異世界で守護竜になりました

みん

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44 秘恋

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*竜王バージル視点*



黒竜として生まれると、生まれた瞬間から、将来は竜王になる事がほぼ決まっていると言われている。
黒竜と言うだけで、竜力が多く強力で、武においても長けていているからだ。
そして、その通り、俺は竜王になった。しかも、竜王になってから暫くして、俺はネグロに選ばれて“北の守護竜”となった。


白竜もまた、珍しい色で滅多に居ないが、力に関してはその竜によって違って来る。現在竜王国に居る白竜は3人。1人は俺よりも遥か年上の女性で、ごくごく普通の竜人だ。何度か会った事もあるが、とても穏やかな夫人だった。2人目はジャスミーヌ=ハイエット元公爵。白竜と言うだけで傲慢になり身を滅ぼした。同じ白竜のマシロとは、何もかもが全く別の生き物だった。あの女が、マシロに勝る筈が無い。


西の守護竜となったマシロの母親は、異世界から召喚されてやって来たトリイ=ユマ。

ユマを初めて目にした時は驚いた。黒色の髪と瞳があまりにも綺麗で、自分の黒色がくすんでいるようにも見える程だった。ただ、召喚に関して、俺は少し抵抗があった。異世界から身勝手に召喚して、この世界を救ってもらう──何ともおかしな話だろうか。オールステニアの魔道士レナルドもまた、不満を持っているようだった。
それでも、ユマは嘆く事も泣く事もせず、魔王国からやって来たプラータ王子と魔道士レナルドからの訓練を受け、この世界を救ってくれた。

“救国の聖女”“戦闘の聖女”

ユマにはピッタリの名だった。

気が付けば、俺はいつもユマを目で追っていた。きっと、同じでありながら、俺とは違う黒色だからだろう。ただ、そうして目で追っているうちに、気付いた事があった。

ユマは、護衛騎士のイーデン=ウィンストンと恋仲である事。

魔道士レナルドもまた、聖女ユマに好意がある事。

まぁ、レナルドに関しては、本人は自覚していないだろうし、ユマもイーデンも、レナルドの想いには気付いていないようだ。
3人はそれぞれに種族が違う。ユマは生まれて過ごして来た世界すら違う。

ーこのまま何事もなく過ごせれば良いのだがー

と言う俺の思いは虚しく、イーデンの番であるベレニスが現れてからの事は……言うまでも無い。

レナルドが救いを求めて俺の所にやって来た時の事は、今でもハッキリと覚えている。

「ユマを元の世界に戻します」

確実に戻れる確証は無いにも関わらず、ユマは躊躇う事もなく、凛とした姿でレナルドの隣に立っていた。迷いの無い綺麗な瞳で、吸い込まれそうな黒色だ。
ユマは、恋人のイーデンよりも、我が子を選んだのだ。怖くない訳ではないんだろうに、ユマの決断が変わる事は無いと言う事だけは分かった。

「ならば、俺も力を貸そう」

そう言って、俺とレナルドでユマを元の世界へと送り出した。

魔法陣が消えた後、そこにユマの姿は無かった。無事に戻れたかどうかも分からないが、あのユマの事だから、きっと大丈夫だろうとも思う。

それから暫くして、レナルドが魔道士の団長を辞めたと報せが届いた。




「竜王陛下、大丈夫ですか?」
「ん?大丈夫だが?」

珍しく、ネグロが心配そうな顔を俺に向けていた。

「大丈夫なら……良いのですが……」

歯切れの悪いネグロも珍しい。『大丈夫だ』と言ったものの、何を訊かれて大丈夫だと言ったのか分からない。正直、大丈夫なのかどうかが分からない。いつからだったか、体の何処かに穴が空いたような錯覚に陥る時がある。その穴を埋めようとしても、何処に穴があるのか、何をすれば埋まるのかが分からないのだ。

でも、それは月日が経つと無くなっていき、もう何年もの間忘れ去っていた。





******


人身売買オークションで保護した1人が、ユマと同じ黒色の髪と瞳の少女─マシロだった。マシロもまた、身勝手に召喚された異世界の者だった。

か弱く見えるのに、何とも形容し難い空気を纏っている少女。マシロの瞳もまた、真っ直ぐ前を見ている。その瞳は、ユマを思い出させる瞳だった。


そして驚いた事に、ユマが数年前にこの世界に再びやって来ていた上に、マシロがユマとイーデンの娘だった。


「久し振りね、バージル」
「そうだな………」
「流石竜人ね。最後に会った時と全く変わってないわね。羨ましい限りだわ」

と言って、ふふっ─と笑う20年程ぶりのユマは、相変わらずの魔力を纏っていた。黒色の髪も瞳も昔のままだが、少女だった面影は無くなっていた。人間はあっと言う間に歳を重ねて老いていくのだと実感する。歳をとったと言っても、ユマは変わらず綺麗だ。

「………………」

そこで、何かのピースが埋まった。

ーあぁ、なるほど…そう言う事かー

チラッとネグロに視線を向けると、珍しく困った様な顔で笑っていた。

側衛ネグロだから気付いていたのか?ー


トリイ=ユマは、俺の番だったのだ


そう認識すると、体に空いた穴が埋まり、視界がクリアになり、晴れた気持ちになった。ユマに対して愛しさはあるが、執着は無い。それは、守護竜となった瞬間、番との繋がりが切れていたからだ。

ーユマに出会う前に守護竜になっていて良かったー

ユマは異世界の普通の人間だ。黒竜の番なんてものになっていたら、ベレニスの比では済まなかった可能性もある。ユマを傷付けずに済んだのだ。それに、ユマはレナルドを───
レナルドは未だに自覚していないが、2人がお互いを信頼しているのは分かるし、ある程度、心を許しているのも分かる。そんな2人を──ユマを見ても心が痛む事はないし、ユマが笑顔ならそれで満足している自分が居る。俺とではなく、ユマが幸せならそれで良い。ユマが俺の番だったと言う事は、誰にも言うつもりは無い。これから先も、俺はユマの幸せを願いながら見守るだけだ。




それからも、なかなか2人の仲は進展せず、ベレニスとイーデンに命を狙われた挙句、マシロが西の守護竜に選ばれた。まさか、マシロ番の娘と縁が繋がるとは思わなかった。マシロはユマとは見た目は似ていないが、ふとした表情や雰囲気や芯のしっかりしたところはユマにそっくりだ。マシロに対しては、孫や姪を見ているような感覚になっている。そんなマシロは、カイルスが気になるようで、カイルスもまた、マシロが気になっている──と言うより、もう囲い込もうとしている。

「竜人の血を引き継ぐ鷲獣人か………面白いな」

竜人も鷲も、執着タイプだ。カイルスが本気を出せば、マシロは逃げられないだろう。マシロが嫌がれば俺が救えば良い。マシロの幸せは、ユマの幸せに繋がるのだ。


ーどうか、ユマとマシロが幸せでありますようにー





数年後、マシロが生んだ白色と黒色の双子の鷲は、可愛い以外の何者でも無かった。





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