家ごと異世界ライフ

ねむたん

文字の大きさ
21 / 75

ひろめよう!

しおりを挟む
紬たちの村が温泉を中心に活気づいてきた頃、外の町の噂が村にも少しずつ広まり始めた。行商人のライルが運んでくる話や、宿屋に泊まりに来た客たちの雑談から、外の町の文化や生活、そして人々の暮らしが徐々に紬たちの耳に届くようになった。

「外の町って、そんなに賑やかなの?」
宿屋のロビーでお茶を入れていた紬がライルに尋ねると、彼は頷きながら笑った。
「ああ、商人や職人が集まる大きな市場があって、あれこれ珍しいものが手に入るんだ。人の数もすごいぞ。きっと紬が驚くような建物もいっぱいある。」

紬は湯気の立つカップを両手で抱えながら、少し考え込む。
「なんだか、見てみたい気もするなあ。でも、私はここを離れるわけにはいかないし……。」
「無理に行く必要はないさ。」
ライルは肩をすくめて笑い、「町のものなら、俺がここに運んでくる。それでいいだろ?」と言った。

その言葉に安心しつつも、紬の心には小さな好奇心が芽生えていた。

数日後、ライルがまた外の町へ向かう日、紬はこっそり荷物の袋に手紙を忍ばせた。内容は簡単なもので、村の温泉や日々の暮らしについて書き、町の人々が興味を持つかもしれないと思ってのことだった。

「これ、町で誰か興味がありそうな人に渡してみてくれる?」
ライルにそう頼んだ紬は少し照れくさそうに笑った。

ライルは目を丸くしてから、「分かったよ」と手紙を受け取り、荷物の中に大切にしまい込んだ。

ライルが帰ってきたのは、その約一週間後のことだった。驚いたことに、彼の後ろには何台もの荷車が続いており、それぞれには商人や職人たちが乗っていた。

「おいおい、紬。君の手紙、すごい反響だったぞ!」
そう言って笑うライルの横で、商人たちは手を振ったり挨拶をしたりと賑やかだった。

「温泉の話を聞いて、ぜひ商売をしたいって人がこんなに集まったんだ。これから、この村ももっと賑やかになるぞ。」

村の広場に荷車が停められ、それぞれの商人が商品を並べ始めると、あっという間に小さな市場ができあがった。雑貨や食料品だけでなく、町で人気のあるお菓子や装飾品まで揃っていた。

紬は広場を見渡しながら、なんとも言えない不思議な気持ちを抱いていた。
「私たちの村が、こんな風に外の人と繋がるなんて……。」

その夜、村の宿屋では商人たちが泊まり、温泉に浸かりながら村の住人たちと話を弾ませていた。その中の一人がぽつりと呟いた。
「この温泉、町の人たちが知れば、もっと多くの人が来たがるだろうな。」

紬はその言葉を聞き、静かに頷いた。
「もっと多くの人に、この村の魅力を知ってもらえるのは嬉しいけど……その分、大変なことも増えるかもしれないね。」

隣に座っていたグレンが静かに言葉を添えた。
「村の成長には、困難もついてくる。でも、お前ならきっと大丈夫だ。」

その言葉に紬は微笑み返し、心の中で決意を新たにした。

こうして、紬たちの村は外の町との繋がりを深めつつ、新たな挑戦へと一歩踏み出していった。温泉を中心に広がる村は、これからどのように変化していくのだろうか――その未来に、紬は少しだけワクワクしながら目を輝かせていた。

市場がすっかり定着し始めると、村は賑やかさを増していった。紬は手が足りなくなった商人たちを手伝ったり、新しい食材を使った料理を振る舞ったりと、いつにも増して忙しい日々を送っていた。

そんな中、ある日ライルがふらりと村に帰ってきた。彼の背中には少し大きめの包みが担がれており、村の広場で荷を下ろすと満面の笑みを浮かべた。
「紬、これを見てみろよ。」

包みを開けると、中から現れたのは見たこともない楽器だった。それは金属と木でできた華やかな細工が施されたフルートのようなものだった。

「これは町の音楽家から手に入れたんだ。温泉に来るお客さんに、何か特別な娯楽を提供できないかと思ってな。」
ライルが自信たっぷりに語るのを聞き、紬の目が輝いた。
「音楽かぁ、それは楽しそう! みんなもきっと喜ぶね!」

その夜、ライルが宿屋で楽器を試しに演奏し始めると、村の住人たちが集まり始めた。優しいメロディが広がり、妖精たちがふわりと空に舞い上がる。光の妖精シエラが楽しそうに踊り、火の妖精バルタが小さな炎を花火のように弾けさせる。

「これはすごい……!」
村人たちも感嘆の声を漏らし、拍手が湧き上がった。

紬は湯気の立つお茶を手にしながら、遠くからその光景を眺めていた。少し疲れたけれど、心は満たされている。

その時、不意にグレンが隣に座る。いつも通り無口な彼だが、手元には彼が村の温泉設備の改良に使っている設計図があった。紬は少し首を傾げながら、「これ、新しい案?」と聞く。

「今の配管だと、負荷が大きい部分が出てくる。村が成長しているから、もっと大勢が使えるようにしたいと思ってな。」
グレンが静かに語る様子を見て、紬は改めて彼の仕事への真面目さに感心した。

「すごいなぁ、グレンって。いつもみんなのために動いてくれるよね。」
ふとそんな言葉が口をついて出ると、グレンは少し驚いたように目を丸くした後、視線を逸らして咳払いをした。
「別に……当然のことだ。」

彼の耳がわずかに赤く染まっているのを見て、紬は小さく笑う。

翌朝、村は早くから忙しさを見せていた。行商人たちは次々に新しい商材を持ち込み、村の宿屋には新しい客が訪れ始めていた。

紬は朝早くから台所で新しいお菓子の試作をしていた。町から取り寄せた砂糖や果物を使って、焼き立てのパイを作る。香ばしい香りが自宅の外まで漂い、窓から覗いた妖精たちが興味津々で寄ってくる。

「紬、また新しいの作ってるの?」
ライルが顔を覗かせると、紬は笑顔でパイを差し出した。
「試しに食べてみて! 温泉のお客さんに出したら喜ばれるかなぁと思って。」

ライルが一口食べると、目を大きく見開いて「うまい!」と叫んだ。
「これ、町でも売れそうだぞ!」
「えっ、本当? それじゃあ……村の名物にしちゃおうかな!」

村の発展とともに、紬の日常もますます活気に満ちていく。温泉、宿屋、市場、そして音楽と料理――すべてが少しずつ形になり、人々を引き寄せる魅力となっていた。

村の未来はどこまで広がるのか。紬は少し遠くの空を見上げながら、新しい夢を思い描いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...