【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
85 / 179

第33話 【宴と影】

しおりを挟む

 王都の奥深く、荘厳な石造りの廊下に、足音がひとつ響いた。
 長い旅路を終えたリュカは、変装を解いて外套を翻しながら謁見の間へと歩み入る。

「リュウコク王子っ!!」
 苛立ちを隠さない声が飛ぶ。待ち受けていたのは宰相格の大臣だった。白髪混じりの長髭を震わせ、杖で床をドンドンと叩きつける。
「また勝手に姿を消して……! どこへ行っていたのです! あの“湯ノ花の里”と、そこを率いる“ミサト”とかいう女の情報を集めよと、あれほど国王に命じられていたのですよ!王子が出かけてる間にゴブリン討伐作戦は失敗するし…」

 リュウコクは涼しい顔で笑い一礼した。
「あはは!大きな声を出すな。五月蝿いぞ、大臣。心配しなくてもしっかり見てきたよ!」

「むむむむ!ならば報告をして下さい!」
「ふふ。面白い人間だったよ!とっても!」
 リュカの唇に浮かんだのは、少年のような笑み。
「恐ろしいほどにね。この国にとって、最も厄介な存在になるかもしれないな!」

 大臣は眉をひそめ、笑う。
「ははは!厄介な存在??ただの小娘でしょう!民を扇動しているといっても、所詮は辺境の寄せ集めにすぎないはずです」

「本当にそう思うのかい??」リュカは窓辺に歩み寄り、夜の帳に包まれた王都の街を見下ろした。
「小娘一人に国が揺らぐことだってありますよ。大臣……しっかり外を見なさい」

「んっ?外を……?」

「あぁ。国境の影はもう動き始めたぞ…。親父にも言っとけ。“戦争の準備をしとけ”とな!」
 静かに放たれたその言葉に、大臣は一瞬、笑みを凍らせた。謁見の間に重苦しい沈黙が落ちる。リュウコクの横顔は、どこか愉快そうで、同時に冷ややかだった。

◇◇◇

 一方その頃、湯ノ花の里の門前は大騒ぎだった。

「で、でかい!ゴ、ゴブリン!?」「なんで一緒に帰ってきたんだ!?」
 村人たちが腰を抜かし、鍬や棒を握りしめる。
 そこにミサトが両手を広げて笑顔で立ちふさがった。

「みんなストップ! 大丈夫だよ! このおっきいゴブちゃんも敵じゃないの。今日から仲間なんだから!仲良くしてあげて!」
「あっ??な、仲間ぁ!?ミサト正気か?」
 カイルが額を押さえ、村人たちは一斉にどよめく。

 ゴブリンたちはおどおどと足を止め、痩せ細った体を小さく丸めていた。ゴブ太郎はゴブ次郎に支えられながら、ふらつく足で前へ進み出る。

「……オレは、湯ノ花に刃を向けねぇ。こいつらもだ。もし信じてもらえるなら……少し飯を分けてやってくれねぇか」
 そのかすれ声に、場はさらにざわめく。だが、ミサトはにっこり笑って答えた。
「そんなの簡単じゃん! 今夜は私の奢りでみんなで宴会だよ! 温泉入って、ご飯食べて、歌って踊ってね、最高でしょ?お願い。みんなで楽しくやろう☆」

「最高かどうかは知らねぇが……」「まじかよ……」
「ミサトさんがそう言うなら…」
 村人たちは頭を抱えるが、ミサトの押し切るような明るさに、場の空気は少しずつ緩んでいった。

◇◇◇

 その夜。広場には大きな焚き火が焚かれ、酒と食事が並んだ。
 人間もゴブリンも、最初は距離を取って座っていたが、時間が経つにつれて混じり合い、やがて一つの輪になっていた。

