【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第49話 【裂け目に差す光】

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 カイルが荷車を引いて現れた夜から一夜明け、湯ノ花の里は久々に活気を取り戻していた。
 広場では村人たちが物資を仕分けし、笑顔を交わし合っている。塩や干し肉の樽が次々と運び込まれ、子どもたちが歓声を上げながら駆け回る光景に、ミサトの胸も温かくなった。

「うぅぅ~、みんな元気出て来たね~……助かったよ~~!本当に、カイルのおかげだよぉぉ~!」
 倉庫の棚に布地を積みながら、ミサトは涙ながらに吠えた。
「いや、俺一人の力じゃねぇよ。ここに来て初めて分かったんだ。物資は使い道を誤ればただの荷物だ。だが、ミサトはきっとこれを“未来を築く材料”に変えてくれる」
 カイルはそう言って笑う。その顔には、かつて商会で見せていた商人の顔ではなく、一人の仲間としての覚悟があった。

 しかし、リリィの声が現実を突きつけてくる。
『はい。ミサト。しかし喜んでばかりはいられません。確かに目先の不足は補えましたが、これはあくまで一時的な延命措置。外からの補給ルートを確立しなければ、また同じ危機に陥ります』

「うんっ!分かってる。だからこそ次は……」
 ミサトは深く息をついた。
「商業連合との交渉をもう一度進める。カイル、ついてきてくれる?」
「もちろんだ。俺はもう、お前の右腕になるって決めたんだからな」
『はい。ミサトの右腕は私ですよ。そうですね…カイルには…ミサトの足の小指を強くお勧めします』
「うぉ~いっ!小指って?!ぶつけたら一番痛いとこっ!左腕とか頭脳とかじゃねぇのかよっ!!」
 三人のやり取りがどこかみんなに勇気を与えた。
 
◇◇◇
 
 その日の午後、港町からの使者が里に到着した。
 商業連合の紋章を掲げた馬車が土埃をあげ、広場に止まる。中から降りてきたのは、鋭い目つきの老齢の交渉人だった。

「湯ノ花の里のミサト殿か。聞き及んでいるより、ずいぶんと若いな」
「はい。ありがとうございます。ですが年齢より成果でお話しできると自負しています」
 ミサトが毅然と答えると、使者は薄く笑った。

 彼らが提示してきた条件は厳しかった。
「あぁ~、物資供給の代価として、温泉利用権の五割を差し出してもらうぞ。加えて、交易の窓口はすべて我ら連合が握る。これで納得できるな…?」

 里の人々がざわめいた。実質的に、湯ノ花を従属させようという条件だった。
「おいっ、、五割だと?そんな……!」
 カイルが立ち上がりかけた瞬間、ミサトは手で制した。
 ミサトはゆっくりと口を開く。
「私たちは連合の力を軽んじるつもりはありません。ですがこちらにも選択肢はあります。たとえば、周辺の農村と直接提携して供給網を作ることも可能です」

 使者の眉がぴくりと動く。
 ミサトは続けた。
「温泉の観光需要はこれから急速に拡大します。連合が窓口を独占するのではなく、“共に利益を分かち合う”仕組みにしませんか? 五割ではなく三割。それなら双方にとって実りが大きいはずです」

 静寂が広場を包む。
 交渉人はミサトを値踏みするように見つめたが、背後でカイルが支えるように頷いているのが視界の端に映った。
 、、、ここが踏ん張りどころだ。
「ふむ…一応持ち帰って協議させてもらう…結果を待たれよ!」そう言うと使者は去って行った。

◇◇◇

 夜、交渉の結果が届いた。
 結論は《協議難航中》即決はされなかったが、完全に拒絶もされなかった。

「うん。……悪くない手応えだったな」
 カイルが焚き火の前で呟く。
 ミサトも同意した。
「えぇ、向こうは強気だけど、本心ではこちらを取り込みたい。つまり、湯ノ花が無視できない存在になってきたってことだもんね」
 リリィの声が淡々と補足する。
『はい。ミサト。ただし注意が必要です。あの盗難事件、内部犯行に見せかけられていましたが、調べた限りでは痕跡が不自然でした。むしろ“外部の勢力による撹乱工作”の可能性が高い』

