【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第16話 【温泉開業準備と、村の名前】

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 湯気が立ちのぼる源泉の前で、ミサトは額の汗をぬぐった。
「はぁ……やっとパイプがつながったぁぁぁ……」
 
 木製の桶から湯があふれ、試験的に作った湯船に流れ込んでいく。
 横で、ゴブ次郎とゴブ三郎が顔を突き合わせて湯加減を確かめていた。

「ボスッ!このお湯……ものすごい熱いです!」
「だから、熱湯をそのまま流すなって言ってるでしょ!」

『はい。ミサト。摂氏七十五度。直浴びすると、確実に皮膚に大ダメージ。かかると「熱い」と言うでしょう』
 リリィが、金属的な声で冷静に告げる。
「えっ?そ、それって火傷って言えばいいんじゃないの?」
『はい。ミサト。火傷です。精密な数値の方が安全ですから』
「はいはい、リリィの正確さはありがたいけど、村の人に伝えるときは優しく、わかりやすくしてあげてね」

 温泉施設の開業準備は、思ったより骨が折れた。

 源泉の熱を下げるための冷却水の引き込み。湯船の木材の加工。洗い場の設置……。
 中でもミサトが特にこだわったのは備え付ける[トイレ]だった。

「お風呂の近くにトイレが無いなんて、現代人としては耐えられない!」と、山で捕まえた排泄物を分解するスライムを専用の槽に放ち、異世界式バイオトイレを作り上げたのだ。

「よし、こっちは準備OK。あとは……」
『はい。ミサト。あとは名前の問題ですね』
「名前?」
『はい。ミサト。ここの呼び名が未定です。広報戦略にも支障をきたすかと』
 確かに、これまでは「村」や「うちの集落」としか呼んでいなかった。
 ゴブ次郎たちも顔を見合わせる。

「ボス。かっこいい名前をつけちゃってください!」
「うーん……私が勝手につけちゃっていいのかな??」
『はい。ミサト。現時点でこの村には名前がありません。ですから問題は無いと思います』

 現代のセンスと異世界の響きを両立させたい。
「じゃあさ……【湯ノ花の里】ってどうかな?」
『はい。ミサト。温泉地っぽさと親しみやすさの融合。好感度高』

「おおー! なんか良い!」と村人もゴブリンたちも拍手。そして村長も親指を立てた。
 こうして村は【湯ノ花の里】として正式に名乗ることになった。

 準備作業は佳境を迎えた。
 湯船の底板がずれ、湯がだだ漏れになるハプニングもあったが、ゴブリンたちが木槌を手に修理。
「ほらっ!釘は斜めじゃなくて真っすぐ! ……あ、そっちは逆~!」
『はい。ミサト。ゴブリン作業効率、残念ながら人間未満』
「おぉ~いっ!リリィ、お願いだから本人たちの前で言わないで!やる気を見てあげてよっ!」
 そんな二人のやり取りが、日が暮れるまで続いた。

 作業が一段落した夕方。湯気の立つ湯船を見下ろして、ミサトは達成感にひたる。

「これなら、あとはお客さんを迎えるだけ……」
 
 そのとき、村の入り口で馬車の車輪音が響いた。
 見慣れぬ紋章をつけた馬車が三台、土煙を上げて近づいてくる。
「んっ?誰だろ……?」
『はい。ミサト。外部勢力の可能性がありますね。商会または行政機関と推定します』

 馬車から降りてきたのは、きらびやかな服を着た男と、その後ろに控える数名の護衛。

「おや、こちらが噂の温泉がある村ですかな?」
 男は笑みを浮かべたが、その目には商売の匂いを嗅ぎつけた獣のような光が宿っていた。

 温泉の湯気の中で、ミサトは直感する。
 、、こいつ、ただの観光客じゃないな。

『はい。ミサト。警戒レベル、上昇推奨』
 リリィの声が、やけに低く響いた。

 ミサトは軽くスーツの袖をまくり、湯気越しに馬車から降りてくる一行を見据えた。
 村の広場にいた村人たちやゴブリンたちも作業をやめ、ざわざわと集まってくる。
「ボス…あれ……誰だ?」ゴブ次郎が耳をぴくぴくさせながら聞く。
「さぁね……でも気をつけてね。ああいう服の人は大体ろくでもないし、いい話しは持ってこない!」
『はい。ミサト。偏見強し。しかし統計的に信憑性ありです』
「あはは、うるさいって、今は少し黙ってて、、気が散る」

 先頭の男は、きらびやかな上着の胸元を整えながら歩み寄ってきた。
「いやはや、美しい景色ですな。そして……この湯気、まさか温泉ですかな??」

「ええ、そうですけど……」ミサトは一歩前に出る。

「申し遅れました。私はカンベル商会の幹部、ダーレンと申します。この村に温泉があると聞きまして、視察に参った次第」
 背後の護衛たちは無表情のまま周囲を観察している。その視線が、ゴブリンたちに注がれた瞬間、空気がわずかに張り詰めた。

「ふむふむ、、ゴブリンまで……ほう、これは珍しい。いやいや、興味深いですなぁ!」
 ダーレンは口元だけ笑みを作るが、その声色には下卑た好奇心が混じっている。
 ゴブ次郎は一瞬眉をひそめたが、すぐに肩をすくめて笑った。
「ふふっ、オレたち珍しいでしょ? 
 もしオレたちを見世物にする気なら、お値段は張りますよ!」
 村人たちの緊張が、少しだけ和らぐ。

『はい。ミサト。交渉モードに移行推奨します』
「ちょっ!待って、まだ何の話も始まってないから!」ミサトは小声でリリィにツッコミを入れる。
 
 とはいえ、この男が温泉をどう利用しようとしているのか、、その腹の内を探らないといけないのは確かだ。
 湯気の向こうで、夕日が沈みかけていた。
 温泉と村の未来を賭けた駆け引きが、これから始まろうとしていた。


          続
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