【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
112 / 179

第7話 【変装旅行と“リュカ”の再会】

しおりを挟む

 朝靄がまだ、湯ノ花の里の城の屋根にかかっているころ、天守閣の一室では布団に丸まったままのミサトが欠伸をしていた。
「ふぁ~……ん~……起きたくない……。このままこの布団に住所変更したい……。ぐぅ~ぐぅ、、」
 枕に顔を埋めながらごろごろしていると、頭の中でリリィの声が響く。

『はい。ミサト。おはようございます。今日も絶好調の社畜的寝坊ですね。出勤時刻はすでに過ぎています』
「あ~!も~!ここ異世界だから出勤とかないし!……。  よしっ!うん。起きるかっ!!」
 ミサトはぱちっと目を開け、布団から飛び起きると窓を開け放った。清らかな風が頬を撫で、天守閣の下の温泉街から賑やかな声が響いてくる。
「よしっ!昨日寝る前に考えてだんだけど……。旅行がてら……変装してアルガス行ってみるか!ねぇ、リリィ?」
『はい。ミサト。そう言うと思っていました。出張と称して観光ですね。だが悪くない判断です。アルガスを直接見るのは有意義でしょう』
「そうそう!“視察”ってやつ! 商人の国がどんなもんか、この目で見てやろうじゃないの」
 勢いよく着替えを始めるミサト。その机の上には、彼女が書いた大きな張り紙が残された。

【新規事業拡大の為、出張に行ってきます。みんな留守は頼んだぞ】

◇◇◇

 やがて天守閣の廊下をとことこ歩いてきたのは、心配そうな顔のゴブ次郎だった。
「……ボス?まだ起きて来ないのかな……。建物のことで聞きたいことあんだけどなぁ、、」
 扉の前で首を傾げると、目に飛び込んできたのはその張り紙だ。

「……しん……き……じぎょう……? ふ、ふむ?」
 難しい漢字を読み解こうと眉間にしわを寄せるが、すぐに降参してにっこり。
「はははっ!うん!お出かけしたってことだな。はいっ!わかった!」
 大真面目に頷くと、張り紙をそっと閉じたまま廊下を後にした。

◇◇◇

 ミサトは馬車に乗り港町へ、、
 潮風に吹かれながら桟橋に立ったミサトは、旅装束に身を包み、髪を布でまとめていた。変装といっても簡素な町娘風だ。
 そこへ、港の記録官ルディアが現れる。

「あらっ、、ミサトさん?……その格好は……?」
「あははっ!え~っと……変装?ってやつ? 視察? うん、そんな感じ!」
「うふふ、またずいぶんと思いきられましたね。お気をつけて……アルガスは治安がよろしいとは言えません」
「うん。ルディア、船のチケットとか色々ありがとね。湯ノ花の代表としてちゃーんと見てくるから!美味しそうなのあったらお土産も買ってくるね~♪」
 軽く手を振り、ミサトは船へと乗り込んだ。

 汽笛が鳴り響き、船が港を離れていく。
 ルディアはそれを見送り、首を傾げそっと呟く。
「……ある意味敵地に乗り込むのに…何であんなに楽しそうなんだろ……」

◇◇◇

 海の上、、
 青い水平線と白い雲がどこまでも続き、風が帆をふくらませていた。
「わぁぁ……すごい……。ねぇ!凄いよ、リリィ!本物の旅って感じ!」
 甲板に立ち、潮風を浴びながら両腕を広げるミサト。その横でリリィの声が落ち着いた調子で響く。

『はい。ミサト。せっかくなので船上で帝王学講座でもを開きましょうか。テーマは“富で勝つ戦”です』
「また始まった~!でも聞いてあげようじゃない」

『中世ヨーロッパ、ハンザ同盟は武力を持たずに交易で覇権を握りました。力で戦うよりも、相手の喉を“物資”で締める方が効果的だったのです』
「へぇ~……。つまり、温泉まんじゅうも兵器ってこと?」
『はい。ミサト。それは糖分爆弾ですね。敵兵を甘さで骨抜きにできます。もしくは大量に口に詰めることで相手の息の根を止める可能性も考えられます』
「あははっ!ちょ、リリィ!真面目に分析して返すなぁぁ!お腹よじれる!あははっ」
 ミサトが甲板で笑い転げ、周囲の船員が首を傾げる。

 空はますます澄み渡り、水平線の向こうには新しい世界が近づいていた。

◇◇◇

 やがて船がアルガスの港に到着する。
 湯ノ花の整然とした街並みとは正反対の光景に、ミサトは目を見張った。

 狭い路地には露店がぎっしり並び、金のやり取りに声を張り上げる商人たち。酔っ払った男たちが口論を始めれば、すぐに殴り合いに発展する。スリが観光客の袋を引っ掴み、逃げ去っていく。
「わぁ……すごい……。っていうかカオスぅ~……」
『はい。ミサト。これが“商人が作った国”の姿です。秩序よりも欲望が優先されています』
「こりゃ湯ノ花とはえらい違いだなぁ……」
『はい。ミサト。それは貴女の政策がちゃんとしているという証拠にもなります』
 少し照れ笑いを浮かべると、人混みをかき分けながら歩くミサト。その耳に、不意に甘ったるい声が忍び寄った。

「、、ミ・サ・ト♪」

 背筋がぞわりと逆立つ。慌てて振り返ると、そこには昔見た見覚えのある顔。だが、旅人風の外套に髪を結い上げたその姿は、いつもの王の威厳ではなかった。

「ちょっ!?な、なんでここに……リュウ、、、んっ??」
 言いかけたミサトの唇に、リュウコクの人差し指がそっと触れる。

「だ~め。ここで“名前”は言っちゃ。今の僕は“リュカ”だからね☆」
 にやりと笑うその整った顔に、ミサトの心臓は跳ね上がった。
「はぁぁぁ!?何がダメよ! そもそもあんた何でここにいるのよっ!」
「え~、ミサトだって何でここにいるの??僕はミサトが来ると思ったから、だよ?」
 わざとらしいほどの甘い声に、ミサトは顔を真っ赤にする。
「はぁぁぁ!その“母性をギュンギュンさせるやつ”やめろぉぉぉ!!何で来るのわかんのよっ! わっ、私を追ってきたとか、このストーカー!? 気持ち悪っ!あっち行けっ!」
「ふぅ~、やれやれ。君のために国を抜けてきた王子様を捕まえて、その言い草はないだろう?」
「だ、誰が王子様よっ!あんたなんかただの変態ストーカー野郎だから!」
 ぷいと顔を背けたミサトの耳まで真っ赤だ。
「ふふ……その耳の赤さ、僕に会えて嬉しい証拠だね☆」
「うるさいっ!違うっ!違うっ!!ぜ~ったい違うんだからね!」

『……はい。ミサト。リリィ、二人の恋愛糖度が高すぎで虫歯になります……。私、歯、、無いんですけど…」
「貴様っ!うるせぇぇ!機械錆びてボロボロになりやがれっ!」
『……はい。ミサト。リリィ、少しお二人を見て胸焼けしてきました。船酔いより辛いです』
「あぁぁぁ!うっさい!あんたは少し静かにしてなさい!」
「ふふふ、相変わらず君たちは可愛いな♡」
 
 賑やかなアルガスの街角で、二人の再会は甘く、そして波乱の幕開けを告げていた。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...