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第18話:それから……
しおりを挟む翌日、京都から帰って来た私たちを出迎えたのは、学校の先生たちと、その後ろでぴょんぴょん跳ねてるパパだった。
「おかえり陽菜、ママもお疲れ様。」
「うん、ありがとう。」
「パパ、これからこの子たち、大変かもね。」
「それは?」
「だってこの子たち、デビューしちゃったんだから。」
パパにはこの時、この言葉の意味が分からなかったみたい。
「陽菜、京都は楽しかったかい?」
「うん、すごく緊張したけど、いろんなことがあって……。
でも忙しくて、楽しかった。」
「そうね、まず土曜日は契約と、午後から撮影でしょ?
それからみんなで会食して、その場でもこの子たち、歌を披露したのよ。」
「それでね、会食の時に聞いたんだけれども、このあともたくさんお仕事があるみたいなの。
これから『茶娘まっちゃん』のイベントごとに、シナリオを書くんだよ。
そのイベントごとにお菓子のメーカーさんが商品の紹介をするから、それに合わせてシナリオを書くんだって。」
そう話している私にも、それがどういうことかはよくわかっていなかった。
「まぁ、話はあとでゆっくりと聞くことにしよう。
疲れているだろ?
家に帰ろうか。」
「そうね、そうしましょう。」
ママは学校の先生や加奈ちゃんのお母さんたちに挨拶していた。
私は加奈ちゃんと蓮くんに、「また明日」と言って帰ってきた。
パパは車で私たちを家まで送ると、そのままお仕事に出かけて行った。
どうやら仕事の途中だったみたい。
家に帰ると早速、くまちゃんをコンセントにつないで、充電しながらお話した。
「ねぇくまちゃん。
これから大変になるって、どういうことかな?」
「それは、陽菜ちゃんと加奈ちゃん、蓮くんが、もうCM制作のチームに入ったんだよ。」
「もう?」
くまちゃんがちょっと黙ってから、
「昨日のCMの会社『スタジオJet』がアップした動画に、三人が紹介されているよ。」
「え? どういうこと?」
私にはちょっとわからなかったけど、
そのあとくまちゃんがタブレットに転送してくれた動画を見て、びっくりした。
「うそ、やだ、なにこれ……。」
ドキュメント『まっちゃんの舞台裏』という動画がアップされていた。
そこに映し出されていたのは、即興で寸劇に取り組む私たちと、それを支えてくれた人たちの話。
さらに記者たちの反応が映し出されていた。
「ねぇ、ママ、これ見てよ。」
私はくまちゃんを連れて、リビングでママとこの動画を見た。
「これは映画のメイキングのように、よくできているわね。
さすがプロよね。」
「それはいいけど、ここ見てよ。」
そこには私たちが『桜花スクール勇者パーティ』として、紹介されていた。
脚本:賢者ヒナ/音楽:勇者蓮
出演:『茶娘まっちゃん』演技:今野誠二(スタジオJet)/CV:魔導士カナ
騎士くまちゃん CV:賢者ヒナ
「見てここ、視聴数が2万って、これみんなが見たってこと……だよね。」
「そうね、これじゃもしかして、お仕事の動画よりもたくさん見られているかもね。」
京都工業茶製造協会主催、『茶娘まっちゃん』イメージソングコンテスト、表彰式
視聴数、たったの……1967。
これって、いいのかな?
「まぁ、ちゃんとこの動画からも、リンクで見られるようになっているわね。」
たくさんの人が、私達を見てる……。
明日から、どうなっちゃうんだろう?
パパが慌てて帰ってきた。
「陽菜、急にスターになっちゃったみたいだね。
もうパパの会社は大騒ぎだよ。」
「どういうこと?」
「いや、動画を……そう、この動画。
営業部がえらい盛り上がってさ……。
チーフが、お嬢さんが出ているならって、店の大型モニターに映してくれたんだよ。
表彰式の動画を見た後に、ドキュメント『まっちゃんの舞台裏』というのを出してくれたんだ。
これがすごい人気だって言うじゃないか。
部長が次の仕事を任せてもいいってくらいに……。」
「でもまだ、学校には行きたいかな。」
「もちろん、陽菜がそうしたいなら、そうすればいいよ。」
明日学校で加奈ちゃんたち、なんていうかな。
次の日、学校で私達三人は『勇者パーティ』だった。
特に蓮くんが、女子からキャーキャー言われていた。
蓮くんが調子に乗って、手を振ると、一層その声が大きくなった。
「そういうのもね、一時的なのよ。
今のうちに楽しんでなさい。
いつもだったら、顔を真っ赤にして、隠れちゃうほどのヘタレなんだから。」
ちょっと加奈ちゃんがプリプリしていた。
そういう加奈ちゃんにも、学校のファンからのメッセージがタブレットに届いていた。
「ま、一時的よ、ね。」
にぎやかなのが苦手な私は、ちょっと困っていた。
あれ? 蓮くんもそうだったはずだけど……。
「あ、耳に……。」
耳栓かぁ。
なるほど、これなら安心だね。
それから私たちは白井先生と一緒に校長室に入った。
そこで、蓮くんにとってはうれしいニュースが入って来た。
「蓮くん、スタジオJetさんから、契約の話が来ているよ。」
「ええ? 僕にですか?」
「はい、作曲だけでなく、音響の仕事をしてみないかってね。
それには学校に行って勉強するのだけれどもね。
蓮くんには卒業後、契約社員として働きながら、学校に通って勉強するというお誘いが来ました。
学校の費用も含めて、契約すると書いてあります。
もちろん、ご家族と話し合ってから決めてください。」
「蓮、良かったじゃない。」
「ああ、音楽で飯が食える。
勉強もできる。
でも京都だろう?」
「学校は、東京みたいですよ。
それにスタジオJetさんも、東京です。
全国でお仕事をしていますし、今回の撮影が、京都だったということですね。」
「勇者蓮、飛び立ちなさい。」
陽菜ちゃんが蓮くんの背中をバシッと叩いて、そう言った。
もう、何キャラよ、それ。
追伸 賢者ヒナと魔導士カナには、オンラインで仕事の依頼をします。
もちろん二人を率いる勇者にもね。
「え? もう? お仕事するの?」
まだ中学生の私たちには、いきなり仕事は難しいので、お休みの日に3人で相談しながら進めることにした。
「できるときに、できるだけのことをやる。
生活とのバランスを大切にな。
焦ってつぶれたやつはいっぱいいる。
仕事と上手く付き合うコツだ。」
こんなメッセージを送ってくれた。
ディレクターK氏は、よっぽど勇者パーティが気に入ったみたい。
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