家ごと異世界ライフ

可愛い新住人

森の冬支度が順調に進む中、紬の自宅にも活気が満ちていた。買い出しで手に入れた調味料や布はすでに住人たちの生活に欠かせないものになりつつあり、燻製小屋や保存食の樽も徐々に埋まってきた。朝には冷たい風が吹き始め、いよいよ冬の訪れが近いことを感じさせた。

そんなある日、紬は一人で森の奥へ出かけていた。

「ここにあったはずなんだけど……あ、あった！」
彼女がしゃがみ込んだ先には、見たことのない鮮やかな赤い実がたわわに実っている木があった。

紬は手に取って軽く指で触れてみた。小さな妖精のミアがふわりと肩に降り立ち、不思議そうにその実を覗き込む。
「これ、何に使うの？」
「わからないけど、調べてみたいな。何かのスパイスになるかもしれないし……あとで乾燥させてみようかな。」

彼女が木の実を収穫していると、突然、どこからか小さな悲鳴が聞こえてきた。

「助けてぇー！」

声のする方に駆け寄ると、そこにはリスのような耳を持つ少女が、木の枝に必死にしがみついていた。下を見ると、そこには狼のような大きな獣がうろついている。

「どうしよう……あのままじゃ危ない！」

紬は手に持っていた袋をぱっと木陰に隠し、枝を掴んで何か考え込んだ。

「えっと、どうしよう……でも、このままじゃ……！」
その瞬間、彼女の耳元でミアが囁いた。
「紬、あの木の根元に小さな穴があるよ！あそこに隠れる場所を作れば逃げられるかも！」

紬は大きくうなずいた。袋の中に入っていた保存用のロープを取り出し、それを木の根元に巻きつけて滑り台のような急造の逃げ道を作り出した。

「おーい！こっちに飛び降りて！」
紬が声を張り上げると、リス耳の少女は一瞬きょとんとしたが、彼女の誘導に従ってロープを滑り降りた。獣が気づく前に、二人は木の根元の穴に滑り込んだ。

「……助かった……！」

少女は息を切らしながら、紬に感謝の言葉を伝えた。紬は小さな妖精たちが作った光の結界が獣を追い払うのを確認してから、改めて彼女に話しかける。

「大丈夫だった？ケガはない？」
「うん、ありがとう……本当に助かったよ。私、エイラっていうの。獣人の村から来たんだけど……追い出されちゃって。」

エイラはリス耳をぴくりと動かしながら話を続けた。彼女は幼く見えたが、その目には芯の強さが感じられる。

「追い出されたって……どうして？」
「食べ物が足りなくてね。冬になると、みんな自分の家族だけで精一杯になっちゃうんだ。」

エイラの言葉に、紬は少し考え込んだ。森の住人たちと協力して食糧を集めている彼女たちにとって、外の世界の厳しさはまだ実感がなかった。

「じゃあさ、私たちの森に来ない？住む場所も作れるし、食べ物だってみんなで分け合ってるよ。」

エイラの耳がぴんと立ち、目を見開いた。「そんなこと……本当にいいの？」

紬はにっこりと微笑み、彼女の手をぎゅっと握った。
「もちろんだよ！ここはそういう場所なんだ。」

森に戻ると、エイラはすぐに住人たちに迎えられた。リュカは森の状況を聞き、エイラが持っていた情報を記録する。バルトは彼女のための家を作る準備に取りかかり、ミアは早速彼女に森の規則や習慣を教え始めた。

「これから、冬籠りの準備をみんなでやるんだよ。エイラも一緒に手伝ってくれる？」
「うん！私、木の実を見つけるのは得意だから！」

エイラが笑顔で答えたその瞬間、紬は心の中で小さくガッツポーズを取った。新しい住人が加わり、森の仲間がまた一人増えたことが嬉しかった。

冷たくなりつつある風の中で、彼らは忙しくも温かい時間を過ごし始めた。森の冬は、思った以上に楽しいものになりそうだった。