家ごと異世界ライフ

あたたかい交流

森に初雪が降り、住人たちはそれぞれの家で冬の生活を始めた。冷たい風が窓を揺らし、森の動物たちも巣にこもる季節だ。それでも、紬の家には暖かい笑い声が絶えなかった。

「ほら、ここをもう少しきつく引っ張ると、模様がきれいに出るんだよ。」
暖炉のそばに座る紬は、膝に毛糸の玉をいくつも転がしながら、エイラに編み物を教えていた。エイラは紬の隣で一生懸命針を動かしているが、手先が器用とはいえないらしく、たびたび毛糸が絡まってしまう。

「むむむ……なんでこんなに難しいの？」
「最初はみんなそうだよ。でもほら、この列はすごく上手にできてる！」
紬が励ますと、エイラは嬉しそうに耳をぴくぴくと動かした。

暖炉の炎がゆらめき、部屋中に温かなオレンジ色の光を投げかけている。紬の家に集まった住人たちは、それぞれ冬籠の楽しみを見つけていた。リュカは角材を削りながら椅子を作っており、バルトは手に持った小さな金属細工をじっくりと観察している。

「紬、もう少しで完成だぞ。」
リュカが木のくずを払いながら、自分の作った椅子を紬に見せた。素朴だけれど温かみのあるデザインで、座り心地も良さそうだ。紬は編み物を膝に置き、試しに座ってみる。

「うわぁ、すごくしっかりしてる！ありがとう、リュカ。」
「お礼なんていいさ。その代わり、後でその編み物のコツを教えてくれよ。」

そんなにぎやかな時間の後、紬はキッチンへ向かった。オーブンに手を当てて温度を確かめながら、彼女はインターネットのレシピを思い出していた。

「クッキー、みんな喜んでくれるかな……あ、チョコチップが少しだけ残ってたはず！」

紬は棚を開け、小さな袋からチョコチップを取り出した。それを練った生地に混ぜ込み、オーブンに入れる。部屋中にバターと砂糖が焼ける甘い香りが漂い始めると、住人たちが次々と顔を出した。

「紬、その匂いはなんだ？！」
最初に現れたのはバルトだ。鼻をひくひくさせながら、カウンターに顔を近づけてくる。

「クッキーだよ。ちょっと待っててね、もうすぐ焼きあがるから。」
「クッキー……？食べたことないけど、絶対おいしいやつだろ！」

クッキーが焼き上がると、紬はそれをお皿に盛りつけ、みんなに配り始めた。エイラは一つかじると、目を輝かせて飛び跳ねた。

「なにこれ！めちゃくちゃおいしい！」
「よかった。外の世界ではお茶と一緒に食べるのが定番なんだよ。」

リュカはクッキーを頬張りながら、「こんな贅沢な食べ物、町でもあんまり見たことないぞ」と感心していた。妖精のミアも、光の玉の姿でふわふわと浮きながら興味津々に匂いを嗅いでいる。

「これ、また作ってくれる？」
「もちろん！でも材料がなくなっちゃうから、また街に行ったときに買い足さないとね。」

その夜、暖炉の火が静かに揺れる中、住人たちは紬の家に集まり、編み物や木工品を手に取ってはおしゃべりを楽しんだ。

「紬がいてくれるおかげで、この冬は全然退屈しないな。」
バルトがクッキーをもう一つ頬張りながら言うと、紬は笑って答えた。
「私もみんながいてくれるおかげで楽しいよ。一人だったら、こんなにいろんなことできなかったもん。」

窓の外には静かに雪が降り続けている。外は寒くても、家の中はぬくもりと笑い声で満ちていた。そんな日々が、冬籠りの間ずっと続いていくのだった。