ひなどり

竹笛パンダ

文字の大きさ
28 / 29

第26話:しあわせの「かたち」

しおりを挟む
 
「さて、勇者パーティ。いい加減名前を付けたらどうだ?
 これは君たちの初MVになるんだから。」

 ディレクターK氏が、私達にそう提案した。

「そうだな。
 勇者パーティ『暁』はどうだ?」

「まったく、どこのファンタジーアニメよ。
 ちゃんと私達らしいのを、考えるのよ。」

 私達らしい……桜花スクールチーム

「それなら、勇者パーティ『桜花』はどう?」

「ちょっと陽菜ちゃんまで……本当に、それでいいの?」

「うん、そうしよう。」

「それじゃ、ユニット名は勇者パーティ『桜花』でいいな。
 本番三回の後も、『頑張り屋のママへ』を歌ってくれってさ。
 ちゃんと自分たちのユニット名と曲名を紹介しろよ。」

「え?」

「スポンサーからの、リクエストだ。
 お前たち、こういうイベント、増えるかもな。
 ママたちだけじゃなくて、スポンサーの心もがっちりだ。
 ……ついでに財布も掴んどけよ。」


 それから、私達は、子どもたちのイベントを進めていった。
 朝一番に緊張する場面があって、みんなで乗り越えて……。
 それがあったから、本番の緊張がちょっとほぐれた。

 加奈ちゃんの声も、今野さんの演技も、みんなのびのびして、楽しそうだった。
 蓮くんも音響のスタッフさんに、いろいろ教えてもらえて、うれしそうだった。

 子供たちの反応も、まずまずだった。
『茶娘まっちゃん』からの子どもたちへの声掛け、

『みんなも暑い日にお外で遊ぶときには帽子をかぶってね。』

 これにはかわいい声で、「はーい」とお返事があった。

 相変わらずCMソングは大人気。
 イベントならではのサビを聞いた子供たち、

♪ 甘くて でもほろ苦い まるで 恋してるみたいね

 そこはきょとんとしていたけど、すぐにチャチャチャのリズムにノリノリだった。
 今野さんの動きに合わせて、子どもたちもすぐに引き込まれた。

 さすがです、今野さん。
 今日も『茶娘まっちゃん』、かわいいです。

 加奈ちゃんが今野さんに、

「ありがとうございました。『茶娘まっちゃん』、可愛かったです。」

 インカムに向かってそういうと、まっちゃんの着ぐるみが、手を振ってこたえてくれた。
 もうそれだけで、加奈ちゃんが感激していた。


 それぞれのステージの後は、ママたちからの応援メッセージとか、差し入れとか……本当に人気者になった気分だった。

 抹茶塩アイス、とってもおいしかった。
 もちろん、今野さんにも食べてもらった。
 だって『中の人』って、大変だから。

 私のお母さんたちは、ステージが終わると、帰りの時間まで、お茶会をしていた。
 でも、蓮くんのお母さんだけ、3時のステージまで見て、飛行機で帰るそうだ。

「加奈ちゃん、陽菜ちゃん。
 この子をここまで連れてきてくれて、ありがとうね。」

「蓮くんも、頑張っていました。」

「そうだよおばちゃん、蓮だって、頑張ったんだよ。」

「この子、ボッチって言っていたでしょう?
 誰もこの子の持つ力を信じていなかったの。
 でもね、加奈ちゃんと陽菜ちゃんが、こうして仲間として信じてくれたから、この子も頑張れたんだと思うの。」

「それは……私も同じです。」

「『頑張り屋のママへ』、すごく素敵だったわよ。
 きっと三人が力を合わせて作ってくれたんだって、思ったわ。
 これからも、この子をお願いね。」

 そう言って蓮くんをギュって抱きしめた。

「なんだよ、いきなり……。」

 そう言いながら、蓮くんもうれしそうに目を閉じていた。

「勇者蓮、そう名乗ったからには、勇者でいなさいね。
 あなたにはもう、仲間がいるのですから……。」

 そう言って蓮くんのお母さんたちは、一足先に帰った。

 イベントが終わって、片づけをしていた。
 私たちも少し手伝った。

「お疲れさまでした。」

 ディレクターK氏は、

「『頑張り屋のママへ』、ちゃんと届いたな。
 舞台も安心して見られたぞ。
 どうだ、お前らこのままプロになったらどうだ?」

「いえ、僕たちは、まだまだです。」

「そうか、勇者パーティ『桜花』よ。
 また、次のステージで会おう。」

 そう言って、帰っていった。


 その日の夜は、お父さんが迎えに来て、そのままご飯を食べてから家に帰ることになった。

「陽菜は、久しぶりだよね。
 デパートのレストランで食事をするのは。」

「本当にそうね。
 まだ陽菜が小さいときに、お子様ランチを食べていたわよね。」

「そうそう、そのあとプリンアラモードも食べるって、聞かなくて、お父さんが半分食べたんだよ……。」

「幸せだったわよね……。」

「今も、これからもだよ。お母さん。」

 私はもう、忘れてしまっているけど、確かに幸せに育った思い出は、二人の間にあった。
 
「そうよね。」

 お母さんが笑っていた。
 お父さんも笑っていた。
 わたしもいっしょに笑っていた……。

 ねぇくまちゃん。
 しあわせに「かたち」があるなら、こういうのをいうのかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

処理中です...