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第32話 【戦士の決着、そして橋渡し】
しおりを挟む土煙が風に流されていく。
荒れ果てた地面には、激しい衝突の爪痕までが刻まれていた。剣と大斧がぶつかり合った瞬間の衝撃は、戦場全体を震わせ、兵も村人も息を呑んで見守っていた。
やがて、、、その中央に、影が立ち上がる。
片腕を失い、全身傷だらけのゴブ太郎だった。
膝をつきかけながらも、なお背筋を伸ばし、敵の前に立つその姿は、もはや“怪物”ではなかった。
「はは、どうじた?眠たくなっぢまったかい?……まだ……オレの、心臓はドクンと動いてんぞ!!」
荒い呼吸の合間に吐き出された言葉は、戦場の静けさを破るには十分だった。
地に伏したままの人間の隊長が、血に濡れた顔をわずかに上げた。
剣は手放され、立ち上がる力も残っていない。それでも彼の瞳には、敗北を認めた者の澄んだ光が宿っていた。
「ふふ、……化け物……ではないな」
かすれた声が、確かに響いた。
「我々の負けだ…。貴様は……立派な……戦士だ」
その一言に、兵士たちは一斉に顔を見合わせる。
恐怖と侮蔑の対象でしかなかったゴブリンに対して、己の隊長が負けを宣言し、“戦士”と呼んだのだ。
嘲りの声は消え、残るのはただの静寂だった。
やがて一人の兵が剣を下ろした。続いて二人、三人……。
誰も、もはやゴブ太郎に刃を向けようとはしなかった。
ゴブ太郎は肩で息をしながら、唇を歪めた。
「……へっ……なんだよ?もう終わりか? 認められるなんざ、柄じゃねぇけどな…戦士って呼ばれんのも悪くねぇな…はははっ!」
それ以上は言葉にならず、彼の膝が大地に沈む。
その瞬間だった、、、
奥の林の影から、細い足取りでゴブリンたちが現れ始めた。
十数体……いや二十を超える影。そのどれもが骨ばり、頬はこけ、痩せ衰えていた。
「……あれは……」
村人の一人が思わず声を漏らす。
かつて人を襲っていたはずの群れ。だが、今の彼らは武器を持たず、ただ飢えに震えていた。
理由は明らかだった。ゴブ太郎が「人間を襲うな」と命じていたのだ。
その結果、食料が尽き、彼らは餓えに苦しんでいた。
兵士たちも村人たちも、目を丸くして言葉を失う。
“敵”のはずの彼らが、すでに戦意を失い、生きるだけで精一杯だったのだから。
「兄貴っ……!」
その群れの中に混じる様に、涙目のゴブ次郎がいた。よろめきながら駆け寄り、倒れかけるゴブ太郎の体を必死に支える。
ゴブ太郎は血に濡れた顔で、かすかに笑った。
「……次郎……元気そうで…よかった…」
「あ、兄貴こそ……っ、なんで、なんでこんな……!なんで飯食ってねぇぇんだよっ!!」
「……人を……襲わねぇって、決めたからだ。お前らが人間と暮らしてるのは知ってた……だから、、戦わせたくなかった。人間と戦えばいつかお前たちにも刃を向けなきゃいけねぇ…」
その会話を耳にした人間たちの胸に、言葉にできない衝撃が走った。
怪物と思っていた存在が、仲間を守るために己を削っていた、、その事実が、偏見を揺さぶったのだ。
張りつめていた空気を破ったのは、ミサトの明るい声だった。
「……もう、いいじゃん!」
皆の視線が彼女に集まる。ミサトは両手を腰に当てて、にっこりと笑った。
「ねぇ、ゴブちゃんたち。湯ノ花の里に遊び来ちゃいなよ☆温泉もあるし、ご飯もお腹いっぱい食べれるよっ♪今回は私の奢り☆」
その瞬間、戦場が揺れた。
「はあっ!?」「な、何を言ってるんだ!」とカイルも村人も兵士もミサトの言葉に大混乱。
ゴブリンたちも「えっ……」と口を開けたまま固まっている。
ただ一人、リリィだけが静かに呟いた。
『はい。ミサト。あなたならそう仰ると思っていました。後先考えませんからね』
「ねぇ?リリィ?私の感覚が合ってるなら、、今ちょっとバカにしたよね…」
『はい。ミサト。いいえ。褒めてるのです。まるで猪の様な猪突猛進。ぶつかった壁も壊して笑っていそうですね』
「あっ?やっぱバカにしてるなっ??」
二人のやり取りを聞いて、ゴブ太郎は驚愕と安堵が入り混じった顔で、かすれ声を洩らす。
「ははは、オレたちを受け入れるだと…とんだバカな人間がいるもんだな…ミサト?だっけか? オレの家族を……頼む……わ」
次の瞬間、彼の体がドスンと完全に崩れ落ちた。
ゴブリンたちが慌てて駆け寄り、兵士たちも躊躇いながらも手を貸す。
人間とゴブリンが、共に倒れた戦士を支え合う。
その光景は、戦いの余韻に似つかわしくないほど静かで、温かなものだった。
ミサトはその様子を見つめ、心の中でそっと呟いた。
(ふむふむ。これは、まだまだ小さな奇跡。でも、きっと……大きな未来に繋がるよね)
戦場に初めて、穏やかな風が吹いた。
ざわめきが少し落ち着いた頃、リュカが静かに近づいてきた。
「……ミサトさん、上手くいってよかったですね…。でも……あなたは本当に、恐ろしい人ですね…」
「うん。よかったね。教えてくれてありがとうね~。えっ、恐ろしい?それって褒めてる? 貶してる?」ミサトが首をかしげる。
「はははっ!両方です。常識をいとも簡単にひっくり返す。王国の重鎮たちが知ったら……震え上がるでしょうね」
その言葉に、ミサトは軽く笑い飛ばした。
「あははっ!いいじゃん。震えてくれた方がなんかあった時に話が早いし!」
「……ミサトさんはまるで、自分が国と渡り合えると信じているようだ」
リュカの瞳に、特有の冷ややかな光が一瞬宿る。
リリィが横から口を挟む。
『はい。ミサトは本気でそう思っていますよ。だからこそ、皆がついてきたのです。貴方もそうじゃ無いのですか?それとも利用したのですか……?』
「ふふ!面白い機械ですね……そうか。だが、覚えておいて欲しいですね……国は、個人の善意だけでは動かない」
その声音は、どこか突き放すようで、、
同時に、自身の立場を滲ませていた。
ミサトは眉をひそめる。
「んっ?……リュカ、、あんた……」
だがリュカは答えず、ただ小さく笑って視線を逸らした。
リリィだけが、その笑みに潜む危うさを理解していた。
続
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