家ごと異世界ライフ

ねむたん

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知恵の木

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食事を終え、ほっと一息ついた紬は、妖精たちとキッチンのテーブルを囲んで座っていた。ほのかに残るスープの香りと、森の静けさが心地よい。

「ねえ、紬ちゃん。」レイがぽんっとテーブルの上に降り立ちながら言った。「森の掟、ちゃんと知っておいたほうがいいよね。」

「森の掟?」紬はスプーンを置いて首をかしげた。「そんなのがあるの?」

「もちろんさ!」フレアが元気よく答えた。「この森には昔からのルールがあるんだ。それを守れば、ここでみんな仲良く暮らせるんだぜ!」

「仲良く……って、そんなに難しいことなの?」少し不安そうに紬が尋ねると、アクアが優しく微笑みながら言った。

「ううん。基本的には簡単だよ。森の生命や環境を大切にすること。それから……」

レイが続ける。「他の住人を傷つけないこと。そして、勝手に大きな変化を起こさないこと。例えば、火を乱暴に使ったり、森を切り開いたりしないってことだね。」

「それって、人間世界でも普通のマナーみたいな感じだね。」紬はほっとしたように微笑んだ。「じゃあ、そんなに怖いルールじゃないのかな。」

「そうだな!」フレアが胸を張る。「でも、火は特別注意が必要だ!オレがいつも見張ってやるから安心しろ!」

「ありがとう、フレア。気をつけるね。」紬は真剣に頷いた。

「あともうひとつ。」アクアがそっと付け加える。「森の中心にある『大樹の広場』に行くときは、挨拶を忘れないこと。あそこには森の知恵を守る『知恵の木』がいるの。」

「知恵の木……?」紬はその言葉に興味を引かれた。「森のことをたくさん知ってる木ってこと?」

「そうそう!」レイが楽しそうに説明を始める。「森の歴史とか、住んでいる生き物のこととか、いろんなことを知ってるんだよ!」

「うーん、すごいなあ。じゃあ、私も知恵の木に会いに行きたいな。」

「それなら、明日行ってみるのはどう?」アクアが提案する。「私たちが案内するよ。」

「ほんと?じゃあお願いしようかな!」紬は嬉しそうに笑顔を見せた。

その夜、紬はベッドに横になりながら、今日の出来事を振り返っていた。異世界に来てまだ数日しか経っていないのに、もうこんなにいろんなことがあった。

「森の掟か……。」紬は小さく呟いた。「でも、この森の住人たちはみんな優しいし、楽しくやれそうだな。」

窓の外には、星空が広がっている。風が葉を揺らす音が静かに響き、どこか安心感を与えてくれる。

「明日は知恵の木に会えるんだ。」そう思うと、少しだけ胸が高鳴った。

紬はふと鼻歌を口ずさみながら、眠りについた。

翌朝、柔らかな日差しがカーテン越しに差し込む中、紬は目を覚ました。昨日の妖精たちとの会話を思い出し、今日の冒険に胸を弾ませる。

「よし、準備しよう!」紬はさっそく着替えを済ませると、簡単な朝ごはんを済ませて家を出た。

家の外では、すでに妖精たちが待っていた。光り輝くレイ、元気に飛び回るフレア、そして落ち着いた表情のアクアが、それぞれふわふわと浮かんでいる。

「おはよう、紬ちゃん!」レイが明るい声で挨拶する。「準備はできた?」

「うん、バッチリだよ。行こう!」

こうして紬たちは森の奥へと進み始めた。

森の中は朝露がきらめき、鳥たちのさえずりがどこからともなく聞こえてくる。紬は周りの美しい風景に見とれながら、妖精たちの後をついて歩いていた。

「ここら辺はまだ安全だよ。」レイが振り返って説明する。「でも、知恵の木に近づくときは気をつけてね。」

「気をつけるって……危ないことがあるの?」紬が不安げに尋ねると、アクアが静かに答えた。

「ううん、危険じゃないけど、森の精霊たちは『外から来た人』に厳しい目を向けることがあるんだ。だから、礼儀正しくすることが大事だよ。」

「そっか……ちゃんと挨拶しないとね。」

その言葉にファイアが笑顔で頷く。「大丈夫だって、紬なら!お前、結構いいやつだからさ!」

「ありがとう、フレア。」紬は少し照れくさそうに微笑んだ。

しばらく歩くと、周りの木々が次第に背を高くし、幹が太くなっていくのがわかった。空気が少しひんやりとしてきて、紬は肩をすくめる。

「ここが『大樹の広場』だよ。」レイが声を低めながら言った。

目の前には、他の木々とは一線を画す巨大な樹木がそびえ立っていた。その幹は紬が両腕を広げても到底届かないほど太く、枝葉は空を覆い隠すほどに広がっている。

「すごい……こんな大きな木、初めて見た。」紬は思わず息を呑んだ。

そのとき、大樹の幹に浮かび上がるように、一対の目が開いた。まるで木そのものが生きているかのようだ。

「……誰だ。」深く低い声が広場に響き渡った。

紬は驚きつつも、妖精たちに教わった通り、ゆっくりと頭を下げて挨拶した。「はじめまして。私は紬っていいます。この森に住んでいる人間です。」

「紬……人間か。珍しいこともあるものだ。」大樹の目が静かに紬を見つめる。「ここに何の用だ。」

紬は少し緊張しながら答えた。「この森のことをもっと知りたくて、あなたに教えてもらえたらと思って来ました。」

「ほう……」大樹はしばらく考え込むように沈黙した後、再び口を開いた。「いいだろう。この森の知識を少しだけ分け与えてやろう。」

その瞬間、紬の周りを柔らかな光が包み込んだ。

「森を守り、掟を守るならば、私はお前を歓迎しよう。」

大樹の広場に響くその言葉に、紬は深く頷いた。そして、この森での生活がさらに深まっていく予感に、胸を高鳴らせるのだった。
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