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第24話 【ゴブリンを“飼う”だと?】
しおりを挟む湯ノ花の里の入口で、国の兵士たちは馬を下りた。
獅子の紋章が夕日に照らされ、村人もゴブリンも息を呑む。
「……ふむ、これが“噂の里”か」
鎧をきしませ、上官らしき男が鋭い目で辺りを見渡す。
「商売が盛んで、温泉まで湧き、人を集めていると聞く。ずいぶんと賑わっているな」
ミサトは胸の奥で震える心臓を押さえ、必死に笑顔を作って頭を下げた。
「ようこそ、湯ノ花の里へ。里長のミサトと申します。お疲れのところ、よろしければ温泉でも、、」
「ふん!興味がてら寄っただけだ!」
上官は鼻を鳴らす。
「だが……これは何だ?」と視線を向けたのは、材木を運んでいたゴブ次郎たちだ。
「まさか、お前たちゴブリンを飼っているのか? 人の里で、魔物を使役とは……」
ざわっ、と場が凍りつく。
ゴブリンたちが空気を読み肩を縮め、村人の表情も険しくなる。
ミサトの笑顔が引きつり、こめかみがピクッと震えた。
「あの~……失礼ですが訂正させていただきます」
低く、はっきりとした声が広場に響く。
「彼らは“飼われて”なんかいません。この里を共に作っている、私たちの大切な仲間です!」
一瞬、国兵たちが押し黙った。
上官の目が細くなる。
「里長よ……言葉に気をつけろ。国法では、ゴブリンは討伐対象だ。言葉一つでも反逆と見なすぞ。もしゴブリンを手懐けて戦争になど使う事があるなら、、わかるな…」
ピリッとした空気を破ったのは、隊列の中から聞こえた明るい声だった。
「ちょ、ちょっと待ってください隊長! この村の事少しだけ俺知ってます!」
若い兵士が兜をずらし、嬉しそうに叫ぶ。
「休暇で港に行った時、立ち寄ったんです。ここの温泉、最高でしたよ! それに饅頭! あれは忘れられません!」
村人が「おおっ」と声を上げる。ゴブ次郎も「おう!兄ちゃん、湯ノ花のお客さんかいっ?」と顔をほころばせた。
だが、上官は鋭く睨みつける。
「黙れっ!貴様、任務中だぞ!!」
リリィがミサトの脳内に語りかける。
『はい。ミサト。物凄いパワハラですね。まるで営業成績が悪い部下を吊り上げるような。血が騒ぐんじゃ無いんですか??』
(リリィ。うるさいっ!気が散る…でも少し懲らしめたいな…)
若い兵士は縮こまりながらも、ちらりとミサトへ視線を送った。“俺は分かってます”とでも言いたげに。
◇◇◇
一通りの視察を終え、兵士たちは馬を引き返す準備を始めた。
その際、上官が何気なく漏らした。
「近いうちに、この辺りのゴブリンの群れを掃討する。巻き込まれんように気をつけてくれ。街道を荒らす連中がいると報告が入っているのでな…間違ってお前らも斬ってしまうかもな!はははっ」
その言葉に、ゴブリンたちが一斉に顔を上げた。
「えっ?!……たぶんゴブ太郎兄ちゃんの村だ!」
「えっ……!?本当? ゴブ次の家族が国の討伐対象に……!?」
ゴブリンの瞳が揺れ、ミサトの胸がズキリと痛んだ。
(まさか……“ゴブちゃんたちの家族の村”が、国の標的になるなんて……!?)
兵士たちの背が遠ざかる中、ミサトは拳を握りしめ呟く。
「んなの……放っておけるわけ、ないじゃん!!」
夜風が吹き、焚き火の残り香が漂う中、湯ノ花の里に新たな不安と決意が広がっていった。
◇◇◇
兵士たちが去ったあと、広場には妙な静けさが残った。村人たちが小声で「国が相手じゃ……」とささやく中、若い兵士の一人が、ふと戻ってきてミサトを呼び止めた。
「……あの~、さっきも言ったんですけど…実は俺、前に休暇で湯ノ花に来たことがあるんです」
思いもよらぬ行動に、ミサトは目を瞬かせる。
兵士は視線を泳がせながら続けた。
「すぐ戻らないと怒られるので手短に…。温泉、すごく良かった。あの時、村の人達もゴブリンも親切で……。正直、ゴブリンたちに剣を向けるなんて、本当はしたくないんです。でも……命令ですから」
その声は震えていて、若さと葛藤が滲んでいた。
ミサトは少し黙った後、そっと肩に手を置いた。
「えぇ、分かるわ。あなたの立場も。でもね、、ここには、命令じゃなく“仲間だから守る”って生き方を選んでる人たちがいるの……」
兵士は何かを言いかけ、少し震えながらもミサトにクシャクシャの紙を渡して、何か言葉を飲み込んで敬礼だけして去って行った。その背中を見送りながら、ミサトは胸の奥に小さな痛みを抱いた。
この世界の全員が敵じゃない。けれど、国の力はあまりに大きい。
◇◇◇
その夜。布団に潜り込んだミサトは、リリィを呼び出して作戦会議を始めた。
「ねえリリィ、どうするの!?相手は国だよ、国!」
『はい。ミサト。大丈夫ですよ。ブラック企業の役員会に比べれば可愛いものじゃないですか?」
「うわぁ~!出たよ!そういうブラック比較!」
リリィの落ち着き払った声に、ミサトは枕を抱えてじたばたする。
「でも本当に……国に逆らったら、今まで築いたもの全部潰されちゃうかもしれないじゃない」
『はい。ミサト。草の根残さずと言ったところでしょうか?? だからと言ってゴブ次郎の家族、ゴブ太郎さんの村を見捨てるのですか?』
ピシャリと胸を突く言葉。ミサトは深いため息をつき、天井を見上げる。
「ぬぬぬぬ~!痛い所つくなぁ、、……やっぱり放っておけないよね。ゴブ次郎たちの仲間だもんね…。私の前の会社にだって、仲間を見捨てなかった先輩いたもん」
『はい。ミサト。その通りです。社畜の誇りを、今こそ発揮するときです』
「いやいや、その社畜まとめってどうなのよ!」
『はい。ミサト。そう言えば、さっき兵士に貰った紙は何が書いてあったのですか??』
「んっ?あー貰ったね…?何だろ?」
ミサトがポケットからクシャクシャの紙を出し広げると、そこには日時が走り書きされていた。
「これって?ゴブ太郎討伐の日時かな??」
『はい。ミサト。その可能性が大きいと思います』
そしてミサトは心の中で決意する。
ゴブ次郎の兄、ゴブ太郎の村を救う。たとえ相手が国だとしても。
続
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