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第31話 【宝石と宮殿と本当の幸せ】
しおりを挟む砂漠の朝は、やたらと騒がしい。ラクダの鳴き声に屋台の呼び込み、スパイスの香りが混じり合って、町全体が熱気を帯びていた。
宿から出たミサトたちは、その光景に目を細めながら歩き出す。
「さ~て!、今日は“潜入大作戦”の準備ね!昨日の作戦会議通り、、」
ミサトが意気揚々と口を開いた瞬間。
「、、、おい、お前ら!」
不意に響いた声に三人が振り向くと、そこに立っていたのは、どこか懐かしい赤茶のマント姿。
そして、その隣には見覚えのある少女の顔。
「えっ!? バレンティオ!? ……と、フィオナ!? なんでここに!」
マリーが素っ頓狂な声を上げる。
アルガスの元国王、、いや、今はアルガスの商人となった男、(基本、慈善事業とフィオナの子守)バレンティオは堂々と腕を組み、口の端を吊り上げた。
「ふん、ラインハルトの坊ちゃんの処刑の知らせはもう各国に届いてるだろ。当然アルガスにも届いてたぞ。心配になって湯ノ花に行ったら、お前らがザイール向かったって聞いてよ……追いかけてきたのさ」
「えっ……つまり、わざわざ?」
「おう。どうしてもお嬢ちゃんがお姉ちゃんに会いたいって駄々こねるからよ、、俺も渋々だよ!」
バレンティオの隣で、マリーにそっくりな少女、フィオナがにっこり笑った。
「お姉ちゃん!ずっーと帰って来ないからフィオナ、寂しかったんだから!」
「フィオナ!? あんた、なんでこんな所まで来てんのよ!家で待ってなって言ったでしょ?」
「だってぇ、バレチンが“んじゃ冒険行くか?”って言うからついてきたの!」
「バ、バレチン!? その呼び方やめなさいって!」
マリーが赤面して叫ぶが、バレンティオは妙に嬉しそうに笑っていた。
◇◇◇
「で……坊ちゃん助けに行くんだろ?お前らの作戦を聞かせろ」
街外れの人気のない通りに入ると、バレンティオが促した。
ミサトは昨日立てた計画をざっと説明する。供物を偽装し、群衆を混乱させ、その隙に牢からリュウコクを救い出す、、、。
「くっくっ、……なるほどな。なら、これを使え!」
バレンティオは腕から宝石のついたブレスレットを外し、ミサトに差し出した。
「王宮に献上する贈り物としては十分すぎる。こいつをトロイの木馬代わりに使え。それで牢に捕まってる坊ちゃんに何か贈れ」
「えっ??う、受け取っていいの? すごい高そうだけど……。贈り物かぁ??何贈ったらいいだろ??」
「心配すんな。宝石なんざ腹の足しにもならねぇ。贈り物はそうだなぁ?……ラブレターでも贈っとけ!」
彼はそう言い切ると、ふとミサトを睨んだ。
「それからもう一つ。湯ノ花の名を出すなよ。正体がバレたらアウトだ。……ちゃんと変装しとけよ?」
その言葉に、ミサトは「はっ??……えっ??」と固まった。
「いやいや!やだなぁ~、、 私、だってもう変装してるでしょ!? ほら、この布! 紫と黄緑のストライプで目立たないように……」
『「それが目立ってんだよ!!」』
マリーとリリィが同時に突っ込む。
『はい。ミサト。逆に“この人が一番怪しいです”って矢印背負ってるようなものですから。もう認めてください』
「そ、そんなぁぁぁ! 昨日からずっとダサいって言われてるぅぅ!」
ミサトは頭を抱えてしゃがみ込み、バレンティオは盛大に吹き出した。
「あははっ!おもしれぇな!!とりあえずお前は宮殿に向かえ。俺とマリーはやるべき事をやっとく…」
ミサトは頷き宮殿の方へ歩き出した。
◇◇◇
午後、バレンティオたちは街の裏通りへと足を踏み入れた。
そこは商人や傭兵が酒を酌み交わす、胡散臭さ全開の溜まり場。
バレンティオは真っ直ぐ歩み寄ると、一人の太った男に声をかけた。
「……よぉ、久しいな」
「ほう? 誰かと思えばバレンティオじゃねぇか!」
男は目を細め、そしてマリーとフィオナを見やってニヤリとした。
「へぇ……人売りに転職したのか?? 赤髪の女は高く売れるぞ? 人身売買ならいい値がつく。俺が買おうか??」
「はぁ!?売らねぇよ!!」
バレンティオは机をドンと叩きつけ、怒声を上げた。場が一瞬しんと静まり返る。
「ちっ、冗談だよ冗談…そんな怒るなよ…」男は肩をすくめた。
「で? 何の用だ?」
「腕の立つ傭兵を十人ぐらい探してる」
「ははっ! 金がかかるぜぇ」
男は指でカネのサインを作り、にやにやと笑う。
バレンティオはためらわず、首から外した豪華な宝石の首飾りを卓上に置いた。
「これで足りるか? 足りるなら釣りはいらねぇ」
その煌めきに、男の目がギラリと輝く。
「……お、おいおい。ずいぶん太っ腹じゃねぇか…。どうした?あんなに金が好きだったじゃねぇか?」
「ははは、今は金なんざどうでもいいさ。それに金にも困ってねぇし……。俺はな……でかい宮殿も宝石も、もう本当の幸せにはいらねぇって分かったからな」
バレンティオはそう言って、フィオナにやさしく目をやった。
フィオナは照れ笑いを浮かべながら「うふふ、バレチン、かっこいい!」と無邪気に言う。
それを見たマリーは少し頬を赤らめ、ぼそりと呟いた。
「……アンタ、丸くなったわね~」
「はは、よせよ!揶揄うな。俺も一応人の子だ…」
照れ隠しのようにバレンティオは鼻を鳴らす。
◇◇◇
「ねぇ、バレチン! フィオナ、お腹すいた~!」
フィオナが甘えるように袖を引っ張ると、バレンティオは柔らかく笑った。
「おう!そうか。じゃあ何か食いに行くか」
「ねぇバレチン、フィオナね、今度はパンじゃなくてお肉が食べたい!」
「お、おう……さっき湯ノ花の蜂蜜パン三つ食べただろ?」
「蜂蜜パンは軽食!お肉は本命!」
「ははは、誰に似たんだか……」
苦笑しながらマリーを一瞥すると、バレンティオは小さな手をとって歩き出した。
「よし、じゃあ今日は特別に肉祭りだな。財布が泣くぞ」
「財布が泣いた分、フィオナが笑うもん!」
その屈託のない声に、マリーがふっと微笑む。
「ふふ、フィオナったらすっかり懐いちゃって……幸せって、こういうことなのかもね」
その姿を見つめるマリーの胸に、温かなものが広がる。かつて荒んでいた元国王が、今は子供を大切にする一人の父親のように見える、、、。
砂漠の町の喧噪の中で、仲間たちの絆はまた一歩強く結ばれていった。
続
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