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つながる
しおりを挟む家の完成から数日が経ち、森の生活にもすっかり馴染んだ家族は、ただ住むだけでなく、森に貢献できる何かをしようと考え始めていた。
「この森には本当にいろんなものがあるんだね。」母親が薬草を摘みながらつぶやいた。「町では手に入らないような材料ばかりで、きっと外の人にも役立つものがたくさんあるはず。」
「そうだね。でも、どうやってそれを町の人に届けるんだろう?」父親が考え込んでいると、ライルが笑いながら手を挙げた。
「そこは俺の出番だな!俺が町に行くついでに、この森の名産品を少しずつ広めてみようか?」
「名産品?」紬が興味津々で身を乗り出す。「どんなものがいいかな?」
「そうだな……」ライルは考え込むと、目を輝かせて言った。「薬草を使ったお茶とか、森の果実で作ったジャムなんかどうだ?」
「それいいかも!」紬はすぐに賛成した。「それなら私も手伝えるし、森の自然の良さを知ってもらえそう!」
さっそく家族と紬、そして森の住人たちは名産品作りに取りかかった。
母親は森で採れる薬草をブレンドし、香り高いハーブティーを試作した。セイラが採集した新鮮な果実はジャムに加工され、アクアが冷たい水を使って保存状態を整える手伝いをした。
「このジャム、酸味と甘みのバランスがちょうどいいわね。」母親が味見をしながら言うと、妖精たちも口々に褒めた。
「すっごく美味しい!町の人たち、これ絶対気に入るよ!」ルミが目を輝かせる。
父親は森の木材を使ってお茶やジャムを入れるための小さな箱を作った。知恵の木が提供してくれた特別な木材は、見た目も美しく香りも良い。
「この木箱に入れれば、贈り物としても喜ばれそうだ。」父親は箱を組み立てながら、満足そうに頷いた。
商品が完成すると、ライルは町に向かう準備を始めた。紬と家族は荷物をまとめ、簡単な説明書きを添えた。
「このお茶はリラックス効果がありますって書いておきました。」紬が説明書きを手渡すと、ライルはそれを読んで笑った。
「いいね、ちゃんと商品の良さが伝わりそうだ。俺が責任持って広めてくるよ!」
ライルはジャムとお茶を詰めた箱を荷車に積み、森を後にした。
その夜、家族は森の家で夕食を囲みながら、ライルが無事に町に着くよう願った。
「こうやって自分たちで何かを作って、外の人たちにも届けられるって嬉しいわね。」母親が笑顔で言うと、父親も頷いた。
「俺たちも少しずつ、この森に貢献できる方法を見つけていこう。」
紬は家族の会話を聞きながら、心の中で森と外の世界を繋ぐ架け橋になれたらいいなと思った。森の掟を守りながら、新しい住人たちと共に暮らしを豊かにしていく未来を想像すると、自然と鼻歌がこぼれた。
妖精たちがその様子を見て、嬉しそうに空を舞った。光、火、水が紬の周りで優しく輝き、森全体が穏やかな夜に包まれていった。
ライルが森を出て町に向かってから数日後、紬は自宅の庭で収穫作業をしながら、彼の帰りを心待ちにしていた。
「ジャムもお茶も、町の人たちに気に入ってもらえるといいなあ。」
そうつぶやいていると、森の入口の方から賑やかな声が聞こえてきた。
「おーい、紬!戻ったぞ!」
紬が顔を上げると、ライルが荷車を引きながら現れた。その後ろには初めて見る男性が一緒に歩いている。彼は中年くらいの年齢で、軽そうな身のこなしに加えて、どこか抜けたような笑顔を浮かべていた。背中には大きなリュックを背負い、手押し車にはさまざまな商品が山積みになっている。
「ライル、おかえり!その人は……?」
「紹介するよ、この人はオルドさん。町の行商人だ。」ライルがそう言うと、オルドはニッと笑いながら手を振った。
「やあやあ、お嬢ちゃん!ライルから君の話を聞いたよ。どうやら、面白い森に住んでるらしいじゃないか!」
話を聞いてみると、ライルが町で紬たちのジャムとお茶を売り出していたところ、たまたまオルドが立ち寄ったのだという。
「このジャムとお茶、どれもすごく評判が良かったんだ。」ライルが嬉しそうに説明する。「オルドさんも気に入って、仕入れたいって言ってくれたんだよ。」
「そうそう。あんな素晴らしい商品を作れる森があるなんて聞いたら、商人としては見逃せないだろう?」オルドはリュックを下ろしながら笑った。「それで、森に来てみることにしたんだ。」
紬は驚きながらも、森の掟について説明した。「この森には掟があります。それを守れる人だけが住むことを許されているんです。」
「おお、面白いじゃないか。森の掟か……まぁ、行商人は何だって適応力が大事だからな。掟がどういうものか、ぜひ教えてくれ!」
紬は少し心配そうだったが、ライルが「オルドさんは信用できる人だよ」と言うのを聞き、妖精たちの意見も聞いてみることにした。
オルドは知恵の木や妖精たちとも挨拶を交わし、森の住人として迎えられることになった。
「さて、そうと決まったら、この森の宝を見せてもらおうじゃないか!」オルドは楽しそうに荷車を降ろし、森で採れる素材や住人たちが作った手工芸品を興味深そうに眺めた。
「これは森の木材で作った箱か……見た目も香りも素晴らしい!」
「この薬草茶、香りが町では絶対に手に入らないものだな。」
オルドの目利きは確かで、森の資源に新たな可能性を見出していった。彼は森で商売をするだけでなく、外の町との橋渡し役を引き受けてくれることになった。
「これで、この森の名産品をもっと広められるな。」ライルは嬉しそうに笑い、紬も胸を撫で下ろした。「外の人たちがこの森のことをもっと知ってくれたら、きっと良いことが増えるよね!」
オルドが来たことで、森はさらに活気づいた。彼が持ち込む町の商品に森の住人たちは興味津々で、逆に森の名産品も少しずつ町へ広がり始めていった。
森に新たな住人を迎え入れ、紬の夢だった「森と外の世界を繋ぐ」第一歩がまた一つ進んだ。
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