【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第25話 【霧と罠の迎撃戦】

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 夜明け直後、湯ノ花の里に冷たい山風が吹き抜けた。
 その中を一羽の伝書鳥が、急ぎ足で飛び込んでくる。見張り台からの報告だ。

「カッサ村方向から複数の人影。装備は軽装、恐らく斥候班だって!」
 巻物を開いたミサトの声が、村長宅に集まっていた面々の耳に響く。
「数はどれくらいだ!」カイルが身を乗り出す。
「四、五人。尾根道を南下中」

「ボスっ!!迎え撃ちましょう!!」ゴブ次郎が即座に立ち上がる。
「ゴブ次!ちょっと待って!リリィお願い!」
 ミサトが手を挙げ、リリィが立体地図を映し出した。
『はい。ミサト。接近ルートは二つ。尾根道と、温泉北側の獣道。どちらも罠は設置済みです』

「よし。なら、湯気を使って道を迷わせよう」
 カイルが口角を上げる。
「ちょうど今は朝霧の時間帯だ。温泉の蒸気と合わせれば、相手は地形を掴めない」

◇◇◇

 尾根道へ向かうと、既に連絡を受けた村の若者たちが蒸気装置を準備していた。
 温泉の湯を竹筒に通し、狙った場所で噴き出させる仕掛けだ。熱気を含んだ霧は、十メートル先も見えないほど濃い。
「ふふ、まるでばぁちゃんから聞いた怪談の舞台だな」カイルが笑い、ゴブ次郎は弓を点検する。
 やがて霧の奥から、靴音と鎧の擦れる微かな音が近づいてくる。

『はい。ミサト。あと二十歩で罠地点到着』
 リリィの声がミサトの耳に響く。
 その瞬間、先頭の男が悲鳴を上げた。足元の土が崩れ、彼は籠状の落とし穴にずぼっと落ちる。

「何だ!? 罠か!」後ろの男たちが慌てて退こうとするが、一本の蔓が足に絡まり、転倒。その拍子に蒸気の噴出口に近づき、熱湯混じりの霧を浴びてさらに混乱した。

「おっとっと!迷子の迷子の子猫ちゃん!こっちは行き止まりだぞ」
 霧の中から現れたゴブ次郎が、矢を一本地面に射って脅す。
「おいっ!動くなよ。次は当てるぞ!」

 斥候たちは武器を落とし、膝をついた。霧の向こうには、既に村の若者たちが包囲を完成させていた。

◇◇◇

 捕らえたのは四人。縄で手を縛り、村へ連行する。
 途中、ミサトは何度も「水を飲ませてあげて」「足を引きずっている人を休ませて」と指示を出した。
 捕虜とはいえ、命を粗末には扱わなかった。

 村に着くと、まずは応急手当。裂傷に布を巻き、火傷には温泉水で冷やした泥を塗る。
 そして全員に水とパンを渡すと、斥候たちは信じられないという顔でミサトを見た。

「私は……あなたたちに無理に聞き出すつもりはない。カッサ村での立場もあるでしょうからね…でも……」
 ミサトは静かに言う。
「ただ、本隊がいつ来るのか、それだけ教えてくれたら、私たちは本当に助かる」

 沈黙が続いたが、やがて一人の青年が口を開く。
「……三日後。我々は補給が続かないから、すぐに決着をつけたいはずだ」

 情報は予想よりも早い本隊到着を告げていた。
 ミサトは眉を寄せるが、すぐに表情を整える。
「教えてくれてありがとう。あなたたちは、きちんと湯ノ花の里でもてなす」

◇◇◇

 その夜、集会所では捕虜の扱いが議題になった。
「あいつらを牢に入れて監視を、、」と村長が言いかけると、ミサトが割って入った。

「村長。牢じゃなく、客間に。食事も村人と同じ。温泉にも入ってもらう」
「なんでじゃ!敵じゃぞっ!?」村長が驚く。
「うん。敵だね、、だからこそだよ。自分でも不安な時に優しくされたら嬉しいでしょ☆  それに捕虜が交渉の場で証人になってくれるはず。『湯ノ花の里は敵じゃない』ってね」

 カイルが頷き、ゴブ次郎は腕を組んだまま、、
 「ボス、悪くないですね」と呟く。
 こうして、斥候たちは客間に案内され、湯と食事を与えられた。

 客間に案内された斥候たちは、最初は腰を落ち着けようとしなかった。壁際に立ち、いつでも逃げられる体勢を取る。
 
 しかし、村の娘が大鍋のシチューを運び込むと、温かい香りに抗えず一人が椅子に腰掛けた。それを皮切りに、全員が湯気立つ椀を手に取る。

「なぁ…?……これ、本当に俺たちに食わせるつもりか?」
「あははっ!毒なんて入れてないよ」ミサトは笑った。
「それに、こっちだってさ、食材に毒なんか入れて無駄にする余裕はないんだから」
 その軽い言い回しに、斥候の一人が小さく吹き出した。
 緊張は、湯と食事と人の気配で少しずつ薄れていく。

◇◇◇

 外では、捕虜の扱いを巡って村人同士の議論が続いていた。
「なんで、敵にこんな待遇を……」と不満を漏らす者もいれば、「戦うより話し合いの方がいい!」と頷く者もいる。

 カイルはそんな空気を横目に、ミサトに小声で言った。
「敵の好感度を稼ぐのはいいが、三日後には本隊だ。向こうが強硬策を取れば、今の温情は逆に弱みになるぞ」
「あははっ!わかってるって。でも、こっちが先に信頼を見せなきゃ交渉の土俵にも乗れないよ!」

 ミサトの即答に、カイルは口を閉じた。
 その表情は、“信じたいが心配”だという中間の色を帯びていた。

◇◇◇

 一方、客間では斥候の若者が湯上がりのタオルで髪を拭きながら、仲間に囁く。
「なぁ?……俺たちが聞いてた話と違うな」
「ああ。我らの村を略奪する気満々の野蛮な村だと思ってたが……これだけのもてなし…何か裏があるのか…?」

 湯ノ花の里の柔らかな空気は、彼らの胸に予想外の揺らぎを残していた。
 その揺らぎこそ、ミサトが仕掛けた最初の罠だった。
 湯気に包まれた彼らの顔には、一抹の不安は残しつつ、到着時の緊張がすっかり消えていた。

◇◇◇

 深夜、、
 ミサトは見張り台から月明かりの山並みを見つめていた。
「三日後かぁ、、……本当に時間がないね」
『はい。ミサト。ですが、今日の対応で交渉の芽はできました』リリィの声は穏やかだ。
 ミサトは拳を握る。
「芽ができたか……上手く育てばいいけど!
 よしっ!必ず、この村を戦場にはしないぞ!」

 その決意は、冷たい夜気の中で、ひっそりと強さを増していった。


          続
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