家ごと異世界ライフ

冬支度

秋も深まり、森の空気が少しずつ冷たくなってきた。赤や黄色に色づいた葉が風に乗って舞い、地面にふわりと落ちていく。紬は朝食の片づけを終えると、自宅のキッチンで新しい保存食作りに取りかかった。

「さてと、今日はジャムを作ってみようかな。」
鍋に入れた果物と砂糖をかき混ぜながら、紬はインターネットのレシピを目で追った。画面の向こうから漂ってきそうな写真の美味しそうなジャム。紬は少しだけ指で味を確かめると、満足げにうなずいた。「うん、これなら冬の間も楽しめそう！」

そのころ外では、森の住人たちが冬籠りの準備に大忙しだった。リュカは森の中を走り回りながら、動物たちと協力して果実やナッツを集めている。ドルンは鍛冶場で忙しそうに金槌を振るい、ガリックとバルトが協力して新しい樽を組み立てていた。

「なあ、リュカ。これだけじゃ足りないかもな。」
樽を完成させたバルトが、ふと空を見上げてつぶやいた。冬の準備は進んでいるものの、保存できる食材はまだ少ない。するとリュカは、ふっと笑って頭をかいた。「じゃあ、街へ行って買い出ししてこようか。ちょうど燻製に使える塩も欲しいし。」

この提案に、紬はすぐに賛成した。「そうだね。私、行商の人にいろいろ教えてもらったけど、森にないものもたくさんあるって聞いたし。一度街を見てみるのもいいかも！」

こうして、街への買い出しが決まった。

街までは森を抜けて半日ほどの道のりだった。リュカとバルトが先頭に立ち、紬とミアも一緒に歩くことにした。ミアは街の市場をとても楽しみにしている様子で、早速自分が欲しいものリストをメモしていた。

「ねえ、紬。この辺で見つかるハーブを市場で売ったらどうかな？森の外の人たちには珍しいかもしれないよ！」
「それいいね。でも売るのはまた今度にして、今日は必要なものを買うだけにしよう！」

森の外に出ると、広がる景色はまったく違っていた。畑が広がり、遠くに小さな町の屋根が見える。紬はその景色にしばし目を奪われた。

「異世界の街って、こんな感じなんだ……」

町に着くと、通りは活気であふれていた。屋台が並び、人々の笑い声や商売の呼び声が飛び交っている。紬はその熱気に少し圧倒されながらも、リュカの案内で塩や調味料を買い込む。ミアは可愛らしい布を見つけて興奮気味に手に取っていた。

「これ、みんなの服に使えるかも！」
「それいいね！ドルンに相談してみようか。」

買い物を終えた一行は、日が暮れる前に森へ戻ることにした。リュカが背負った荷物の中には、大きな塩袋がどっしりと収まっている。

森に帰り着いた頃には、すっかり夕方になっていた。紬たちはさっそく買ってきた塩を使って保存食作りに取りかかった。バルトは切り分けた獣肉を丁寧に塩漬けにし、燻製にするための準備を始める。

「これで冬の間も肉が食べられるぞ。」
煙がゆらゆらと立ち昇る燻製小屋を見ながら、バルトは満足げに腕を組んだ。

紬もキッチンでジャムの瓶詰め作業に精を出していた。果物の甘い香りが広がり、森の住人たちが次々と覗きに来る。

「これ、パンに塗ったら絶対おいしいよね！」
ミアが目を輝かせて言うと、紬はにっこり笑った。「みんなでお茶会しよう。その時にパンに塗って食べてみようね。」

森全体が準備で活気づく中、紬はほっと一息ついた。忙しいけれど、住人たちと力を合わせて冬に備える日々は、どこか心地よかった。

「みんながいてくれて、本当に助かるな。」
紬は自宅の窓から外を見て、空に浮かぶ妖精たちの光を眺めながら静かにそう思った。