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肆
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*ロイド視点*
『もう…懲り懲りなんですよ』
『愛を盾に押し付けられる愛情なんて…私は要りませんから。迷惑でしかありませんから。それでは、失礼します』
あそこまで、ハッキリと拒絶されるとは思わなかった。口では何とでも言いながら、まんざらでもないだろう?なんて思っていた。今迄がそうだったから。
「気持ちの良いぐらいの拒絶だったな!ははっ!」
「レオ………」
俺の肩をバシバシ叩きながら笑っているのは、同期で親友でもあるレオンス=ヘルモルトだ。
レオもまた、食堂『結』の常連客でもあり、エリーの事もよく知っている。
俺とレオが5年程前から結に通うようになり、エリーが結にバイトとしてやって来たのが1年程前だった。
何でも、他国から単身でやって来た訳ありの獣人で、職を探していたところを結の女将のジルさんが声を掛けて連れて来たと言う事だった。子供を亡くしてしまったジルさんとヴィニーさんにとって、エリーは可愛い子供に見えるようで、エリーが店にやって来てから2人は明るくなったと思う。
エリーもまた、そんな2人に感謝してはいるが、心までは許していない─そんな感じだ。いや、それは2人に対してだけではなく、他者全てに対して距離を取っている。始めは、そんな彼女が気になっただけだった。
“エリー”とだけ名乗る彼女に家名は無い。本人も平民だと言っていた。親姉弟も居ないようで、単身でこの国に来た。茶色の髪と瞳をした平均的な容姿の彼女は、どこにでも居るような普通の女の子だ。獣人らしいが、獣化した姿は見た事がない。
結にやって来た頃は「大丈夫か?」と思う程手際もクソもなかったが、今ではホールを1人でも回せるようになっている。“努力家”だ。酔っ払いに絡まれようとも難癖をつけられようとも、それに対してキレる事はなく冷静に対応する姿は凄いな─と素直に感心した。
でも、一番興味をひいたのは、どんな肩書きをもった貴族や眉目秀麗な騎士が来ても目の色や態度を変える事がないところだった。
ー相手は平民だし、優しくしておけば喜ぶだろうー
なんて言う軽い気持ちでエリーには優しく接していただけだった。
******
『見掛けで判断して、何の意味がありますか?それは、自分の妄想を押し付けているだけですよね?勝手に妄想して勝手にガッカリされても、私のせいではないですよね?』
そう言われてハッとした。見た目と肩書きだけで近寄って来る相手を見下していたのに、自分も同じような事をしていたのだ。見た目で寄って来るなら、俺も見た目で相手をしてやろう─と。
エリーは平民だから、貴族で近衛騎士から優しくされれば嬉しいだろうと。自慢できるだろうと。
『ラサエル様が結で見せる爽やか騎士様も、昨夜のラサエル様も、私にとってはどちらも同じロイド=ラサエル様でしかありませんから』
おまけに、エリーはどんな俺でも俺である事には変わらないなんて言ってのけたのだ。
ー惚れてしまうだろうー
正直、エリーは見た目によらず男前だった。一緒に出掛けた時も、一瞬の隙も見せなかった。それは、獣人だからなのか?と思ったりもしたが、それはただ単に俺への拒絶の表れだったんだろう。ただ……ランチの最後にデザートを食べている時だけ、エリーの表情が柔らかくなったのが印象に残った。
ー甘味が好きなのか?ー
と思い、またあの表情を目にしたくて、人気があると聞いた物を買ってはあげたりもしたが、受け取ってくれるが喜んでくれる事はなかった。それもまた、照れ隠しか?と思ったりもしていたが──
「本気で嫌がられていただけだったんだな」
「本当に、エリーは凄いよね。ロイドに全く靡かないんだから」
「面白くはないからな!」
俺は今迄、女性にフラれた事はない。声を掛ければ、本気ではないと分かっていたとしても、相手は嬉しそうに応えてくれた。そうやって、遊んでいたツケが来たのだろうか?
