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壱拾壱
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『ロイド様』と呼ぶようになってから、ロイド様は更に私に甘くなった。時間があれば、仕事終わりの私を待ってくれていて、家迄送ってくれたり、休みの日は一緒に過ごすようになった。
「すっかり忘れてたんですけど、マルティーヌ=デロイアン様はどうなったんですか?」
彼女は侯爵令嬢で、ロイド様を手に入れようと身分まで出して来た。あの時のロイド様は、困った様子も焦った様子もなく言い返していたし、あれ以降、彼女の姿を見ていなかったからすっかり忘れていた。
「ああ、デロイアン嬢なら、暫くの間は社交界には出禁で、今は領地に引き篭もってる」
「出禁?引き篭もり?」
どうやら、ロイド様は王太子の側近としてかなり重要視されているようで、そのロイド様の恋人に手を出したと言う事で、王太子様が直々にデロイアン侯爵に話をつけてくれたそうで、その話を聞いたデロイアン侯爵が激怒して、娘であるマルティーヌ様を領地に引き篭らせ再教育しているそうだ。
「親はマトモだったんですね」
「デロイアン侯爵は真面目な文官なんだけど、娘には少し甘いところがあって。だから、増長したと言うか…でも、これでおとなしくなるだろうし、もう二度とエリーの前には現れないと思うから大丈夫だよ」
にっこり笑っているロイド様。こう言う時のロイド様には、何も突っ込まない方が良い。理由は分からないけど、二度と私の前に現れないと言う事は……本当に二度と会う事はないと言う事だ。
「そんな話より……そろそろ“様”は要らないんじゃないか?」
「あー…何と言うか……クセ?で…」
「敬語はゆっくり待つとは言ったけど、“様”は要らない!あ、今後、“様”を付けたら罰を与える事にしようか」
「罰!?そこまで必要ですか!?」
「俺だって、ただエリーを甘やかすだけじゃないからね」
「えー…でも!ロイドさま────あっ!?」
「はい、罰一つ……」
「──っ!?」
そう言って喰らった罰は──
キスだった。
「なっ……なっ!?」
「顔真っ赤で可愛いな……罰を与えてご褒美を貰った感じだな」
「ごほう──っ!?」
「ロ………ロイドっのバカ!!!」
「ゔ──っ!不意打ちの呼び捨てとバカ呼ばわりのタメ口か!攻撃力が半端無いな!」
「はい!?ほ……本当にバカなの!?」
たったそれだけで、そんな事だけで嬉しそうに笑うなんて思わなかったし、私が顔を赤くしたって可愛くもなんともないのに。
「俺にとっては、エリーの笑顔が一番なんだ。普段アッサリしているエリーも好きだけど、顔を赤くしたエリーはもっと可愛いから抱きしめたくなるし、呼び捨てされてタメ口で喋られたりしたら、エリーの特別になった気がして……色々我慢ができなくなりそうだ…」
「なっ……意味は分からないけど!我慢して!!」
ー“何が?”とは訊かない!ー
「エリー……ポレット………」
と私の名前を呼びながら抱き寄せられた。
「ポレット……復讐しないか?」
「復讐?」
「そう……復讐」
復讐する相手は───
*****
アーティー=ブラウン様
お久し振りです。
ご機嫌伺いはしません。
そちらから飛び出してから数年経ちました。
私の居る所には、獣人の私でも温かく見守ってくれる人間がたくさん居ます。人種が違うと言うだけで見下すような人は居ません。平民の私でも穏やかに暮らせる所です。もっと早く、お母様と一緒にここに来る事ができていれば、私は今頃お母様と2人で、笑って幸せに暮らしていたのかもしれないと……ただただ、それだけが私の心残りでした。そんな思いがあり、私も幸せになってはいけないと思っていました。
でも、そんな私も、心から信頼できる人と出会いました。
彼は、いつも私に寄り添ってくれて、私の欲しい言葉をくれて、私を信じてくれて、私を護ってくれます。とても大切な人です。彼と結婚して、とても幸せです。
私は、ブラウン公爵様とお母様のようにはなりません。絶対に。
そして、ブラウン公爵に手紙を出すのは、これが最初で最後です。私の幸せの邪魔をしない為にも、私の事は捨て置いて下さい。私もブラウンは捨てました。
