家ごと異世界ライフ

ねむたん

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広がる友好

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新たな交易の始まりは、想像以上に賑やかだった。漁村からやってきた行商人たちは、馬車いっぱいに新鮮な魚介や海草、珍しい貝を積み、森の市場に姿を現した。その鮮やかな青や銀の光沢を放つ魚たちに、森の住人たちは一様に目を見張った。

「これが……海の恵みってやつなのかい?」
紬の隣で、獣人の少女ミリが魚を見つめてぽつりと言った。彼女の耳がぴくりと動き、その動きが興奮を隠しきれていないのを物語っている。

「うん、そうみたいだね。でも、こんなにピカピカしてて、本当に食べられるのかな?」
紬は半信半疑のまま、小ぶりのサバを手に取る。その冷たさと滑らかさに驚き、思わず手を引っ込めた。

「食べられるさ!」
漁村からやってきた陽気な青年が笑い声を上げながら言った。「これを焼いたり煮たりしてごらん。とびきり美味しいから!」

その日の市場は活気に満ちていた。森の住人たちは漁村の珍しい品々に興味津々で、特にエルフたちは貝殻の美しさに魅了され、アクセサリーにできないかと話し合っていた。ドワーフたちは塩漬けの魚に目を輝かせ、「これをビールのつまみにしたら最高だ」と口々に叫んでいる。

市場が終わったその夜、紬の自宅ではささやかな宴が開かれた。キッチンではドワーフたちが手際よく魚を焼き、獣人の少年たちは海草を丁寧に刻んでサラダを作っている。紬はオーブンに魚のパイを仕込みながら、ふと台所の窓から外を見た。

「こんなに賑やかになるなんて、ちょっと前までは思いもしなかったなぁ……」
湯気が立つキッチンの隅で、彼女は幸せそうに微笑む。

テーブルには、さまざまな海産物を使った料理が並べられていた。焼き魚、魚介のスープ、貝の蒸し焼き、そして手作りの海草パン。森の住人たちは初めて口にする味に舌鼓を打ち、感嘆の声を上げる。

「このスープ、なんて深い味なんだ……!」
グレンが静かにスープをすくいながら呟いた。その横顔に紬はふと目を奪われたが、すぐに目をそらした。

「そ、そうだよね!私もすごく美味しいと思う!」
紬は慌ててパイを取り分けながら話題を変える。しかし、グレンがふと彼女に向けた穏やかな笑顔に、胸が少しだけ高鳴った。

宴が終わり、住人たちはそれぞれの家に帰っていったが、村全体がほのかな興奮と満足感で満ちているのがわかる夜だった。紬は自宅のベランダで夜風に当たりながら、これからの交流に思いを馳せていた。

「海と森がこうやって繋がるなんて、なんだか夢みたいだなぁ……」
遠くで鳴くフクロウの声を聞きながら、紬は満天の星空を見上げた。その胸には、漁村との新たな絆がもたらす未来への期待が静かに広がっていた。

森の市場が海産物で賑わうようになってから数ヶ月。漁村との交易が本格化し、魚や貝が森の名物として広く知られるようになった。森の住人たちが作る魚介を使った料理は瞬く間に評判となり、外の街からも観光客が増えてきた。

「ねえ紬、この人たち、どこから来たの?」
市場の片隅で、獣人の少女ミリが人だかりを指さした。そこでは街から来たらしい家族連れが、目を輝かせて焼き魚を頬張っている。

「街の人たちだよ。海産物がここで手に入るって聞いて、わざわざ来てくれたみたい。」
紬は嬉しそうに答えた。「森もずいぶん有名になったんだね。」

「有名っていうか、これだけ賑やかになると、なんだか誇らしい気分だね。」
ミリの耳が誇らしげにピンと立った。

市場の賑わいが増す一方で、問題も浮上していた。それは、魚の保存方法と輸送手段だった。特に、遠方の街まで運ぶには鮮度が課題で、住人たちも悩んでいた。

ある日、紬が自宅で次の交易について考えていると、ドワーフのグレンが訪ねてきた。

「缶詰って知ってるか?」
彼はシンプルにそう切り出した。

「缶詰?うん、知ってるけど、まさか作るの?」
紬は驚いて彼を見た。

「そうだ。街の商人が提案してきたんだ。漁村の魚を保存して、遠くまで届ける方法としてな。うちの工房なら、容器はなんとかなる。」
グレンの言葉に紬は目を輝かせた。「それなら、森と街がもっと協力できるね!早速やってみよう!」

缶詰作りは大きなプロジェクトになった。街の商人や技術者が森に足を運び、缶詰の製造方法を教えたり、機材を運び込んだりと協力が進んだ。森の住人たちは、初めて見る缶詰の製造過程に興味津々だった。

「これが缶詰かぁ。中身が腐らないなんて不思議だな!」
獣人の少年が感嘆の声を上げる。

「すごいだろう?缶詰の魚は、冬でも新鮮なまま食べられるんだ。」
グレンが説明する横で、紬も試食用の缶詰を開けた。

「うん、美味しい!これなら街の人も喜ぶね。」
紬は満足そうに微笑んだ。

缶詰が完成すると、街から来た観光客たちは森での食事をさらに楽しむようになった。缶詰にされた魚介は土産物としても人気を集め、森の名声をさらに高めた。

夜、缶詰作りの打ち上げが行われた。焚き火を囲みながら、住人たちは新しいプロジェクトの成功を祝った。

「缶詰があれば、森の恵みをもっとたくさんの人に届けられるね。」
紬が言うと、グレンが静かに頷いた。「そうだな。これからも、森の暮らしを守りながら広げていこう。」

焚き火の光が彼の顔を照らし、その表情に紬は少しだけドキッとした。そして、森に笑い声が響き渡る中、彼女の心にも新たな目標が芽生えたのだった。

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