「外部……?外の人間がやったって事?」
 ミサトの眉が動く。
『はい。ミサト。つまり、湯ノ花の成長を快く思わない第三の手があるということです。連合だけを相手にしていると思ったら足元をすくわれます』

 ミサトはしばらく黙り込み、やがて焚き火の炎を見つめたまま口を開いた。
「うん。……分かった。外交で譲れない線を守りつつ、経済の自立性を強化する。そして情報網をもっと広げて、影で動いてる相手を突き止める」

 炎がぱちぱちと爆ぜる音の中で、彼女の横顔は決意に満ちていた。

 リリィが小さく笑う。
『はい。ミサト。まさに三軸を同時に走らせる。“帝王学”そのものですね、ミサト』
 ミサトは静かに頷いた。
「……まだまだ道は険しい。でも、この里と仲間たちとなら、きっと乗り越えられる」

 夜空を見上げれば、無数の星々が瞬いていた。
 それは、彼女たちの未来がまだ数え切れないほどの可能性を秘めていることを示しているかのようだった。

◇◇◇
 
 その夜遅く、交渉を終えて広場の人々が解散しようとした時、村長が村人とミサトを呼び止めた。
「ミサト、みんな、少し話があるんじゃ…」

 焚き火の残り火を前に腰を下ろすと、白髪混じりの村長は顎髭をこすりながらゆっくりと口を開いた。
「この里は、元は小さな寄り合いにすぎなかった。わしはただ年長者という理由で村長を務めてきたが……今や状況は変わった。湯ノ花は村の枠を超えて、国の商人すら惹きつける存在になっている」

 ミサトはぼぉ~っと村長を眺める。

「ミサト、おぬしに正式に“里の長”を譲りたい。皆を導けるのは、もはやわしではなく、おぬしだ」

 焚き火の火がぱちりと弾け、ミサトのキョトンとした顔が映し出される。
「ふっあっ!えっ!私!?いやいや村長!急に無理だって!!いやっ、私だって……この里を守りたい、この仲間たちと一緒にホワイトな未来を作りたいって思ってるけど……ブラックな奴らに負けたくないって気持ちだけは誰にも負けないんだけど……私が村長って……!」

 慌てふためくミサトを横で見ていたゴブ次郎が、にやっと笑った。
「ボスじゃなくて村長……いいじゃねぇか! オレたちゴブリンも、ボスのおかげで人並みに飯食えるし風呂も入れるんだ。オレは賛成だぞ!」

 エルナも小さく笑みを浮かべて頷く。
「うん、私も。だってミサトさんは、ただ命令するんじゃなくて、一緒に働いて、一緒に悩んでくれる。そういう人が“長”なら、きっと誰も文句を言わないよ」

 カイルは焚き火越しに真剣な視線を送った。
「俺も異論はない。むしろ俺は、そのためにここに来た。湯ノ花の未来を担う“長”がミサト以外にいるとは思えねぇ」

 村人たちも次々と声を上げ始める。
「そうだそうだ!」「ミサトさんに導いてもらおう!」
 村長は深く頷いた。
「ならば決まりじゃ。肩書きなど形にすぎぬ。だが、その形が人の心をまとめる。、、頼んだぞ、ミサト」
 その瞬間、リリィが静かに囁いた。
『はい。ミサト。これで名実ともに、あなたが湯ノ花の舵取りですね。さて、帝王学の本番が始まりますよ』
「ちょっとみんな話し早すぎっ!少し考えさせてよ~!」
 ミサトは走り出し夜空を仰ぎ、でも静かに拳を握った。
 里の長として、仲間たちと未来を切り拓くために。


          続
 
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