9 / 75
森の家第一号
しおりを挟む翌朝、紬は庭で収穫したばかりの野菜をカゴに詰めながら、家族の様子を眺めていた。男の子が元気を取り戻し、庭で妖精たちと楽しそうに遊んでいる姿を見ると、紬はふと考えた。
「この家族、ずっと私の家に住むわけにはいかないよね……」
食卓も寝床も限られているこの家で、さらに人が増えるとさすがに手狭だ。紬は悩みながら、森の住人である知恵の木の存在を思い出した。
「そうだ、知恵の木なら何かいい案を出してくれるかも!」
紬はさっそくライルと家族を連れて、森の奥にある知恵の木のもとを訪れた。知恵の木は森で最も古い樹木で、どっしりとした幹には年輪の重みを感じさせる威厳があり、その枝葉は陽光を受けてキラキラと輝いている。
「おお、紬か。また面白そうなことを考えておるな。」知恵の木は穏やかな声で話しかけてきた。
「こんにちは、知恵の木さん。今日は相談があって来ました。」
「ほほう、話してごらん。」
紬は、最近森に来た家族が安全に暮らせる場所を作りたいということ、しかし自分の家では限界があることを説明した。
「なるほどのう……それは確かに、彼らのための家が必要じゃな。」
「何かいい案はありますか?」
知恵の木はしばらく黙り込んで考えていたが、やがてゆっくりと枝を揺らしながら答えた。
「この森には、まだ使われておらぬ空間や資源がたくさんある。わしが力を貸そう。森の素材を使って家を作るのじゃ。」
「本当ですか?!」紬は目を輝かせた。
「ふむ。お主らも手を動かすことが条件じゃぞ。わしがすべてやるのでは、学びにならぬからの。」
「もちろんです!私たちで一緒に作ります!」
次の日から、紬と家族、ライル、それに妖精たちも協力して家づくりが始まった。知恵の木は根から特別な木材を分け与え、光の妖精ルミは家の中を明るく照らすための自然光を集める魔法を使った。
「この木、すごく軽いのに丈夫だね!」ライルが手にした木材を眺めながら感心している。
「お父さん、この木でテーブル作れるかな?」男の子が嬉しそうに尋ねると、父親は微笑みながら答えた。
「もちろんさ。一緒に作ってみよう。」
水の妖精アクアは川から水を運び出し、泥で地面を固めて基礎を作る手伝いをした。一方で火の妖精フレアは暖炉の設計に力を貸し、家の中に心地よい温もりをもたらすための仕掛けを教えた。
「こんなに楽しい仕事、久しぶりだな!」父親が感動したように言い、母親も微笑みながら同意した。「これなら私たちの家族も、少しずつここで自立していけそうです。」
一週間後、家は完成した。森と自然に調和した木造の小さな家で、家族全員が快適に暮らせるよう工夫が凝らされている。リビングには知恵の木から贈られたシンボルの枝が飾られており、壁には光の妖精ルミが残した魔法の輝きが柔らかく灯っていた。
「すごい……夢みたいなお家だ。」男の子が目を輝かせて家を見上げる。
「知恵の木さん、本当にありがとうございました!」紬が木に向かって深々と頭を下げると、知恵の木は静かに葉を揺らした。
「これも、みんなが力を合わせた結果じゃ。これからもこの森で協力して生きていくのじゃぞ。」
「はい!」紬と家族、そしてライルが声を揃えて答えた。
こうして、森に新しい家ができ、家族は安心して暮らせる場所を手に入れた。紬は改めて、この森で新しい住人たちが共に生活し、支え合う未来を想像し、胸を膨らませるのだった。
424
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる