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第28話 【砂漠の女王ザハラ】
しおりを挟むミサトにリュウコクの知らせが届く少し前、、
砂が鳴くような風が、頬をひりつかせる。
視界の果てまで広がる砂漠を、十数騎の隊列が進んでいた。
「なぁ、リュウコク」
先頭を並んで歩むカリオスが、頭の布を押さえながら声をかけてきた。
「これ、もし向こうでドンパチ始まったらどうするんだ? 俺たちと私兵十人と駄目ラクダじゃ、砂に埋まるのがオチだぞ」
リュウコクは口の端を上げ、まぶしい陽光に目を細めた。
「ん~…まっ、何とかなるだろ!あははっ!」
「あははって、、お前なぁ……その“何とかなる”って言葉、今まで何回俺たちを不安にさせてきたと思ってんだ?」
「えっ?何回?わかんないなぁ?? カリオス暇な時数えといてよ☆」
カリオスが頭を抱える。兵士たちが笑いを噛み殺しながら後ろを歩いた。
砂漠は過酷だったが、彼らのやり取りは乾いた空気に少しの潤いをもたらしていた。
リュウコクが持参した水筒を回すと、カリオスは一口飲んで吐き出した。
「げっ……ぬるい! 湯浴み用の水じゃねぇんだぞ!」
「おいっ!贅沢言うな。湯ノ花の命の水だぞ!」
「命の水がこんなぬるいか!?しかも湯ノ花のかいっ!」 兵士たちの笑い声が再び砂丘に響いた。
そんなやり取りの合間、リュウコクの瞳は前を射抜くように真剣だった。
(父上の時代に、このザイールが徴兵を始め、ラインハルト国へ攻め込もうとしていた……。そしてまたそれを始めようとしている……。それを解かねば、いつか再び血が流れる。今は小さな芽でも、放置すれば戦火となる…。ラインハルトと湯ノ花を戦場にするわけにはいかない)
砂の海を進み続け、やがて彼らの視界に影が現れた。
蜃気楼のように揺らめく巨大な城壁。白い大理石の宮殿が陽を反射し、金色の尖塔が天に突き刺さっている。
リュウコクは思わず口をついた。
「は、はは……こりゃ戦えば骨が折れそうだな」
威容に圧倒された彼の声は、乾いた風に溶けていった。
◇◇◇
ザイールに入ったリュウコクたちは賑やかな街並みを抜けて宮殿に辿り着いた。
宮殿の広間は、砂漠の花園のようだった。
壁には孔雀石の装飾、天井からは黄金のランプが吊り下がり、赤い絨毯が玉座へと伸びている。
そしてその玉座に、女王はいた。
長い黒髪に前髪ぱっつん。褐色の肌。金の髪飾りをまとい、白い衣に透き通るような宝石を散りばめた姿。
その瞳は夜の砂漠のように深く、冷たい輝きを宿していた。
彼女こそ、、ザイールの女王、ザハラ。
リュウコクは膝を折り、声を張った。
「急な訪問失礼する。ザイールの女王ザハラよ。私はリュウコク、ラインハルト国の新王を務める者。今日は平和を願い、話をしに参った」
女王は片手で葡萄をつまみ、唇に寄せると小さく笑った。
「くくく、平和? お前たちが剣を掲げ、我らザイールを“侵略の野望あり”と断じたではないのか?」
「それは前国王の時代のことだ! 今の我らは違う。私はその誤解を解きたいと、、」
「誤解?」
女王の笑みが深まる。やがて、、高らかに大笑した。
「ははははは! 愚かしい! 先に剣を突き付けたのはそちらだ。それを今更“誤解だった”“仲直りしよう”とは、どれほど甘い舌だ?見せてみろ?今すぐ叩っ斬ってくれるわっ!」
リュウコクは押し黙らず、真剣な声で返した。
「ならば問う。血を流し続けて得られるものは何だ? 砂は血で潤わず、憎しみは憎しみを呼ぶ。ザイールほどの豊穣を持つ国なら、交易と共栄を選ぶべきだ!」
だがザハラの瞳は揺るがない。
「砂漠に雨は降らぬ。力こそ唯一の水。弱き者が生き残れると思うな、、過去にそう言ったのはお前の父親だったな??あははっ!」
やり取りは平行線を辿り、やがてリュウコクは苦笑して立ち上がった。
「くっ!埒があかん……。カリオス、もう帰るぞ」
その言葉に女王はまた笑った。今度は冷たい響きだった。
「帰る? なぜ帰れると思った? 敵国の王がここまで来て、首をつけたまま宮殿を出られると?舌だけでなく考えも甘いなぁ??」
その声に従い、兵士たちが一斉に剣を抜いた。鋭い刃がリュウコクたちを取り囲む。
カリオスが低く唸る。
「ったく!だから言っただろうが……ドンパチになったらどうするんだって……!」
「はは、可愛い顔してけっこう過激な人なのね……まっ、今回は“何とかならん”かもしれないね。とりあえず誰も手を出すなよ!」
リュウコクは肩を竦めたが、その眼は決して怯えていなかった。
「全員!捕らえよ!」
女王ザハラの一声が広間を震わせた。
十名の私兵もろとも、リュウコクは鎖で縛られ、暗き牢へと連れ去られた。
◇◇◇
地下牢の中、乾いた藁の上に腰を下ろし、リュウコクは小さく息を吐いた。
「……さてと、、どーするかね?とりあえずぼぉ~っと考えるか…」
その呟きは、ひんやりとした石壁に吸い込まれていった。
隣で同じく鎖につながれたカリオスが、頭を抱えてぼやく。
「なぁ……どうすんだよ? これ。俺ら、あっさり牢屋行きじゃねぇか。俺と私兵十人連れてきた意味どこ行った?暴れさせろ!!」
「暴れさせろって…カリオス、君もなかなかの過激派だね! まっ!十人は十分頑張ったさ。結果は変わらないけどね」
「お前なぁ! こいつらの命懸けの遠征を“頑張ったさ”で片づけるな!なぁ!お前らも何か言ってやれ!」
カリオスの言葉に私兵たちは苦笑いを浮かべる。
「ははっ。そう怒るなって。牢の中で喚いたところで、別に飯が豪華になるわけでもない」
「笑いごとじゃねぇ……処刑って言ってただろ!?俺たち砂漠に晒されて鳥の餌じゃねぇのか!?」
「まぁ……その時はその時だ」
「“まぁ”って言うな! 俺はまだ酒も女も諦めきれてねぇんだぞ!」
リュウコクは肩を揺らして笑った。
「安心しろ。俺の勘じゃ、まだ終わんないよ……。必ずチャンスが来る…。そこを見誤れなければ脱出できるでしょ☆」
「なんだ、お前のその根拠のない自信……。まぁ、お前が黙って処刑されるわけは無いわな…。あぁ~あ、それじゃそのチャンスとやらを俺は寝ながら待つとするか!」
二人の声だけが、冷たい石の牢獄にいつまでも響いていた。
続
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