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第11話:桜花スクールのひととき
しおりを挟む「陽菜、今日は学校に行くの?
まだ体がだるいなら、無理していかなくてもいいのよ。」
ママが私の部屋で、声をかけてくれた。
「うん、大丈夫だよ。
加奈ちゃんたちにも、会いたいから。」
「そう、気を付けて行くのよ。
くまちゃん、陽菜をよろしくね。」
「母上様、しかと心得ました。」
「……くまちゃんって、騎士様? だったの?」
思わず笑ってしまった。
ママもつられて笑っていた。
これ、絶対加奈ちゃんの影響だよね。
「それじゃ、ママはお仕事だから、先に出るわね。」
「行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃいませ、奥方様。」
くまちゃんは相変わらず「騎士様」をしていた。
これはもう、加奈ちゃんに言うしかないかな。
「おはよう、陽菜ちゃん。」
「よお、おはよう。」
今日は加奈ちゃん、蓮くんと一緒なんだね。
私は昨日、抹茶プリンを食べたこと、くまちゃんが「騎士様」になっていたことを話した。
「ふっふー。やっぱり持ち主に似るとか?
『陽菜ちゃんを守りたい』って気持ちは、伝わったのかな?
だって陽菜ちゃん、可愛いんだもの。」
「ええ? そんなことないよう。」
「そんなことないって。
最近の陽菜ちゃん、よくお話しするし、かわいいって。
ね、蓮もそう思うでしょ?」
「ああ。」
そっけなく返事した蓮くんは、加奈ちゃんを見ていた。
加奈ちゃん、気付いてあげて……。
「ところで、今日はどうするの?
いつもみたいに、一緒に授業を回る?」
「そうね、今日の1コマ目は……英語を選択したよ。
蓮は、どうするの?」
「俺、英語はパス……アルファベットの行列は、蟻のように見えて……。
集団で襲い掛かって、僕の時間と才能を咬むんだ……。」
「それじゃ、音楽室にいるのね。
わかったわ。
あとで行くわね。」
「ああ、待ってるぜ、相棒。」
英語の授業は、大きなスクリーンにドラマを写した教材だった。
「今日は、このドラマのワンシーンを見て、英語の勉強をしますよ。
日本のドラマの中で、外国人の“サムおじさん”が書いた、英語の手紙を読み上げるシーンだね。
最初は、手紙の英語に日本語の字幕をつけて流します。
まずは、何を伝えているか、日本語で感じ取ってください。」
「ドラマを見て、英語の勉強なんて、なんか新鮮だね。」
「私、このドラマ、ずっと見ているの。今日は泣いちゃうかもね。」
加奈ちゃんは手元のライトをつけて、ペンとノートを用意していた。
すっかり準備OKだ。
「それじゃ、始めますよ。」
スクリーンに映ったのは、小さな箱と、その中の指輪。
戦争で愛する人を失った『サムおじさん』が、指輪とともに遺された想いを綴るシーンだった。
>To my dear Sarah
>僕の愛しいサラへ
>I am giving this ring, which was meant to be given to you, to my dear friend's daughter, Saori.
>君に送るはずだったこの指輪を、僕の親しい友人の娘、さおりにあげるよ。
>This ring was meant to be passed down to our children and grandchildren, just as you wished.
>この指輪は君が望んだとおり、僕たちの子供や孫に引き継がれていくはずだったね。
>But even if I had it forever, it would end without fulfilling its mission.
>でも、いつまでも僕が持っていても、この指輪はその使命を果たすことなく終わってしまう。
その一文に、胸がぎゅっとなった。
> The love we swore to each other at the end will be passed down forever to Saori and her children, and will become immortal.
>最期に僕たちが誓った愛は、さおりとその子供たちに永遠に引き継がれ、不滅のものになるんだよ。
>I pray that this ring becomes a talisman of happiness for Saori's family.
>この指輪がさおりの家族にとって、幸せのお守りになりますように。
加奈ちゃんは、ペンを持ったまま、じっと画面を見つめていた。
>Please pray for our daughter's happiness from heaven.
>天国から私たちの娘の幸せを祈ってあげてください。
静かな声で読まれるその言葉は、英語なのに、なぜかよくわかる気がした。
英語の『意味』じゃなくて、『気持ち』が伝わってくるようだった。
「うわぁ……」
加奈ちゃんが、そっとハンカチで目を押さえた。
先生は、にこにこしながら私たちを見ていた。
やっぱり、泣かせにきたよね、これ。
英語がうまく聞き取れたわけじゃない。
でも、確かに感じた。
「どうだった?
なんて言っているか、少しずつわかってきたでしょ?」
「先生、ずるいよ。
こんなの出されたら、泣くしかないでしょう。」
加奈ちゃんは、また目元を拭いた。
ずっとドラマを見ていたなら、この感動シーンは泣いちゃうよね。
先生はそんな私たちの反応を見て、満足げにうなずいていた。
泣いちゃった生徒を見て、「しめしめ」って思ってるに違いない。
言葉って、文字だけじゃなく、そこに気持ちが込められると、物語になるんだね。
英語の授業の後は、洗面台が混雑していた。
『泣かされる英語』の授業は、いつの間にか学校の伝説になっていた。
「ご飯食べたら一緒に、アイツの所へ行こうよ。」
加奈ちゃん、ちょっと嬉しそうだった。
お昼休みに、加奈ちゃんと一緒に蓮くんに会いに行った。
もちろん『茶娘まっちゃん』のテーマソングの話だった。
「私ね、初めて抹茶味のお菓子を食べたの。
昨日はプリンだった。」
「コンビニにあるアイスの中でも、ちょっとリッチなカップアイス、あるよね。」
「ふむ、貴公子たる僕が食すにふさわしい。」
「コンビニの抹茶アイスね……安い貴公子様だこと……。」
「抹茶味の特徴?
ほろにが……さっぱり……さわやか……?」
「ほんのり甘さもあるわね。」
「そういう味だよね。」
「そう、まるで僕の心のよう。」
「もうそのキャラ、しつこい。」
「でも……心かぁ。
そういう解釈、悪くないかもね。」
「それで、天才音楽家君は、どう表現するの?」
「CMに使うのなら、インパクトが大事だよな。
15秒と30秒、それからイベント用のフルバージョンが必要だ。
特に15秒では、インパクトと言いたいことをぎゅっと詰め込む必要がある。」
「……難しいんだね。」
「だから、挑むのさ。」
今の蓮くん、ちょっとカッコよかった。
だって加奈ちゃん、さっきから蓮くんのことばっかり見てる。
「『賢者陽菜』よ、我とともに『茶娘まっちゃん』を救うのだ。
そして『魔導士加奈』よ、世に『茶娘まっちゃん』の存在を、知らしめるのだ。」
これって、冒険のお話なの?
……『茶娘まっちゃん』って、確かゆるキャラだったよね。
蓮くんの雄叫びに、くまちゃんのスイッチが入ったみたい。
「『勇者蓮』はこうして賢者と魔導士に出会い、旅立つのでした。」
「もう、くまちゃんまで。
私たち、何キャラよ……。」
加奈ちゃんが、呆れた顔で、そう言っていた。
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