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第12話 【赤よりも青が似合う日】
しおりを挟むミサトが息を詰めて思考を巡らせている、その時だった。
「……あ~、、効いた効いた…。久々に殴られたな…」
床に転がっていたはずのボルドが、まるで昼寝から起きたみたいに、むくりと上体を起こした。
「おい、チャムチャム…元気か?」
「……げほ、、げぼっ……、、すっごく元気♪胸に穴あいちまったけどな!」
チャムチャムは口から血を吐き、歯を赤く染めながら笑った。
「あぁ~あ!最悪だねぇ……朝から胸に穴が空くなんてよ……。ゲホゲホ……お気に入りの毛皮にも穴が空いた…これじゃ心落ち着かせる深呼吸も出来ねぇよ」
「ふふ、、だろうな。俺も顔面殴られた。美容に悪ぃ。朝せっかく綺麗な水で顔洗ったのによ!」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
その様子を見て、アイスマンが一歩前に出る。
「この状況で随分と余裕だな……。 なぁ、ボルド」
低く、氷みたいな声で喋り出す。
「今なら、お前もこっちに来ていいぞ。そんな負け犬の右腕なんて、やめちまえよ」
一瞬、場が静まる。
次の瞬間、、、
ボルドが腹を抱えて笑った。
「あははははははっ!!」
チャムチャムを指をさす。
「おいっ!チャムチャム!負け犬だってよ!!あははっ!差し詰めバター犬ってか!?あはは!あー可笑しい!」
「げほっ……あはははははっ!!」
チャムチャムも血を吐きながら笑う。
「ははは……でもよぉ……」
ボルドは肩をすくめる。
「こいつの右腕やめられるなら、ちょっと考えるなぁ……チャムチャムの右腕は大変だからなぁ……。 何が大変かって?」
ニヤリと笑うボルド
「毎日こいつの竿を優しく握らなきゃならねぇんだぞ!?」
市場の空気が、一瞬で凍った。
次の瞬間。
「「あははははははははっ!!間違いねぇな!!」」 チャムチャムとボルドが腹を叩いて笑う。
「それにしてもさ……」
ボルドはチャムチャムの血まみれの手を掴み、力任せに引き上げた。
「こいつら、何か勘違いしてねぇか?」
二人の足元がぎしぎし、めりめりと木と土が鳴る。
「青が強ぇのは、数が多いからだって??」
二人が首を振る。
「違ぇよなぁ……」「あぁ…」
チャムチャムが立ち上がる。
「「俺たち二人が強ぇから青が強いんだよ!!」」
「あはは!それも間違いねぇな!!」
チャムチャムが拳を鳴らす。
「さぁてと……。赤いおべべ着て決め込んでる坊や達にお仕置きの時間だ!!」
赤い波に青い光が、ぶつかる。
その瞬間。
「、、おいっ!!今だ!お前ら早く着けろ!!」
スピードが赤い布を放り投げる。
「考えてる暇はねぇぞ!!どさくさに紛れて赤になるぞ!!」
ミサトは、その布を見つめ、、空を見上げた。
赤く染まりかけた、埃の舞う空。
「ねぇ……みんな」
静かな声。
「昼間に空が赤いのって何か嫌だよね?」
誰も否定しない。
「海が赤いのも、嫌だよね?」
『はい。ミサト。非常に非推奨的です』
リリィが答える。
「そやな、、後味、最悪や」
ニアも頷く。ゴブ太郎も、ゴブ次郎も戦闘態勢に入り、無言で首を縦に振る。
ミサトは笑った。
「よしっ!!青に決めた!」
ミサトが決断して赤布を投げた瞬間、スピードが驚き、指示が飛ぶ。
「ゴブ次郎!チャムチャムに殴られないように、傷口にエルフの薬草貼って来て!危ない時の多少の暴力は正当防衛としてみなします!」
「ニア!ゴブ太郎!逃げ道確保とゴブ次郎の護衛!」
「スピード!道案内!」
拳を握る。
「私は、、“悩殺お色気拳法”で応戦!!」
『はい。ミサト。倫理的に問題がありますが、有効です。ですが過度の性的描写はR指定になります』
◇◇◇
戦闘は、混沌だった。
青が笑い、赤が吠える。
血が飛び、露店が崩れ、人々が逃げ惑う。
ミサトは必死に距離を取り、状況を見つめ、攻撃を避け、布を翻す。
「きゃっ!ちょっ……!あんた近い近い近い!!てかどこ触ろうとしてんの!?変態!抱きつくなっ!!」
「暴れんなって!こっち来いって!可愛がってやるから、、おっ!?お前いい匂いすんな~」
背後から抱きつかれて連れて行かれそうになった瞬間、、、
ゴンッ!!
