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5 リシャール
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『ヤりますか?』
「キースもカイルスさんも、何もしなくて良いからね?」
店を出てから、屋台でクレープを買って公園にやって来た。そこで、店でのやり取りをキースに説明すると、物騒な言葉が飛び出した。
今すぐに何かをするつもりはないけど、このまま放っておくつもりもない。
「兎に角、感情的に動いても良い結果にはならないから、また落ち着いてから話し合うとして……本当に普段着は欲しいから、貴族向けじゃなくても良いから、何処か良い所はない?」
正直、着られれば何でも良い。そもそも平民生活が長いから、高級な服でなくても問題無い。
『それなら、平民相手のお店に行ってみますか?』
と、キースの案内でやって来たのは、平民御用達のお店だった。そこには、お手軽な物からシンプルなドレス迄色んな服が揃っていた。
「まさかリシャールさんが買いに来てくれるなんて」
しかも、歓迎してくれている。
「リシャールさんには感謝してるんですよ。平民の私達の言葉にも耳を傾けてくれて、直ぐに対応してくれるから、本当に助かっているんです」
ーちゃんと見ている人は見ているんだー
貴族よりも、平民の方が柔軟なのかもしれない。
「私も、リシャールには感謝しているから、お礼に服をプレゼントしようと思ってるんだけど、何着か見繕ってくれる?」
「はい!お任せ下さい!」
「そんな、お礼なんて──」
「拒否権は無いから」
にっこり微笑むと、リシャールはそれ以上は何も言って来なかった。
*リシャール視点*
イーデン=ウィンストン
ベレニス=ウィンストン
私の両親は番で結ばれた仲の良い夫婦だった。だから、『羨ましい』『憧れの夫婦だ』と言われていたし、両親からは愛情を受けていた自覚もあった。でも、幸せそうには見えなかった。
父は竜騎士団の副団長だったけど、私に武の才能は無かった。それでも、父も母も呆れる事も無く私を大切に育ててくれた。そんな優しい父と母が、まさかあんな事をするとは思わなかった。
“救国の聖女”ユマ様
“西の守護竜”マシロ様
代わりの居ない存在の2人を殺そうとした。
そんな事も知らずに、私はあのパーティーでマシロ様に挨拶をした。マシロ様は白竜なのに黒色の髪と瞳の綺麗な人で、私にも優しくて接してくれた。それなのに、母はまた、殺そうとしたのだ。
その報せを受けたのは夜中だった。それからは大変だった。父と母は地下牢に入れられたようで、私は自宅に監禁状態になり、色々と事情聴取をされ、そこで今迄知らなかった事実を知る事になった。
父とユマ様が恋仲だった事
マシロ様が、異母姉だと言う事
番だった母は、その事実を受け入れられず、ユマ様とマシロ様を排除しようとしたのだ。それに同調した父。息子でありながら、2人が幽閉されると聞いても何も思わなかった。当然の事だと。私も同じ罰を受けるのだと思っていた。
『罪を犯したのはイーデンとベレニスであって、貴方ではないわ。貴方が償う罪など何も無いわ』
と、ユマ様とマシロ様に言われて、私は平民落ちにはなったけど、マシロ様と一緒に西の離宮に住む事になり、おまけに『自分に領地運営は無理だから』と、領地運営の手伝いをする事になった。そうやって、私がここに居て良い理由を作ってくれたのだ。離宮に居る使用人達は、私を偏見の目で見て来る者は居ない。
それでも、街に降りると実感する。街には、私を嫌悪する貴族や商人が居る。それは仕方無い。私は本当に“罪人の子供”で、幽閉されている親を放っておいて、のうのうと生きているのだから。
それなのに、マシロ様は何度も私に手を差し伸べて救ってくれるのだ。マシロ様もユマ様も、私からの恩返しなど求めてはいないのだろうし、私の力など微々たるものだろうけど、私はこれから先、ユマ様とマシロ様に私のできる限りの力で支えて護っていきたいと思っている。
「リシャールはブルー系が似合うね。うん、この3着をお願いするわ」
「畏まりました。それと、このハンカチはこちらからのサービスでお付けさせていただきます」
「ありがとう」
屈託無く笑うマシロ様。
その笑顔が失われる事の無いように──
******
「リシャールさん、おかえりなさい」
「ただいま。イネスさん、これ、お土産です。皆で召し上がって下さい」
「いつもありがとうございます」
街に降りるとどうしても緊張するけど、離宮に帰って来ると落ち着く。
「リシャールさんはこれから、執務室に向かいますか?」
「はい。今日の視察の内容を纏めるつもりです」
「では、後でお茶をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
遠慮すると、イネスさんには怒られるから、遠慮する事は諦めて、素直に受け入れるようにしている。
「───失礼する」
「ん?───ん………」
後ろでマシロ様とカイルス様の声が聞こえて振り返ると、うとうととしているマシロ様を抱きかかえているカイルス様が居た。
「…………」
そのカイルス様は、何度見てもあの竜騎士カイルス様だとは思えない程の優しい目をしている。
ー父とは全く違うー
