【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第6話 【盤上に置かれた影】

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 湯ノ花の里に暖かい日が訪れ、一面の若葉が風にそよいでいた。
 あの大広間でのどんちゃん騒ぎから、はや一ヶ月。里は穏やかな日々を取り戻し、温泉とミサト式楽市楽座は今日も人であふれていた。

「ねぇ?ミサトさん。そー言えば最近、王様来ないね?」
 城下の広場で帳簿を手にしていたエルナが、ぽつりとつぶやいた。
 広場の屋台には甘い焼き菓子の匂いが漂い、子どもたちが走り回っている。

「ん~、本当だね。最近見てないね…。結婚だのなんだの五月蝿い奴だったけど、姿が見えないと……ちょっと寂しいかもね」
 ミサトは焼きまんじゅうを頬張りながら笑った。

『はい。ミサト。デレ頂きました。ツンデレの教科書に載せたい発言です。『ちょっと寂しいかもね』の使用許可をお願いします」
「うるっさいな!リリィ! ぜ~ったいっっ!載せんなよ!!別に会いたいとかじゃないしっ!」
 顔を赤らめるミサトに、エルナはくすくす笑い、リリィの声はますます調子に乗る。

『はい。ミサト。ツンも頂きました。 ちなみに“寂しい”は依存心の一形態です。心理学的には、、』
「こらっ!やめろぉ! そういう小難しい解説はいいから!恋愛ってのは衝撃ドカーンと感情がバーンだから!」
 広場に笑い声が弾け、周囲の村人たちもつられて笑みを浮かべる。

 だが、この平和の空気の裏で、別の場所では嵐が兆していた。

◇◇◇

 王都ラインハルト、、、
 石畳を踏み鳴らす馬車の車輪音が、重苦しい空気を運んでいた。

 王の執務室では、リュウコクが帳簿を広げていた。机の上には、北の商業国家アルガスとの交易記録がずらりと並ぶ。
 数字の列は無言の圧力を示していた。新ラインハルト王国を狙って、輸入量の制限、価格の吊り上げ、港での検問。どれも王国の喉元をじわじわ締めつけている。

「頭が変われば当然、狙われる……」
 背後から声がした。かつての国王、リュウコクの父がゆったりと入ってきた。
「どうやらアルガスが牙を剥き始めたな……手を貸そうか?」

 リュウコクは椅子を回し、にやりと笑った。
「あははっ!ご心配なさらずに。父上はどうぞ、暖かい南の島でバカンスでも楽しんでください。ここまではすべて想定内ですから」

「ふっ……強がりを!苦しくなったらいつでも力になるぞ」父は肩をすくめると背を向けた。
 だが、残されたリュウコクの視線は冷静そのものだった。

(あはは、心配されちゃったよ……。さて、力でねじ伏せるか、経済で黙らせるか……。どちらにせよ、ただ待っているだけでは首を絞められるだけだな…)

◇◇◇

 その頃、アルガスの港町。
 人混みの中に紛れる影があった。

「……お前たち、、ここからは潜入行動だ」
 カリオスは低くつぶやき、数人の私兵と共に倉庫街へ足を踏み入れた。
 漁船に偽装して上陸した一団は、すでにアルガス商人の流通経路を探り始めている。

「奴らの帳簿さえ押さえれば……王都に対する締め付けの証拠になる。王は戦争は避けたいみたいだからな…。では手筈通り頼んだぞ」
 闇に溶けるように、カリオスは倉庫の影に姿を消した。

◇◇◇

 一方そのころ、湯ノ花。
 広場での仕事を終え、帳簿を抱えて天守閣へ戻ったミサトは、窓辺で休憩していた。
 カップに注がれた湯気がゆらゆら揺れ、リリィの声が響く。

『はい。ミサト。どうやら盤上に駒が並び始めています。現在アルガスは交易という名の戦をラインハルト王国に仕掛けているようです』
「えっ?!あいつなんかやられてんの?だからこっち来れないのか?? 盤上?駒?アルガス? ……でも、駒を動かすのは結局、人間でしょ? 戦争とか経済戦とか、私まだよく分かんないし…。下手に首突っ込めないよ……」
『はい。ミサト。ですが、盤を読むのは得意でしょう? あなたはいつも、数字と人の顔を同時に見ているのですから』
「えっ?褒められた?……なんかリリィに褒められると照れるんですけど~♪」

 窓の外では、子どもたちが笑いながら駆け回っていた。
 その笑い声を聞きながら、ミサトは湯気越しに遠いラインハルト王国の方向を見上げた。
(平和が続けばいいけど……そう簡単じゃないんだろうな)

◇◇◇

 王都の玉座に戻ったリュウコクは、大きな机に地図を広げた。
 真ん中にラインハルトと湯ノ花。北のアルガス。東の砂漠王国ザイール。南の島嶼連邦。そして西のマルディア。
 盤上の駒は確かに動き始めている。

「ぷはぁぁぁ!!周りに連合組まれて狙われたら一発の配置だなぁぁ!父上は力で押さえてたが…それではいつか終わりが来る……。あははっ!さぁ……この新王の会心の一手で、すべてを黙らせてやるとするか!」
 リュウコクの指が、地図の上で北へと伸びていった。

◇◇◇
 
 その夜。湯ノ花の城の一室。
 帳簿を片づけ、布団に潜り込んだミサトは、ぼんやりと天井を見つめていた。

「ねぇリリィ。リュウコクってさ、何考えてるんだろ。最近顔も見ないし……」
『はい。ミサト。恋しちゃってますか?寝る前に考えてしまう人は大抵好きな人です。今考えましたね…』
「はぁ~ん?違うし!あいつほっとくと危ない事しそうじゃない??思想が強いんだよ…。自分ひとりで何でも出来ると思ってそうだし……さ」
『はい。ミサト。思想が強いのはミサトもだと思いますが……。 彼は今盤上で指し手を考えているはずです。駒を的確に動かすために、自分を隠す時もある』
「ふ~ん、駒ねぇ……。じゃあ私も、その駒の一つってことなのかな??」
『はい。ミサト。彼にとってはそうですね。ですが、、あなたはただの駒ではありません。盤をひっくり返すジョーカーのような存在です』

「いやいや、ジョーカーって……あんた、またそうやって変なこと言って。顔、ピエロメイクで階段で踊ったろか??ははは! でもさ、私なんかただの元社畜OLで、経済も戦争も本当はよく分かんないのに…。ここまで来れたのだってリリィとみんなのおかげだよ。あと勢いだけね♪」
『はい。ミサト。だからこそ貴女は強いのです。経験と常識と別世界から来た駒は、誰にも予測できません』

 ミサトは苦笑し、布団をかぶった。
「はぁ……持ち上げすぎだって……。そんなこと言ってくれたの、リリィくらいだよ。いつもありがとう」

『はい。ミサト。こちらこそありがとうございます。だから私は言い続けます。あなたは盤上にとって唯一の“想定外”なのです』
「……想定外、ね~。なんか、いい響きだな」

 窓の外で虫の音がチーチー鳴り、遠い空に雲が流れていった。
 その雲の向こうで、確かに駒は動き出している。
 やがて湯ノ花の灯りも眠りにつき、夜は静かに深まっていった。


          続
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