!?」

思わぬ角度からのヤモリ発言に、紅茶を飲み込もうとしてむせると、シャーリーが焦って背中を擦ってくれた。

「だっ…大丈夫だ…あー……それで、ヤモリを飼っていて、どうしたんだ?」
「レオパ─ヒョウモントカゲモドキって言うヤモリで、色んな理由があって飼う事になって、マルクに手伝ってもらって飼ってたんですけど、1週間前のゴタゴタした時に脱走してしまったみたいで、居なくなっちゃったんです」
「そうか……」

ー人の姿に戻って、今ここに居るんだけどー

「もともと爬虫類は苦手だったけど、初めて目にした時から特に抵抗もなく触れて、その子は可愛く見えて、名前も付けてたんです。その子、レオパには珍しい黒色で……ネイサン様と同じ黒色だと思ったら、更に可愛く見えて、安心感もあって…ネイサン様にも見てもらいたかったんですけど……」
「え?」
「あ、ネイサン様は爬虫類は苦手でしたか?あ!もしかして、ヤモリと同じ色だと言った事に気を悪く──」
「違う!全く気を悪くなんてしていない!俺もヤモリは好きだから!」
「そ…それなら良かったです」

ーそのヤモリは俺だからな!とは言えないー

「無事だと良いけど」

シュンと寂しそうな顔をするシャーリー。まさか、ヤモリな俺を可愛いとか安心感があったとは思わなかった。俺と同じ黒色だからと言う理由だけで──

ー可愛いのはシャーリーだろう!ー

確かに、シャーリーは初めてヤモリな俺を見た時、嫌な顔もせず俺を掴み上げた。それに、よく『ブロンディオ様と同じ綺麗な黒色だ』とも言っていた。マトモに連絡すらとれていなかった俺の事を、呆れる事も怒る事もなく思ってくれていたのだ。

「本当にシャーリーは可愛いよね」
「はい?」
「ヤモリでも黒色と言うだけで俺を思ってくれたんだろう?可愛い過ぎるだろう」
「は…はい!?違っ……わなくもないですけど!?」

ボフッと音が出る勢いで、シャーリーの顔が真っ赤になった。

ーシャーリーは、こんなにも感情が豊かだったんだなー

「と…兎に角、そのヤモリ……ノクスって言うんですけど、ノクスには癒やされていたから、居なくなって寂しいなぁって。犬とかに食べられたりしてなかったら良いんですけど、もともと飼われてた感じもあったから、大丈夫かどうか心配で…」

ー犬なんかにヤられたりはしないし、元気に、今、ここに居る!とは言えないー

「運良くシャーリーに飼われる事になったぐらいだから、運良く元の飼い主の元に戻れているんじゃないかな?」
「だと良いんですけどね」

それでも寂しそうな顔するシャーリーに、“本物の俺が目の前に居るのに”と、ノクスに嫉妬する俺が居る。なんとも複雑な心境だ。

「ノクスの代わりと言ってはなんだけど、学校が休みの日に、街に美味しい物でも食べに行かないか?」
「街に?私と2人でお出掛けしても良いんですか?」
「勿論だ。婚約者と2人で出掛けても問題は無いだろう?」
「婚約者……はい!行きます!行きたいです!」

ー可愛いか!!ー




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

殿下、私以外の誰かを愛してください。

ハチワレ
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!

日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」    学園のアイドル、マルスからの突然の告白。  憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。 「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」  親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。 「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

私との婚約は政略ですから、恋人とどうぞ仲良くしてください

稲垣桜
恋愛
 リンデン伯爵家はこの王国でも有数な貿易港を領地内に持つ、王家からの信頼も厚い家門で、その娘のエリザベスは10歳の時にコゼルス侯爵家の二男のルカと婚約をした。  王都で暮らすルカはエリザベスより4歳年上で、その時にはレイフォール学園の2年に在籍中。  そして『学園でルカには親密な令嬢がいる』と同じ学園に通う兄から聞かされたエリザベス。  エリザベスはサラサラの黒髪に海のような濃紺の瞳を持つルカに一目惚れをしたが、よく言っても中の上の容姿のエリザベスが婚約者に選ばれたことが不思議だったこともあり、侯爵家の家業から考え学園に入学したエリザベスは仲良さそうな二人の姿を見て『自分との婚約は政略だったんだ』と、心のどこかでそう思うようになる。  そしてエリザベスは、侯爵家の交易で使用する伯爵領地内の港の使用料を抑える為の政略結婚だったのだと結論付けた。    夢見ていたルカとの学園生活は夢のまま終わり、婚約を解消するならそれでもいいと考え始めたエリザベス。  でも、実際にはルカにはルカの悩みがあるみたいで……   ※ 誤字・脱字が多いと思います。ごめんなさい。 ※ あくまでもフィクションです。 ※ ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※ 実在の人物や団体とは一切関係はありません。

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

処理中です...