ブラウン家の幸せは望みませんが……お元気で。さようなら。
*****
「我ながら……何て薄情な手紙を書いたんだろう…」
「どこが?こんなの、まだまだ可愛らしいと思うよ」
これのどこが可愛らしいのか─憎たらしいの間違いじゃない?と思うけど、ロイドは私には甘いからそう思うだけだろうと思う。
「だって、唯一無二の番だと言うのに寄り添う事も護る事もせず、エリーの母上を不幸にして死に追いやったんだろう?もっと心を抉って再起不能に──」
「そこまで望んでないもの……お母様も…そこまでは望まないと思う」
母は、最期の最期迄恨み言を口にする事はなかったから。
「それに、私には、私の代わりに怒ってくれるロイドが居てくれるから、私にはそれで十分なの─ってちょっと!ロイド!?」
「エリーがデレて可愛い!」
ロイドはいつも、何かと理由をつけてギュウギュウと私を抱き締めてくる。
「そこは安心してもらって良いよ。俺は、エリーを甘やかしまくって幸せにする自信しかないから。これからも、安心して俺と一緒に居てくれたら良いから。俺の幸せも、エリーの側にしかないから」
ロイドは、やっぱり私の欲しい言葉をくれる。
「でも…ロイド、ちょっと離してくれる?」
「嫌だ!なんなら、このまま──」
「こんなにギュウギュウ抱きしめられたら……この子が潰れちゃうかも?」
「──────────この子?」
「今日、医者に診てもらったら、妊娠して───」
「エリー!愛してる!!!!」
ロイドは今度は私を優しく抱き寄せて、私の頭にキスをした。
ロイドと結婚して2年。
私は幸せになる事で、ある意味、父であったアーティー=ブラウンに復讐をした。
ここに、お母様が居れば──と思う事もあるけど、今ここにお母様が居なくても、今の私を見て喜んでくれているだろうと思う。
『ポレット……愛してるわ………』
ーお母様、私も、お母様が大好きです。お母様の分迄幸せになりますー
私が妊娠してからの、ロイド様からの甘やかし─溺愛は更に度合いを増した。どこに行くのにも抱き上げられ、時間に余裕があれば一緒に入浴させられた。
お母様が居なくて良かったのかもしれない─と思ったのは、ここだけの話だ。
ポレットは知らない。知る由もない。
エレナ─リュシエンヌ─もまた、溺愛される事になると言う事を───
「すっかり忘れてたんですけど、マルティーヌ=デロイアン様はどうなったんですか?」
彼女は侯爵令嬢で、ロイド様を手に入れようと身分まで出して来た。あの時のロイド様は、困った様子も焦った様子もなく言い返していたし、あれ以降、彼女の姿を見ていなかったからすっかり忘れていた。
「ああ、デロイアン嬢なら、暫くの間は社交界には出禁で、今は領地に引き篭もってる」
「出禁?引き篭もり?」
どうやら、ロイド様は王太子の側近としてかなり重要視されているようで、そのロイド様の恋人に手を出したと言う事で、王太子様が直々にデロイアン侯爵に話をつけてくれたそうで、その話を聞いたデロイアン侯爵が激怒して、娘であるマルティーヌ様を領地に引き篭らせ再教育しているそうだ。
「親はマトモだったんですね」
「デロイアン侯爵は真面目な文官なんだけど、娘には少し甘いところがあって。だから、増長したと言うか…でも、これでおとなしくなるだろうし、もう二度とエリーの前には現れないと思うから大丈夫だよ」
にっこり笑っているロイド様。こう言う時のロイド様には、何も突っ込まない方が良い。理由は分からないけど、二度と私の前に現れないと言う事は……本当に二度と会う事はないと言う事だ。
「そんな話より……そろそろ“様”は要らないんじゃないか?」
「あー…何と言うか……クセ?で…」
「敬語はゆっくり待つとは言ったけど、“様”は要らない!あ、今後、“様”を付けたら罰を与える事にしようか」
「罰!?そこまで必要ですか!?」
「俺だって、ただエリーを甘やかすだけじゃないからね」
「えー…でも!ロイドさま────あっ!?」
「はい、罰一つ……」
「──っ!?」
そう言って喰らった罰は──
キスだった。
「なっ……なっ!?」
「顔真っ赤で可愛いな……罰を与えてご褒美を貰った感じだな」
