【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
22 / 179

第22話 【湯ノ花の未来図と商人たちの思惑】

しおりを挟む

 朝霧の残る湯ノ花の里。
 新設された露天風呂から立ちのぼる湯気が、村の中心までふわりと漂ってきていた。
 ミサトは湯気の香りを胸いっぱいに吸い込み、手帳を広げる。

「え~っと、、観光ルートは……温泉、まんじゅう、ゴブリンガイドツアー……あとは何入れようかなぁ~??」
『はい。ミサト。あまり詰め込みすぎると、お客様は疲れてしまいます』
「え~、でもさ~、目玉は多いほうがいいじゃん? 
 “映え”を狙わないと!バズんないよ~☆」
 リリィの声がやや呆れ気味になる。
『はい。ミサト。映えよりも、滞在時間と消費額を伸ばす計画のほうが効果的です。そもそもミサトはバズりたい人間なのですか?」
「あはは、、私、元々SNSやる人間じゃなかったわ……」
 
 そんなやり取りを背後で聞いていたカイルが、笑いながら近づいてきた。
「よぉ!相変わらず二人とも仲いいな。
 ……いや、人と機械の会話って仲がいいって言うのか?」
「仲良くないよ。いっつも小言ばっかり言われてるし」
『はい。ミサト。小言ではありません。事実を的確に指摘しているだけです』

「ほらね~」と肩をすくめるミサトに、カイルは木箱を手渡した。
「ほら、例の試作品持ってきたぞ。トーレル商会の菓子職人が、温泉まんじゅうの改良版を作ったんだ。中にほんのり塩気のある温泉塩を練り込んでるらしい」

 ミサトは興味津々でひと口かじる。
「うっまぁぁ……これ、いい! 悪魔のコンビネーション… 甘じょっぱいってずるい!反則だわぁ~☆ 絶対お土産で売れる!」
『はい。ミサト。このクオリティーなら単価を少し高めに設定しても売れるでしょうね。私は味見出来ませんが……』
 リリィがすかさず数字を計算する。

 カイルは頷きながらも、少し真剣な声になる。
「ただ、商会内部にも“湯ノ花の利益は商会が握るべきだ”って声がある。俺はミサトの独立を守る派だが……圧力はどんどん強くなるはずだ…」

 ミサトは湯気の向こうに村の人々の姿を見やった。
「ふふ……絶対に渡さないよ。この村の未来は、みんなで作るんだから…特に利益に目が眩む豚野郎にはね!」
 カイルはふっと笑い、手を差し出した。
「なら、俺もその未来図の一部に入れといてくれよ!サポート出来る所はサポートしていくからよ!」

 ミサトが微笑みその手を握り返すと、リリィが静かに告げる。
『はい。ミサト。湯ノ花の里、次のフェーズに進みますね』

◇◇◇
 
 その日の午後、ミサトが湯小屋の現場確認をしていると、村の入口でざわめきが起きた。

 ゴブ次郎が慌てて駆けてくる。
「ボス!見慣れねぇ馬車が三台も……! それに、なんか雰囲気が悪ぃよ!」

 入口に行くと、トーレル商会の紋章を掲げた馬車が並び、数人の男たちが荷台から降りてきていた。
 その中心には、見覚えのない中年商人が腕を組んで立っている。
「この村が“温泉観光”を始めたと聞いた。我々商会が正式に管理を引き受けることになった。以後、商会の承認なく商売を行うことは禁止する」

「はい?いきなりどーした?」ミサトは眉をひそめる。
「それ、カイルからは何も聞いてないけど?」
「カイルぅ? ああ、あの中堅か。あいつの意見など関係ない。こちらは上の決定だ」
 中年商人は鼻で笑い、傍らの部下に指示を出した。
「温泉の施設を点検し、すべてに商会の印をつけろ。所有権を明確にする」

 ゴブ次郎たちがすぐに立ちはだかる。
「おいっ!お前ら勝手なことすんじゃねぇ!」
「あぁんっ!!薄汚ねぇゴブリンどもが!軍を呼んで全員始末してやろうか?!」 
「やれるもんならやってみろよ!後悔すんぞっ!」
「ちょっ?!ちょっと!ゴブちゃんたち!!落ち着いて。暴力反対!!今、私がちゃんと話すから」

 温泉小屋の前で睨み合いが始まり、男たちの手が武器の柄にかかる。

 その時、後方からカイルが馬を駆って現れた。

「全員止まれ! ここは俺の案件だ!」
 カイルは馬から飛び降り、中年商人と鋭く視線を交わし、静かに圧をかけながら喋り出す。
「本部からの命令なら文書を見せろ。……持ってないな? ならこれは“勝手な押収”だ。商会の名を汚すな」

「なぁ~にを~!この若造が生意気を……」
 中年商人が一歩踏み出すと、ミサトが前に出た。
「こっちは村として正式に事業を運営してる。あんたたちのやり方は、ただの横取りだよ!」

 一触即発の空気。だがリリィの声が脳内に響く。
『はい。ミサト。彼らは力づくで奪うつもりです。物理的衝突になればこちらが不利です。ここは証拠を取るべきです』

 ミサトは小声で頷き、懐から小さな水晶板を取り出した。
「今の会話も動きも全部記録してるからね!
 商会本部に送りつけてもいいんだよ?」

 中年商人の顔色が変わる。
「ふんっ!……記録?まぁ、今回は引き上げる。
 だが、すぐに正式な通達が届くだろう」
 彼は部下を引き連れ、馬車に乗り込んだ。

 カイルはため息をつき、ミサトの肩に手を置く。
「悪りぃ……事前に止められなかった…
 これで完全に、向こうも本気で潰しに来るだろうな」
 ミサトは笑って肩をすくめた。
「あははっ!上等。潰される前に稼ぎ切ってやる」

 湯気の向こう、村人たちが黙って二人を見守っていた。
 その視線に、ミサトは胸の奥が熱くなるのを感じた。

「みんな、今日はありがと。心配かけたね、、
 大丈夫!……絶対に守るから」
 口にした瞬間、湯気の中で幾人かが静かに頷いた。
 
 リリィが低く囁く。
『はい。ミサト。あなたは今、信用を“通貨”に変えつつあります。この価値は金貨よりも強い』
 
 ミサトは口元を吊り上げた。
「じゃあさ、その通貨で国ってやつ、買ってみよっか…、、 なんてね!あははっ!」
「あははっ!信用で国を買うってか!どこまでも面白いやつだな!」

 ミサトとカイルの力強い笑い声が村に響いた。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...