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辺境伯
しおりを挟む「ここに居ても…息が詰まるだけだろう?フェリシティの気持ち次第だが……お前も、寮に入るかい?」
「え…でも…」
たしかに、こんな所に居るよりは寮に入る方が良い。
でも、誰もが寮に入れる訳じゃない。そもそも、エルダイン邸と学園は馬車で20分程で行ける為、態々寮に入る必要が無い。馬車で1時間以上掛かる事や、王都に邸を持っていない家の子息子女が入れるのだ。私には、どれにも当てはまらない。
「理由なら、いくらでも作れる。だから、フェリシティの気持ちを言ってくれたら良い。」
黙り込んだ私に、もう一度兄が問い掛けてくる。
「──ここより…寮の方が良い…けど…。ココが……。」
「安心して良いよ。フェリシティは第一王子の婚約者候補の1人だからね。入寮となっても、護衛を兼ねての侍女を1人連れて行く事ができる。ココは…もともと護衛も兼ねているだろう?」
目をパチクリとさせる。ココが護衛兼侍女とは、殆どの人が知らない事だ。当然、兄も知らないと思っていた。
「あぁ、母上は知らないと思うし、知らせるつもりもないから。よし、それじゃあ、フェリシティの入寮の手続きをしないといけないね。」
と、また兄はどこか嬉しそうに笑う。
「お兄様…そんな勝手な事をしたら……」
「そうよ!シリル、何を勝手な事をしようとしているの!?」
私達3人が話している間、ミルアがコソッと逃げて行ったなぁ─と思っていたら、義母のブリジットを連れて戻って来た。
怒りを顕にする義母の後ろで、ミルアはニヤニヤと嗤っている。
ー本当に良い性格をしているわねー
「母上、勝手ではありませんよ。このままフェリシティをここに置いておくと、何をされるか分かりませんからね。母上の方こそ分かっているんですか?フェリシティは、第一王子の婚約者候補の1人ですよ。フェリシティに何かあれば、問われるのは父上と母上ですよ。」
「何も起こらないわよ。それに、まともに王妃教育を受けていないこの子が、婚約者になれる筈もないでしょう。シリルも知っているでしょう?この子は、既に第一王子から見限られているって事を。」
ニタリと嗤う義母。
ーこの人は、本当に何も知らないのねー
いや。私も義母には一切報告をしていないけど。それでも、一応最低限の事として、王妃教育については、カーソンを通じて父には報告をしている。勿論、先日終了した事も報告済みだ。と言う事は、義母はカーソンからも父からも何も聞かされていないと言う事だ。
「──母上は…何も知らないのですね。と言うより…知ろうとされないのですね。」
「何を──」
「兎に角、フェリシティはここに居ても良い事はないので、入寮の手続きをします。邪魔をするようなら、今迄の行いを父上に報告します。」
ー父に報告─したところで…どうにかなるのかしら?ならないと思うけどー
と思ったのは私だけだったようで
「──ふん。好きに…すれば良いわ。入寮できずに無駄になるだけでしょうけどね。それと…チェスター様も、他国の貴族の問題に、たかだか落ちぶれた辺境伯の子息でしかない貴方が口を出して…ただで済むとお思いですか?」
「落ちぶれた…辺境伯の子息…ですか…。本当に…このご夫人は何も知らないんだな。」
「チェスター様、申し訳ありません。」
兄がリオに頭を下げて謝っているのを横目で見た後、リオはその冷たい目で義母をしっかりと見据えた。
「エルダイン夫人の私に対する気持ちは分かりました。ただ、二点程訂正を。一つ目。私は、チェスター辺境伯の子息ではなく─私自身がチェスター辺境伯現当主です。」
ーえ!?ー
「そして二つ目。この国の辺境伯の扱いはどうか知りませんが、我が国カルディーナでの辺境伯は、侯爵と同等の扱いになります。この私への扱いは、ここ、コルネリア王国でも同じだと、コルネリアの国王陛下も同意されています。ですから、今のエルダイン夫人の言葉、侮辱罪として訴える事もできます。」
「──げん…当主……」
義母は一瞬にして顔色を悪くさせたのに反し、リオはニッコリと微笑む。
「──そうですね…これ以上、私達のやる事に口を出さない事と、フェリシティには関わらない事を守ってもらえれば、今の事も、今迄の事も目を瞑りますよ?」
「────っ。分かっ──分かりました。」
義母は、何とか絞り出した声でそれだけ言うと、ミルアを引き連れて邸の奥へと入った行った。
「それでは、私は手続きの準備をするので、失礼します。チェスター様、後は宜しくお願いします。」
「あっ──お兄様、ありがとう…ございます!」
「─いや、フェリシティがお礼を言う必要はないよ。」
と、フワリと微笑んだ後、兄はそのまま執務室の方へと向かって行った。
ー今すぐ…は無理だけど…兄とは一度、ちゃんと話をした方が良いかもしれないわね。でも、その前に…ー
「リオが急に国に帰って、連絡が取れなかったのは……辺境伯の引き継ぎに関して…だったの?」
「全部は話せないけど…俺の話を聞いてくれる?」
リオは私の手を取って、その私の指先に口付けた。
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