家ごと異世界ライフ

ねむたん

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森を探索

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窓の外をぼんやり眺めながら、私は一つ深呼吸をした。いつもなら聞こえるはずの車の音や人の声は一切なく、ただ森のささやきだけが耳に届く。ここが本当に現実なのかどうか、いまだに信じきれていないけれど、とりあえず落ち着いて目の前の状況に向き合うしかない。

「まずは、食べ物と飲み物の確認だよね。」

こういう時、家ごと異世界に転移してしまったことが幸いだったかもしれない。とにかく中を確認しようと、台所に向かった。冷蔵庫を開けると、見慣れた日用品が詰まっている。卵に牛乳、野菜もそこそこあるけど、全部がいつかなくなるものばかりだ。期限の切れたプリンのパックを見つけて、ちょっとだけ気分が沈む。

「…まあ、これで数日は持つかな。」

その後、棚の中も確認してみた。パスタや缶詰、お米なんかが意外と充実していて一安心。それに水道が使えるというのは本当にありがたい。蛇口をひねると、普通に透明な水が流れてくるのを見て、妙に感動してしまう。未知の場所にいるはずなのに、家の中だけがまるで元の世界と同じように機能している。

「ふむ、これならしばらくはなんとかなる…よね?」

そう自分に言い聞かせていると、背後でかすかな音がした。振り返ると、昨日出会った小さな妖精たちがふわふわと浮かんでいる。レイが私の前に飛び出してきて、ぴかっと明るい光を放った。

「紬!元気になった?今日はどうするの?」
「うん、ちょっと物資の確認をしてたの。でもこれから森を探索しようかなって思ってるの。」

私がそう答えると、アクアがのんびりとした声で言った。
「外は気をつけてね。森にはいろんな生き物がいるから、私たちも一緒に行くよ。」

「ありがとう、頼りにしてるよ。」

私はエプロンのポケットにナイフやちょっとした道具を詰め込み、妖精たちと一緒に森へ向かった。足元にはふかふかの苔が広がり、木漏れ日が地面を揺らしている。この森には何があるのか、どんな世界が広がっているのか、まだ何もわからない。だけど、ほんの少しだけ冒険心が湧いてきた。

「さあ、探検スタート!」

私は自分に言い聞かせるように声を上げ、小さな第一歩を踏み出した。

森の中は思ったよりも静かだった。風が木々を揺らす音と、足元でサクサクと鳴る枯葉の音だけが響いている。私はあまり深く入りすぎないよう気をつけながらも、目に映る景色に少しずつ心が弾んでいく。

「森って、もっと暗くて怖いイメージだったけど…意外と明るいんだね。」
「あったりまえでしょ!」とレイが胸を張った(ように見えた)。「ここは私たちがいるから、ちゃんと光が差し込むんだよ!」

確かに、木々の間から降り注ぐ光がぽつぽつと地面を照らし、まるでステージのスポットライトみたいだ。気づけば私は鼻歌を口ずさんでいた。

「紬、機嫌がいいんだね?」
ふわりと飛びながらアクアが微笑むように言う。
「うん、なんだかね。ここが危険な場所だって分かってるはずなんだけど、不思議と落ち着くんだ。」

ふと足元を見ると、色鮮やかなキノコがいくつも生えているのに気づいた。赤、青、紫…まるで絵本の中に迷い込んだみたい。しゃがみ込んでじっくり観察していると、ファイアが勢いよく近づいてきた。

「紬!そのキノコは触るな!」
「えっ、なんで?」
「毒キノコだ!触ったら痒くなるぞ!」

私は慌てて手を引っ込める。どんなに見た目がかわいくても、ここはやっぱり異世界なのだと改めて実感した。

「ありがとう、フレア。教えてくれなかったら大変なことになってたね。」
「ふん、これくらい当然だ!」

彼の熱血ぶりには思わずクスッと笑ってしまう。

歩き続けていると、やがて小川のせせらぎが聞こえてきた。川に近づくと、水が透き通っていて魚の影がゆらゆらと揺れている。私はその美しさに見とれてしまった。

「ここで水を汲んだら料理にも使えそうだな。」
「いい考えだね。でもこの川、ただの川じゃないよ。」アクアがすっと近寄り、川面にふわりと浮かびながら言う。「この水にはちょっとした癒やしの力があるんだ。」

「えっ、そうなの?」私は驚きつつ、両手ですくって少し飲んでみた。ひんやりとした水が喉を潤し、なんだか体が軽くなるような気がする。

「ほんとだ、すごい…!」
「この川は森の命の一部なんだよ。だから大切にしてね。」

妖精たちの言葉にうなずきながら、私は少しだけ水をペットボトルに詰めた。こんな風に新しい発見があると、森での生活がもっと楽しくなりそうだ。

「さ、そろそろ戻ろうか。今日はいい収穫があったし!」
「おーい!」フレアが先頭を飛びながら叫ぶ。「次は何を見つけるんだ!?」

「次も楽しみにしててね。」私は笑顔で答え、妖精たちと一緒に森を後にした。
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