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不穏
しおりを挟むオルドが森に住み始めてから数週間が経ち、彼は行商のたびに森で作られた商品を町に持ち帰っては、外の人々にその魅力を伝えていた。
森の薬草茶や果実ジャムはすぐに評判となり、町では「不思議な森の贈り物」として噂されるようになった。それだけでなく、オルドは森に住む妖精たちの話や、紬が異世界からやってきたというエピソードまで盛り込んで話題を提供していた。
「おかげで森の商品は飛ぶように売れてるぜ!」
オルドが満足そうに売上を見せると、紬は少し嬉しそうにしながらも心配そうに首をかしげた。
「でも……森のことがあまりにも有名になりすぎるのは、ちょっと不安かも。」
ライルが首を傾げた。「どうして?有名になれば、もっとたくさんの人が森に興味を持ってくれるし、新しい出会いも増えるだろ?」
「うん、そうなんだけど……森には掟があるし、それを守らない人たちが来るかもしれないって思うと、少し怖いんだ。」
その言葉に、ルミたち妖精も同意するように小さく光を点滅させた。
「掟を理解しない人が来たら、森が困るかもってことだね。」ルミが言うと、セイラが真剣な顔でうなずく。「外の人たちが森を利用するだけの場所にしちゃうのは、私も嫌だな。」
「それは確かにそうだな。」オルドも真面目な顔になった。「でも、大丈夫だよ。俺がきちんと説明するさ。この森はただの商売の場じゃないってね。」
しかし、オルドの楽観的な予想に反して、森の評判を聞きつけたある人々が問題を持ち込むことになる。
数日後、森の入口に馬車がやってきた。その馬車から降りてきたのは、華やかな服を着た裕福そうな商人とその部下たちだった。
「ここが噂の森か。」商人は高慢な声で言いながら周囲を見回した。「珍しいものがたくさんあると聞いたが、本当なら我々の商売に大いに役立つだろう。」
紬は驚きながら、彼らに近づいて話しかけた。「あの……この森に何かご用ですか?」
商人は紬を見下ろすようにして笑った。「ああ、君がこの森を仕切っているとかいう少女か。噂は聞いているよ。この森の名産品を直接買い付けたいと思ってね。」
一見、好意的に聞こえる申し出だったが、どこか押し付けがましい態度に紬は警戒心を抱いた。
「森には掟があります。それを守れる人だけが森の中に入ることができます。」紬は慎重に説明した。
「掟だと?」商人は鼻で笑った。「そんなもの、こちらには関係ない。森の資源を利用する権利くらい、金で解決できるだろう?」
その言葉に、ライルが憤慨して一歩前に出た。「この森はそんな簡単な場所じゃない!金で解決なんかできるわけないだろ!」
商人はライルを一瞥すると、笑いを堪えるように手を振った。「まあまあ、そんなに怒るな。少し交渉させてもらうだけだ。君たちも利益になる話を無下にする必要はないだろう?」
商人たちの来訪は、紬と森の住人たちに新たな課題を突きつけた。森の掟を守りながら、外の人々との関係をどう築いていくべきか。
「どうしよう、ライル……」紬は自宅のキッチンでハーブティーを淹れながら相談した。「外の人たちと仲良くなりたいけど、森を壊されるのは絶対に嫌だよ。」
「わかるよ。」ライルは椅子に座りながら考え込んだ。「でも、あの商人みたいな人たちは簡単には引き下がらないだろうな。」
「私たちが守りたいものを守るために、どう動くべきか考えなくちゃね。」紬はティーカップを見つめながら決意を固めた。「オルドさんにも相談してみよう。」
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