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伍
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あれだけハッキリ拒絶すれば、もう私には声を掛けて来ないだろうと思っていたけど──
「あれから、デロイアン嬢から何もされてない?」
「時間があれば、また一緒にランチに行かない?」
と、店に来る度に声を掛けられている。
ー“思い通りに行かない子が珍しい”状態なのかもしれないー
誰が見ても男前だし、表向きは爽やかな近衛騎士様だ。今迄声を掛けて振り向かなかった女性なんていなかっただろう。そんな中での私だ。珍しいおもちゃを見つけて楽しんでると言った感じなのかもしれない。なら、逆に興味があるように振る舞えば離れて行ってくれるのか?答えはきっと“否”だ。そんな風に対応したらしたで、良いように遊ばれるだけなのだから。
「パイが有名なお店があって、食べに行きたいんだけど、あそこは女性が多くて──」
「パイ…………」
「あ、パイ、好きなんだ?」
「っ!」
ついつい『パイ』に反応してしまった私を、嬉しそうな顔をして笑っているラサエル様。
「季節ごとに新作のパイが出るらしくてね。今は…アップルパイだったかな?」
「アップルパイ……」
『いつだって作ってあげるから』
ーそう言って、笑ってたっけー
「───って言う事で、明日、お昼前に迎えに行くからよろしく」
「え?ちょっ──」
「ジルさん、ご馳走様でした。明日、エリーをお借りしますね」
「はいはい…」
ジルさんは困った様に笑っていて、ラサエル様は私の返事を聞く前に店から出て行ってしまった。
******
『嫌なら断っても良いと思うわよ』とジルさんには言われたけど、アップルパイが食べたい私は、本当に予定通り迎えに来たラサエル様を断る事はせず、一緒にランチをする事にした。
その迎えに来たラサエル様はと言うと、前回のような無理矢理にでもと言う感じではなく、程良く距離を取ってくれている。
案内されてやって来たのは、大通り沿いではなく一筋外れた通りにある可愛らしいお店だった。
「確かに、男性だけでは入り難いお店ですね」
「だろう?でも、レオが、パイだけじゃなくてランチも美味しいからお勧めだと言っていたから、一度来てみたかったんだ」
ちなみに、お勧めをして来たヘルモルト様は、婚約者と一緒に食べに来たそうだ。
確かに、ランチもボリュームがある物もあり、男性でも満足できるだろうし、デザートの種類も豊富で女性も満足できて、デートにはもってこいのお店かもしれない。
ーコレはデートではないけどー
「とは言えは、傍から見ればデートにしか見えないけどね」
「私の心を読むの止めてもらえますか?」
「読める訳ないよな?パッと見は分かり難いけど、よく見ているとエリーは表情に出てると思う」
「そんなに…見ないでもらえますか!?」
よくもそんな恥ずかしい事をサラッと言えるもんだ。流石、女性の扱いには慣れている。
「好きな子の顔を目で追ってしまうのは、仕方無いだろう?」
「ごふっ───」
ー口撃が半端無いわね!ー
ギロッと睨めば「可愛いね」と返された。意味が分からない。この人は、こんなにも甘い人だった?何なら、あの時の塩対応なラサエル様の方が落ち着く気がする。
「あの…態々爽やかぶらなくても大丈夫です。塩対応で大丈夫です」
「ぶってるつもりはない。いたって普通─と言うか、思ってる事しか口にしてないし、自分の思った通りの行動をしている。寧ろ、エリーと居ると素の自分で居られるから楽なんだ」
「都合の良い女ですか?」
「いや…そこは素直に解釈して欲しいんだけど…でも、今迄の俺を知ってるから、素直に受け入れられる訳ないか……全ては自業自得、ブーメランだな……」
はぁ……と、盛大な溜め息を吐いて、自身の髪をワシャワシャと掻き回すラサエル様は、なんだか子供っぽく見える。
「俺の事、嫌い?それとも、生理的に受け付けなかったりする?」
「嫌いではないし、生理的に受け付けないと言う事もありません」
「なら、頭から拒絶せずに、取り敢えず俺の事、見て考えてみてくれないかな?それでも駄目だったら……その時はその時に考えるとして、暫くの間、今日みたいに俺のとの時間を作って欲しい」
「取り敢えず……友達としてなら……」
「っ!ありがとう!」
どうせ、ここで断ったところで、また結で顔を合わせる事になるだろうし、毎日押し掛けられるよりはマシなのかもしれない。一緒に居ても、心を動かされる事は無いと思うけど……。
ー私は、幸せになって良い者ではないからー
「エリーは、甘い物が好きなの?それとも、アップルパイが好きなの?」
「あ…甘過ぎる物は苦手なんですけど、アップルパイは、私が元気が無い時によく母が色々工面して作ってくれた物で……」
『元気が無い時は、甘い物を食べると元気になれるのよ』
「そっか…良いお母さんだったんだな」
「はい。とても、優しくて良い母親でした」
「身内は居ないと言っていたけど、父親は…」
「父とは折り合いが悪くて、その上、顔も殆ど合わせる事も…なかったので………」
「あ、すまない。不躾な質問をしてしまったな」
「いえ、良いんです。もう、二度と会うことはありませんから」