「よ~し!みんなかんぱーい!」
 ミサトの掛け声で、宴が始まる。

 カイルが呆れつつも杯を掲げ、村人たちは恐る恐る酒を口にした。すると、隣に座っていたゴブリンがぎこちなく木の杯を差し出す。
「……の、飲んでいいのか?」
「……あ、ああ……乾杯だ!」
 固い握手が交わされ、笑い声が広がっていく。

◇◇◇

 その片隅、治療小屋では、ゴブ太郎が医者の手を借りて寝かされていた。
 切断された左腕の断面に布が巻かれ、血を止める処置が施されている。

「これは……酷い傷だな。腕はもう戻らんな…」
 医者が眉をひそめる。
 そこで、リリィの声が響いた。
『はい。ミサト。ここで試してみる価値があるかもしれません』

「なになに? 怪しい薬の調合レシピでも教えてくれるの??合法?非合法?脱法?」
『はい。ミサト。アウトです。全然怪しくありません。エルフの秘薬です』
「はい!出ました。リリィの万能薬シリ~ズ! これこれ、またまたお高いんでしょ~?」
『はい。ミサト。値段を付けるとすれば王都の城壁くらいです』
「タダであげんかいっ!傷だらけのゴブリンがそんなの払えるかぁぁ!」

 漫才のようなやり取りに、ゴブ太郎が吹き出した。
「ははっ……お前ら、戦場の最中でもそんなやり取りして笑ってやがったな??んっ?」

 リリィは秘薬を差し出し、医者に説明する。
 慎重に傷口へ垂らすと、淡い光が走り、赤い肉がわずかに再生した。

「なっ……こ、これは……!」
 医者が目を剥く。
「繋がってきている……時間をかければ、もしかすると……腕は完全に戻るかもしれん!」

 ゴブ太郎の目が潤んだ。
「おいおい、、……なんだよ……この薬。 オレみてぇなもんに……こんな……」
 彼は震える体を起こし、深々と頭を下げた。
「ありがとう。ミサト。弟たちの面倒まで見てもらって、オレの傷も治してもらって、一生あんたには頭がアガらねぇな……人間も、ゴブリンも関係ねぇ……オレはこの里のために生きていくよ。……なんかあったらいつでも言ってくれ!必ず助ける!!」
「え~、別にそんな感謝しなくてもいいよ。たまたま薬があっただけだし…ゴブ次郎たちだってお仕事して貰ってるだけなんだから!気楽にいこう☆」
 
 ゴブ太郎の一筋の涙は、周囲の者たちの心を打った。医者も村人も、黙って彼を支えた。

◇◇◇
 
 宴も酔いが回ってくると、あちこちで珍妙なやり取りが始まった。

「……こ、この肉……ゴブリンの肉じゃないよな?」
 おずおずと口にしたゴブリンに、村人の青年が噴き出す。
「ぶっ!バカ言うな!なんでゴブリンの肉なんか出すんだっ! うちの鶏肉だよ!」
「な、なんだ……なら遠慮なく!」と頬張る姿に、周囲が大笑い。

 ミサトはその光景を眺めてにっこり。
「ほら~? ゴブちゃんたちも立派な食いしん坊仲間だよ!」
『はい。ミサト。貴女も似たようなものです。帰ってきてから何食べました??」
「ちょっと待って! 私の食欲をゴブリン扱いするのやめてくれる!?ん~と?蜂蜜パンを5個でしょ、つまみ食いで饅頭5個、、さっき鶏肉を、、」
『はい。ミサト。もういいです。胸焼けます。貴女は間違いなく大食漢です』
「ぐぬぬ……!最後まで言わせろっ!」

 焚き火の周りは笑い声と突っ込みで溢れ、緊張の影はすっかり消え去っていた。

 外では、まだ笑い声と歌声が響いている。
 湯ノ花の宴は笑いと歌に包まれていた。
 
 だが同じ夜、王都の窓辺では、リュウコクが静かに国境を見据えていた。、、それぞれの夜が、やがて一つの嵐へと収束していくことを、まだ誰も知らなかった。

          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...