「まぁ…今迄の自分の行いが返って来たって感じじゃないか?」
「本当に、お前は遠慮が無いな……」
「それが親友と言うものだろう?」
ははっ─と笑うレオ。確かに、お互い言いたい事を言い合えるのは、有り難い存在なんだろうと思う。
「ロイドが本当に本気でエリーに気があるなら、俺も応援するけど、遊びのつもりなら止めとけ。エリーは、今迄お前が相手をしてきた子達とは違って、ある意味純粋な子だから。何より、ジルさんとヴィニーさんが大切にしてる子でもあるからな」
「最初は遊びのつもりだったけど、今は違う。エリーの笑った顔を見てみたい─と、純粋に思ってるぐらいだから」
「おぉ…それはまた…なんとも初々しいな……くっ…」
「ちっ…笑うなら笑えば良い……」
本当にそんな風に思える女性は初めてなのかもしれない。エリーの俺に対しての好感度は0どころかマイナスかもしれないが、もう一度あの柔らかい表情を見られるように頑張ろう。
『もう…懲り懲りなんですよ』
『愛を盾に押し付けられる愛情なんて…私は要りませんから。迷惑でしかありませんから。それでは、失礼します』
あそこまで、ハッキリと拒絶されるとは思わなかった。口では何とでも言いながら、まんざらでもないだろう?なんて思っていた。今迄がそうだったから。
「気持ちの良いぐらいの拒絶だったな!ははっ!」
「レオ………」
俺の肩をバシバシ叩きながら笑っているのは、同期で親友でもあるレオンス=ヘルモルトだ。
レオもまた、食堂『結』の常連客でもあり、エリーの事もよく知っている。
俺とレオが5年程前から結に通うようになり、エリーが結にバイトとしてやって来たのが1年程前だった。
何でも、他国から単身でやって来た訳ありの獣人で、職を探していたところを結の女将のジルさんが声を掛けて連れて来たと言う事だった。子供を亡くしてしまったジルさんとヴィニーさんにとって、エリーは可愛い子供に見えるようで、エリーが店にやって来てから2人は明るくなったと思う。
エリーもまた、そんな2人に感謝してはいるが、心までは許していない─そんな感じだ。いや、それは2人に対してだけではなく、他者全てに対して距離を取っている。始めは、そんな彼女が気になっただけだった。
“エリー”とだけ名乗る彼女に家名は無い。本人も平民だと言っていた。親姉弟も居ないようで、単身でこの国に来た。茶色の髪と瞳をした平均的な容姿の彼女は、どこにでも居るような普通の女の子だ。獣人らしいが、獣化した姿は見た事がない。
結にやって来た頃は「大丈夫か?」と思う程手際もクソもなかったが、今ではホールを1人でも回せるようになっている。“努力家”だ。酔っ払いに絡まれようとも難癖をつけられようとも、それに対してキレる事はなく冷静に対応する姿は凄いな─と素直に感心した。
でも、一番興味をひいたのは、どんな肩書きをもった貴族や眉目秀麗な騎士が来ても目の色や態度を変える事がないところだった。
ー相手は平民だし、優しくしておけば喜ぶだろうー
なんて言う軽い気持ちでエリーには優しく接していただけだった。
******
『見掛けで判断して、何の意味がありますか?それは、自分の妄想を押し付けているだけですよね?勝手に妄想して勝手にガッカリされても、私のせいではないですよね?』
そう言われてハッとした。見た目と肩書きだけで近寄って来る相手を見下していたのに、自分も同じような事をしていたのだ。見た目で寄って来るなら、俺も見た目で相手をしてやろう─と。
エリーは平民だから、貴族で近衛騎士から優しくされれば嬉しいだろうと。自慢できるだろうと。
『ラサエル様が結で見せる爽やか騎士様も、昨夜のラサエル様も、私にとってはどちらも同じロイド=ラサエル様でしかありませんから』
おまけに、エリーはどんな俺でも俺である事には変わらないなんて言ってのけたのだ。
ー惚れてしまうだろうー
正直、エリーは見た目によらず男前だった。一緒に出掛けた時も、一瞬の隙も見せなかった。それは、獣人だからなのか?と思ったりもしたが、それはただ単に俺への拒絶の表れだったんだろう。ただ……ランチの最後にデザートを食べている時だけ、エリーの表情が柔らかくなったのが印象に残った。
ー甘味が好きなのか?ー
と思い、またあの表情を目にしたくて、人気があると聞いた物を買ってはあげたりもしたが、受け取ってくれるが喜んでくれる事はなかった。それもまた、照れ隠しか?と思ったりもしていたが──
「本気で嫌がられていただけだったんだな」
「本当に、エリーは凄いよね。ロイドに全く靡かないんだから」
「面白くはないからな!」
俺は今迄、女性にフラれた事はない。声を掛ければ、本気ではないと分かっていたとしても、相手は嬉しそうに応えてくれた。そうやって、遊んでいたツケが来たのだろうか?
「まぁ…今迄の自分の行いが返って来たって感じじゃないか?」
「本当に、お前は遠慮が無いな……」
「それが親友と言うものだろう?」
ははっ─と笑うレオ。確かに、お互い言いたい事を言い合えるのは、有り難い存在なんだろうと思う。
「ロイドが本当に本気でエリーに気があるなら、俺も応援するけど、遊びのつもりなら止めとけ。エリーは、今迄お前が相手をしてきた子達とは違って、ある意味純粋な子だから。何より、ジルさんとヴィニーさんが大切にしてる子でもあるからな」
「最初は遊びのつもりだったけど、今は違う。エリーの笑った顔を見てみたい─と、純粋に思ってるぐらいだから」
「おぉ…それはまた…なんとも初々しいな……くっ…」
「ちっ…笑うなら笑えば良い……」
本当にそんな風に思える女性は初めてなのかもしれない。エリーの俺に対しての好感度は0どころかマイナスかもしれないが、もう一度あの柔らかい表情を見られるように頑張ろう。
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