そう。もう二度と会うことは無いのだ。
「あれから、デロイアン嬢から何もされてない?」
「時間があれば、また一緒にランチに行かない?」
と、店に来る度に声を掛けられている。
ー“思い通りに行かない子が珍しい”状態なのかもしれないー
誰が見ても男前だし、表向きは爽やかな近衛騎士様だ。今迄声を掛けて振り向かなかった女性なんていなかっただろう。そんな中での私だ。珍しいおもちゃを見つけて楽しんでると言った感じなのかもしれない。なら、逆に興味があるように振る舞えば離れて行ってくれるのか?答えはきっと“否”だ。そんな風に対応したらしたで、良いように遊ばれるだけなのだから。
「パイが有名なお店があって、食べに行きたいんだけど、あそこは女性が多くて──」
「パイ…………」
「あ、パイ、好きなんだ?」
「っ!」
ついつい『パイ』に反応してしまった私を、嬉しそうな顔をして笑っているラサエル様。
「季節ごとに新作のパイが出るらしくてね。今は…アップルパイだったかな?」
「アップルパイ……」
『いつだって作ってあげるから』
ーそう言って、笑ってたっけー
「───って言う事で、明日、お昼前に迎えに行くからよろしく」
「え?ちょっ──」
「ジルさん、ご馳走様でした。明日、エリーをお借りしますね」
「はいはい…」
ジルさんは困った様に笑っていて、ラサエル様は私の返事を聞く前に店から出て行ってしまった。
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『嫌なら断っても良いと思うわよ』とジルさんには言われたけど、アップルパイが食べたい私は、本当に予定通り迎えに来たラサエル様を断る事はせず、一緒にランチをする事にした。
その迎えに来たラサエル様はと言うと、前回のような無理矢理にでもと言う感じではなく、程良く距離を取ってくれている。
案内されてやって来たのは、大通り沿いではなく一筋外れた通りにある可愛らしいお店だった。
「確かに、男性だけでは入り難いお店ですね」
「だろう?でも、レオが、パイだけじゃなくてランチも美味しいからお勧めだと言っていたから、一度来てみたかったんだ」
ちなみに、お勧めをして来たヘルモルト様は、婚約者と一緒に食べに来たそうだ。
確かに、ランチもボリュームがある物もあり、男性でも満足できるだろうし、デザートの種類も豊富で女性も満足できて、デートにはもってこいのお店かもしれない。
ーコレはデートではないけどー
「とは言えは、傍から見ればデートにしか見えないけどね」
「私の心を読むの止めてもらえますか?」
「読める訳ないよな?パッと見は分かり難いけど、よく見ているとエリーは表情に出てると思う」
「そんなに…見ないでもらえますか!?」
よくもそんな恥ずかしい事をサラッと言えるもんだ。流石、女性の扱いには慣れている。
「好きな子の顔を目で追ってしまうのは、仕方無いだろう?」
「ごふっ───」
ー口撃が半端無いわね!ー
ギロッと睨めば「可愛いね」と返された。意味が分からない。この人は、こんなにも甘い人だった?何なら、あの時の塩対応なラサエル様の方が落ち着く気がする。
「あの…態々爽やかぶらなくても大丈夫です。塩対応で大丈夫です」
「ぶってるつもりはない。いたって普通─と言うか、思ってる事しか口にしてないし、自分の思った通りの行動をしている。寧ろ、エリーと居ると素の自分で居られるから楽なんだ」
「都合の良い女ですか?」
「いや…そこは素直に解釈して欲しいんだけど…でも、今迄の俺を知ってるから、素直に受け入れられる訳ないか……全ては自業自得、ブーメランだな……」
はぁ……と、盛大な溜め息を吐いて、自身の髪をワシャワシャと掻き回すラサエル様は、なんだか子供っぽく見える。
「俺の事、嫌い?それとも、生理的に受け付けなかったりする?」
「嫌いではないし、生理的に受け付けないと言う事もありません」
「なら、頭から拒絶せずに、取り敢えず俺の事、見て考えてみてくれないかな?それでも駄目だったら……その時はその時に考えるとして、暫くの間、今日みたいに俺のとの時間を作って欲しい」
「取り敢えず……友達としてなら……」
「っ!ありがとう!」
どうせ、ここで断ったところで、また結で顔を合わせる事になるだろうし、毎日押し掛けられるよりはマシなのかもしれない。一緒に居ても、心を動かされる事は無いと思うけど……。
ー私は、幸せになって良い者ではないからー
「エリーは、甘い物が好きなの?それとも、アップルパイが好きなの?」
「あ…甘過ぎる物は苦手なんですけど、アップルパイは、私が元気が無い時によく母が色々工面して作ってくれた物で……」
『元気が無い時は、甘い物を食べると元気になれるのよ』
「そっか…良いお母さんだったんだな」
「はい。とても、優しくて良い母親でした」
「身内は居ないと言っていたけど、父親は…」
「父とは折り合いが悪くて、その上、顔も殆ど合わせる事も…なかったので………」
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そう。もう二度と会うことは無いのだ。
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