父もあの様な優しい目を母に向けていれば、何か変わっていたのかもしれないと思ったところで、今更だろう。
「キースもカイルスさんも、何もしなくて良いからね?」
店を出てから、屋台でクレープを買って公園にやって来た。そこで、店でのやり取りをキースに説明すると、物騒な言葉が飛び出した。
今すぐに何かをするつもりはないけど、このまま放っておくつもりもない。
「兎に角、感情的に動いても良い結果にはならないから、また落ち着いてから話し合うとして……本当に普段着は欲しいから、貴族向けじゃなくても良いから、何処か良い所はない?」
正直、着られれば何でも良い。そもそも平民生活が長いから、高級な服でなくても問題無い。
『それなら、平民相手のお店に行ってみますか?』
と、キースの案内でやって来たのは、平民御用達のお店だった。そこには、お手軽な物からシンプルなドレス迄色んな服が揃っていた。
「まさかリシャールさんが買いに来てくれるなんて」
しかも、歓迎してくれている。
「リシャールさんには感謝してるんですよ。平民の私達の言葉にも耳を傾けてくれて、直ぐに対応してくれるから、本当に助かっているんです」
ーちゃんと見ている人は見ているんだー
貴族よりも、平民の方が柔軟なのかもしれない。
「私も、リシャールには感謝しているから、お礼に服をプレゼントしようと思ってるんだけど、何着か見繕ってくれる?」
「はい!お任せ下さい!」
「そんな、お礼なんて──」
「拒否権は無いから」
にっこり微笑むと、リシャールはそれ以上は何も言って来なかった。
*リシャール視点*
イーデン=ウィンストン
ベレニス=ウィンストン
私の両親は番で結ばれた仲の良い夫婦だった。だから、『羨ましい』『憧れの夫婦だ』と言われていたし、両親からは愛情を受けていた自覚もあった。でも、幸せそうには見えなかった。
父は竜騎士団の副団長だったけど、私に武の才能は無かった。それでも、父も母も呆れる事も無く私を大切に育ててくれた。そんな優しい父と母が、まさかあんな事をするとは思わなかった。
“救国の聖女”ユマ様
“西の守護竜”マシロ様
代わりの居ない存在の2人を殺そうとした。
そんな事も知らずに、私はあのパーティーでマシロ様に挨拶をした。マシロ様は白竜なのに黒色の髪と瞳の綺麗な人で、私にも優しくて接してくれた。それなのに、母はまた、殺そうとしたのだ。
その報せを受けたのは夜中だった。それからは大変だった。父と母は地下牢に入れられたようで、私は自宅に監禁状態になり、色々と事情聴取をされ、そこで今迄知らなかった事実を知る事になった。
父とユマ様が恋仲だった事
マシロ様が、異母姉だと言う事
番だった母は、その事実を受け入れられず、ユマ様とマシロ様を排除しようとしたのだ。それに同調した父。息子でありながら、2人が幽閉されると聞いても何も思わなかった。当然の事だと。私も同じ罰を受けるのだと思っていた。
『罪を犯したのはイーデンとベレニスであって、貴方ではないわ。貴方が償う罪など何も無いわ』
と、ユマ様とマシロ様に言われて、私は平民落ちにはなったけど、マシロ様と一緒に西の離宮に住む事になり、おまけに『自分に領地運営は無理だから』と、領地運営の手伝いをする事になった。そうやって、私がここに居て良い理由を作ってくれたのだ。離宮に居る使用人達は、私を偏見の目で見て来る者は居ない。
それでも、街に降りると実感する。街には、私を嫌悪する貴族や商人が居る。それは仕方無い。私は本当に“罪人の子供”で、幽閉されている親を放っておいて、のうのうと生きているのだから。
それなのに、マシロ様は何度も私に手を差し伸べて救ってくれるのだ。マシロ様もユマ様も、私からの恩返しなど求めてはいないのだろうし、私の力など微々たるものだろうけど、私はこれから先、ユマ様とマシロ様に私のできる限りの力で支えて護っていきたいと思っている。
「リシャールはブルー系が似合うね。うん、この3着をお願いするわ」
「畏まりました。それと、このハンカチはこちらからのサービスでお付けさせていただきます」
「ありがとう」
屈託無く笑うマシロ様。
その笑顔が失われる事の無いように──
******
「リシャールさん、おかえりなさい」
「ただいま。イネスさん、これ、お土産です。皆で召し上がって下さい」
「いつもありがとうございます」
街に降りるとどうしても緊張するけど、離宮に帰って来ると落ち着く。
「リシャールさんはこれから、執務室に向かいますか?」
「はい。今日の視察の内容を纏めるつもりです」
「では、後でお茶をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
遠慮すると、イネスさんには怒られるから、遠慮する事は諦めて、素直に受け入れるようにしている。
「───失礼する」
「ん?───ん………」
後ろでマシロ様とカイルス様の声が聞こえて振り返ると、うとうととしているマシロ様を抱きかかえているカイルス様が居た。
「…………」
そのカイルス様は、何度見てもあの竜騎士カイルス様だとは思えない程の優しい目をしている。
ー父とは全く違うー
父もあの様な優しい目を母に向けていれば、何か変わっていたのかもしれないと思ったところで、今更だろう。
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