「ごほう──っ!?」
「ロ………ロイドっのバカ!!!」
「ゔ──っ!不意打ちの呼び捨てとバカ呼ばわりのタメ口か!攻撃力が半端無いな!」
「はい!?ほ……本当にバカなの!?」
たったそれだけで、そんな事だけで嬉しそうに笑うなんて思わなかったし、私が顔を赤くしたって可愛くもなんともないのに。
「俺にとっては、エリーの笑顔が一番なんだ。普段アッサリしているエリーも好きだけど、顔を赤くしたエリーはもっと可愛いから抱きしめたくなるし、呼び捨てされてタメ口で喋られたりしたら、エリーの特別になった気がして……色々我慢ができなくなりそうだ…」
「なっ……意味は分からないけど!我慢して!!」
ー“何が?”とは訊かない!ー
「エリー……ポレット………」
と私の名前を呼びながら抱き寄せられた。
「ポレット……復讐しないか?」
「復讐?」
「そう……復讐」
復讐する相手は───
*****
アーティー=ブラウン様
お久し振りです。
ご機嫌伺いはしません。
そちらから飛び出してから数年経ちました。
私の居る所には、獣人の私でも温かく見守ってくれる人間がたくさん居ます。人種が違うと言うだけで見下すような人は居ません。平民の私でも穏やかに暮らせる所です。もっと早く、お母様と一緒にここに来る事ができていれば、私は今頃お母様と2人で、笑って幸せに暮らしていたのかもしれないと……ただただ、それだけが私の心残りでした。そんな思いがあり、私も幸せになってはいけないと思っていました。
でも、そんな私も、心から信頼できる人と出会いました。
彼は、いつも私に寄り添ってくれて、私の欲しい言葉をくれて、私を信じてくれて、私を護ってくれます。とても大切な人です。彼と結婚して、とても幸せです。
私は、ブラウン公爵様とお母様のようにはなりません。絶対に。
そして、ブラウン公爵に手紙を出すのは、これが最初で最後です。私の幸せの邪魔をしない為にも、私の事は捨て置いて下さい。私もブラウンは捨てました。
ブラウン家の幸せは望みませんが……お元気で。さようなら。
*****
「我ながら……何て薄情な手紙を書いたんだろう…」
「どこが?こんなの、まだまだ可愛らしいと思うよ」
これのどこが可愛らしいのか─憎たらしいの間違いじゃない?と思うけど、ロイドは私には甘いからそう思うだけだろうと思う。
「だって、唯一無二の番だと言うのに寄り添う事も護る事もせず、エリーの母上を不幸にして死に追いやったんだろう?もっと心を抉って再起不能に──」
「そこまで望んでないもの……お母様も…そこまでは望まないと思う」
母は、最期の最期迄恨み言を口にする事はなかったから。
「それに、私には、私の代わりに怒ってくれるロイドが居てくれるから、私にはそれで十分なの─ってちょっと!ロイド!?」
「エリーがデレて可愛い!」
ロイドはいつも、何かと理由をつけてギュウギュウと私を抱き締めてくる。
「そこは安心してもらって良いよ。俺は、エリーを甘やかしまくって幸せにする自信しかないから。これからも、安心して俺と一緒に居てくれたら良いから。俺の幸せも、エリーの側にしかないから」
ロイドは、やっぱり私の欲しい言葉をくれる。
「でも…ロイド、ちょっと離してくれる?」
「嫌だ!なんなら、このまま──」
「こんなにギュウギュウ抱きしめられたら……この子が潰れちゃうかも?」
「──────────この子?」
「今日、医者に診てもらったら、妊娠して───」
「エリー!愛してる!!!!」
ロイドは今度は私を優しく抱き寄せて、私の頭にキスをした。
ロイドと結婚して2年。
私は幸せになる事で、ある意味、父であったアーティー=ブラウンに復讐をした。
ここに、お母様が居れば──と思う事もあるけど、今ここにお母様が居なくても、今の私を見て喜んでくれているだろうと思う。
『ポレット……愛してるわ………』
ーお母様、私も、お母様が大好きです。お母様の分迄幸せになりますー
私が妊娠してからの、ロイド様からの甘やかし─溺愛は更に度合いを増した。どこに行くのにも抱き上げられ、時間に余裕があれば一緒に入浴させられた。
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