【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
122 / 179

第17話 【アルガスの翳り】

しおりを挟む

 豪奢な会議室に怒声が響き渡った。
 アルガスの大広間、、分厚い獣の絨毯に銀の燭台、豪華な調度が並ぶ部屋は、しかし重苦しい空気で満ちていた。

「……まただ!どうにかならんのかっ!」
 怪訝な顔のバレンティオの目前に商人の一人が、帳簿を机に叩きつけた。
「湯ノ花を経由したラインハルトの港で我らの商品が止められている! ラインハルトの奴が裏で手回しして、重税をふっかけて、売れるどころか損ばかりだぞ!!」

「おいっ!こっちで値崩れを防ごうにも、市場には湯ノ花の商品が大量に流れ込み始めている。どいつもこいつも“湯ノ花産は質がいい”と口を揃えて……!」

「バレンティオっ! このままでは俺たちの商売は立ち行きませんぞ!」

 口々に飛び交う商人達の非難。
 だが、その視線の矛先に立つのは、アルガスの総帥、バレンティオだった。

 海賊上がりの強面に金と宝石の首飾り、背にはまだ血の匂いを残す長剣。
 その男は椅子にふんぞり返り、苛立ちを隠そうともせず口角を吊り上げる。
「……ほう。俺の前で随分と吠えるじゃねぇか?三下共がよっ!」
 その声に、部屋の空気が一瞬凍りついた。
 しかし商人たちは怯むわけにもいかず、なおも訴える。

「ラインハルト国と湯ノ花の策で手が封じられているのは事実です! これ以上損を垂れ流すなら、アルガスの地盤そのものが揺らぎますぞ!」

「うるせぇな!……てめぇら少し黙れぇッ!」

 バレンティオが卓を叩いた。
 厚い板がひび割れるほどの一撃に、商人たちはびくりと身を縮める。

「なら聞くぞ?? ここまでアルガスが肥え太ったのは誰のおかげだ? 港を奪い、この地を奪い、街を築き、国にまでしてやったのは誰だ?? 俺だろうが!」
 ギラリと光る眼差しが一人一人を射抜く。
「お前ら負け犬の小心者が何十人集まったところで、一隻の船すら守れやしねぇ! 俺がいたから商人が商人でいられたんだ! それを忘れたのか! 目障りだ!てめぇら全員消え失せろっ!」

 怒号に押され、誰も言い返せなかった。
 会議室は静まり返り、ただバレンティオの荒い息遣いが響く。
 だが、商人達の不満は消えていなかった。
 むしろ押し殺された声は、別の場所で膨らんでいった。

◇◇◇
 
 、、、港の酒場。
 夜な夜な集まる商人たちは、酒を煽りながら吐き捨てる。

「もうここは限界だ……税は重くなる一方、利は削られるばかり。これじゃアルガスに留まる意味がない」
「だけどよ、、バレンティオに逆らえば島流しか、最悪殺される……ならいっそ湯ノ花に商路を移した方がマシじゃねぇか?」
「バレンティオは自分だけの威光を守ろうとしてる。俺たちは結局、使い捨てだ……!」

 愚痴はやがて噂となり、耳の早い者を通じてバレンティオ総帥のもとへ届いた。

◇◇◇
 
 数日後、、、
 愚痴をこぼした商人の一人が、全てを奪われ港から遠く離れた孤島へと流された。
 《島流し》の報せは瞬く間に広がり、酒場は静まり返った。

「……やはり逆らえばそうなるか」
「ここはもう終わりだ……。残っても地獄…逃げても地獄…」

 商人たちは恐怖に震え、そして決断する。
「なら、出て行くしかねぇ。どちらも地獄なら儲からねぇ国にしがみつく馬鹿な商人はいない」
「湯ノ花に移ればまだ道はある。ここに残れば死ぬだけだ」

 こうしてアルガスの商業連合は、少しずつ瓦解を始めた。
 富を生むはずの交易の血脈が、一筋、また一筋と失われていく。
 街は賑わいを失い、賑やかだった広場にも空席が目立つようになった。

◇◇◇

 その報せを、いち早く届けたのは港の書記官ルディアだった。
 帳簿を携えて湯ノ花に現れ、ミサトとリュウコクに告げる。

「アルガスは、もはやかつての活気を失いつつあります。商人たちは利を追い、次々と離反を始めています。バレンティオは力で抑え込もうとしていますが……もはやアルガスは限界かと」

 言葉を聞いたリュウコクは、静かに頷く。
 その横でミサトは腕を組み、ぽつりと言った。

 「、、リュウコク…頃合いだね☆」
 ミサトが言うと、リュウコクがすかさず身を乗り出した。

「あははっ!そうだね!やはり僕の妻は話が早い」
「だ~か~ら!誰が妻だっての!」
「おや、おやおや~!もう口癖のように否定してくれるなんて……それはもう認めている証拠では?」
「……あんたほんと図太いわね!ちゃんと目見て手も繋げないくせにぃぃ!」
「えっ!?繋いでいいの??」「だぁめぇぇぇ!」
 リリィが呆れたように割り込む。
『はい。ミサト。はいはい、二人とも朝から晩までイチャイチャしないでください。こちらは重要な作戦会議なんですから』

「誰がイチャイチャだ!」とミサトが怒鳴る横で、リュウコクは楽しげに笑っている。

「ふぁ~……」とマリーが欠伸をしながらぼそり。
「ほんと、朝から夜まで賑やかで退屈しないねぇ」

「……もう、みんな真面目にやりなさいよ!」
 そう言いながらも、頬が少し赤いのをリリィは見逃さなかった。
『はい。ミサト。やっぱり、これは“愛と戦略”の二重攻勢ですね』
「誰がうまいこと言えってのよ!」

 二人の視線が交差する。
 背後でリリィが淡々と告げた。
『はい。ミサト。まさに歴史が示す通りです。“国家は剣で立つのではなく、信で立つ”……古代の哲人の言葉ですね』
「はぁ……また偉人の名言か?もう誰の名言かもわからなくなってきたよ…」
 ミサトは苦笑し、肩を竦めた。
「でもまぁ、確かにその通りかもね。剣で縛った国は、剣で滅びるだけだもん。何かの映画で言ってたね…。拳で決まりつけたら拳で返されるって…!」
『はい。ミサト。ですから、次はあなたたちの番です』
 リリィの声は冷静ながらも、どこか期待を帯びていた。

 ミサトは深呼吸し、湯ノ花の街を見下ろした。
 その眼差しはもう、迷いのないリーダーのものだった。

◇◇◇
 
 しかしその夜、バレンティオはひとり酒杯を握り潰していた。
「ちっ……商人どもが逃げようが俺の知ったことか。残った奴らから絞り尽くせばいい……」
 そう吐き捨てながらも、胸奥に広がるのは苛立ちと焦り。
「リュウコク……?湯ノ花……?ふざけんなっ!このままじゃ終わらねぇ。必ず奴らを叩き潰す……血の匂いが似合う策を考えてやるぜ」
 
 アルガスの翳りは、湯ノ花にとって最大の好機。
 静かに、だが確実に。
 世界は新たな秩序へと動き始めていた。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...