「ミサト!!」
ニアの振り抜いた長い棒が、ミサトの顔横をすり抜け赤布の男を吹き飛ばした。
「わぁおっ!助かった~。危うく可愛がられる所だったぜぇぇい☆。 ニアって……強いの?」
息を切らして余裕ぶって聞く。
「はぁぁん!当たり前やろ」
肩をすくめる。
「棒使わせたらザイールじゃ、姉さんの次や」
「……頼もしっ!!」
一方、チャムチャムとボルドは笑いながら赤の波を殴り倒していた。
「数は多いねぇ!!」
「暇しねぇな!!」
チャムチャムが笑った瞬間、左胸から血が滲んだ。
「おいっ!チャムチャム!!」
低い声と同時に、小さな影が滑り込む。
「……なんだ?今度はどこの赤だ?んっ?怪物か??」
チャムチャムがゴブ次郎を睨む。
「違う!怪物かも知んないけど敵じゃないっ!俺は、ゴブ次郎だ!」
ゴブ次郎は片膝をつき、素早く布袋を取り出した。
「おい…近寄るな。今、裏切りが流行ってんだ…殺しちまうぞ…」
「分かってる。でも……信用しろ!」
次の瞬間、ゴブ次郎はチャムチャムに殴られるより早く、裂けた毛皮をめくり、傷口に薬草を押し込んだ。
「おい!?やめろ!俺の体に何入れた!?……ちっ、冷てぇな」
「エルフの薬草だ!絶対効く!文句言うな!肺が一つ無くなるぞ!」
チャムチャムが一瞬だけ動きを止める。
血の流れが、目に見えて鈍った。
「……へぇ?こりゃ上物だなぁ!」
「ほら見ろ!疑うなら後で殴れ!殴り返すけどな!とりあえず今は生きろ!」
チャムチャムは歯を見せて笑った。
「ははっ!いい度胸だな、、怪物!」
「怪物って言うな!ほらっ!早く暴れろっ!」
その状況を見たボルドはニヤッと笑い、、
「ふふっ!チャムチャム復活か?もう庇わなくて大丈夫そうだな…」
次の瞬間、チャムチャムは再び前に出た。
その背中は、さっきより少しだけ、、大きく、重く、強かった。
だが。
アイスマンだけは、動かない。
冷たい目で、戦場全体を見渡し、、、
そして、ミサト達を見た。
「……あいつら、、邪魔だな」
同時に、メキルが叫ぶ。
「ふんっ!始まったならしょうがねぇ!!」
冷静な声、、から叫び声に変わる。
「ちきしょぉぉぉ!!お前ら店じまいだ!!客を逃がせ!高い物は奥にしまえ!!死体に価値はねぇが商品は高くつくぞ!!」
市場が、動く。
その一瞬の隙を突いて、、
「おいっ!道、空いた!!」
ゴブ太郎が叫ぶ。
「今だ!!走れ!!後ろは俺たち兄弟に任せろ!!」
一行は走った。チャムチャムとボルドも渋々その場を後にした。
露店の間、裏路地、洗濯物の下、崩れた木箱を飛び越えて。
「こっちだ!!」
チャムチャムが振り返る。
「ちょっと俺ん家寄れ!!ママが危ねぇ!!」
路地裏を抜け、階段を駆け上がり、古い扉を蹴破る。
玄関前に到着。
息を切らし、壁に背を預ける。
「へへ、、まだママは無事みてぇだな…」
チャムチャムが微笑み呟く。
「はぁはぁ、、みんな……生きてる?」
ミサトが呟く。
『はい。ミサト。ゴブ太郎、ゴブ次郎も合流して奇跡的に全員生存しています』
「ははは、、ならよかった……。ゴブちゃん達ありがとうね」
チャムチャムが口の血を拭い、笑った。
「あははっ!面白ぇ女だな……ビッチ♪」
「あぁぁんっ!命助けて貰ってまだそんな事言うかっ!!ビッチって言うなっ!!」
「あぁはぁんっ!助けて貰ってねぇよ!あそこからあいつら壊滅させようと思ってた所だ!」
「ばっかじゃないの?!口から胸から血出してハァハァしてたくせに!あははっ!」
ミサトは笑い返した。
「ねぇチャムチャム。今の状況でそれ言える神経、普通に社畜向きだと思うよ。あんた、パワハラ上司適性SSランク」
「ははっ!何だそれ??褒めてんのか??」
『はい。ミサト。社畜適性が高い人物ほど、理不尽を冗談で処理します』
「やめて!?今私の事言ったでしょ?!私を分析しないで!?」
チャムチャムは喉を鳴らし、太巻きを探す仕草をしてから諦めた。
「ちっ!太巻き落としちまったか……。俺な、、刺されて思ったんだわ」
「何を?」
「“今日もまた仕事か”ってな」
「うわぁぁぁ!最悪の労災感想やめて!!」
『はい。ミサト。補足します。刺傷は本来、業務範囲外です』
「ほら!チャムチャム聞いた?リリィちゃんが“それはブラック企業です”って言ってるよ」
「ははっ!さっきからお前ら何言ってるかわかんねぇよ!要するに俺は誰かに怒られるんだな??まぁ、、俺を怒ったら殺すけど!あははっ!!」
ミサトは苦笑し、空を見る。
「でもさ……私たち生き残ったじゃん」
『はい。ミサト。残業確定ですが』
「ぷぅぅぅぅんっ!!残業とか言うのやめろぉ!!こっから命懸けの残業が始まるんだから……」
チャムチャムが肩をすくめた。
「命あっての稼業だ。今日一日笑えりゃ上等だろ?まっ!家寄ってけよ!ママのチキン食わしてやる」
「あはは……そうだね。お邪魔して行くわ。私もさ、別に世界救うつもりでここに来たわけじゃないし。チキンた~くさん頬張ってやるっ!」
『はい。ミサト。遠慮は必要です。そしてあなたはいつも成り行きで修羅場に巻き込まれています』
「くぉぉぉのぉぉぉ!!それを言語化するな!!気が滅入る!あははっ!」
笑いが、血と埃の匂いの中に溶けた。
だが、、、まだ終わってない。
でも今は、生きてる。
それだけで、今日は合格だった。
赤い夕日の空の下。
青を選んだ、その日。
物語は、もう後戻りしない。
続
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