家ごと異世界ライフ

ねむたん

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甘い香り

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澄んだ青空が広がる、初夏のある日のこと。紬はミアとグレンを誘って、少し離れた森の奥へ探索に出かけていた。

「ねえ、紬。こっちの茂みの奥、すごくいい匂いがするよ!」
森の獣人ミアが敏感な鼻をクンクンと動かして、小さな小道を先導する。紬は腕に籠を抱えながら、その後ろを軽快に歩いていた。

「ほんとだね。なんだろう、花の匂いかな?」
「花……それに、甘い匂いも混ざってるような……」
グレンが静かに呟く。彼は手斧を握りしめ、警戒しながら周囲を見渡していた。

3人が進む先には、陽の光が柔らかく差し込む明るい林が広がっていた。すると、ミアが足を止め、小さく叫ぶ。
「見て!あそこ!」

彼女の指さす先には、古い切り株の上にびっしりと群がるミツバチの群れがいた。小さな蜂たちは忙しそうに飛び回りながら、黄金色に輝く巣をせっせと作っている。

「蜂の巣だ……!」紬は驚きながらも、目を輝かせた。「すごい!本物を見るの、初めてかも!」

グレンが少し眉をひそめながら近づく。「危険じゃないのか?刺されるかもしれない。」
「大丈夫だよ、グレン。」ミアが自信満々に言う。「あの蜂たち、敵意はないみたい。ほら、ゆっくり近づいてみて。」

恐る恐る蜂の巣に近づいた紬は、甘い香りに包まれると同時に、羽音の穏やかな振動を感じた。蜂たちは彼女たちに見向きもせず、巣作りに没頭している。

「この蜜、すごくおいしそうだね。」紬は小声で呟きながら、ふと閃いた。「これを村のみんなで収穫して、何か楽しいことができないかな?」

「蜂蜜を使ってお菓子とか作るの?」ミアが期待に満ちた目を向ける。
「それもいいけど……もっと大きなイベントにしてみようかな。例えば、蜂蜜収穫祭とか!」

「蜂蜜収穫祭?」グレンが首をかしげる。
「そう!みんなで蜂蜜を集めたり、それを使った料理を楽しんだりするの!」紬は勢いよく言った。「この森にはまだ他にも蜂の巣があるかもしれないし、探してみようよ!」

その提案に、ミアはしっぽを振って大喜びし、グレンも口元に小さな微笑みを浮かべて頷いた。

村に戻ると、紬たちは早速計画を立て始めた。ミツバチの専門知識を持つ住民がいないか尋ねると、意外にも獣人の中に詳しい者がいることが判明した。

「ミツバチは森の大切な仲間だからね。気をつけて扱わないとだめだよ。」年配の獣人が柔らかい声で教えてくれる。

村全体での蜂蜜収穫祭の準備が進む中、外の町からも行商人たちが興味を持ち始めた。「森の蜂蜜は特別な味だ」と噂が広がり、祭りの日には近隣からたくさんの人々が集まることになった。

黄金色の蜂蜜が陽の光を浴びて輝く初夏の祭りが、森に新たな絆をもたらすのはもう少し先のことだった——。

祭り当日。森の村は、初夏の柔らかな陽光とともに活気づいていた。広場にはさまざまな屋台が並び、それぞれ蜂蜜を使った料理や飲み物が並んでいる。

「紬さん!この蜂蜜ドリンク、試してみてよ!」ミアが一際明るい声で呼びかける。手には透明なグラスがあり、中には冷たそうな蜂蜜レモネードが注がれていた。
「ありがとう、ちょっといただくね。」紬はグラスを受け取ると、一口含んだ。「おいしい!爽やかで甘さもちょうどいいね。」

「でしょでしょ!このレシピ、獣人のおばあちゃんに教えてもらったの。」ミアは得意げにしっぽを揺らした。

周りでは住民たちがそれぞれのブースで忙しそうに接客をしている。特に人気だったのは、蜂蜜をたっぷり使ったパンケーキや、蜂蜜キャラメルの実演販売だ。子どもたちはその甘い香りに引き寄せられるように集まり、目を輝かせていた。

一方で、大人たちの注目を集めていたのは「蜂蜜酒」のブースだった。獣人の中でも特に陽気な一団が腕を組みながら歌を歌い、訪れる人々に試飲を勧めている。

「これは本当に贅沢な味だな。」グレンがひと口飲んで小さく感嘆の声を漏らす。「蜂蜜の甘さが絶妙だ。」
「だよね!」隣にいた行商人が笑いながら応じる。「これを聞きつけて、わざわざ町から来たんだ。森の村がこんなににぎやかだとは思わなかったよ。」

村を歩き回る紬は、住民たちの笑顔を見て胸が温かくなるのを感じていた。この祭りはただの収穫祭ではない。森と村、そして外の町の人々を繋ぐ新たな一歩だと実感する。

「紬さん!」誰かが声をかけた。振り返ると、漁村から来た住人が手を振っている。「これ、森の蜂蜜と魚の干物を合わせて作った新しい料理なんですけど、味見してもらえませんか?」

差し出されたのは、蜂蜜を絡めた照り焼き風の魚料理だった。一口食べた紬は驚いて声をあげた。
「美味しい!蜂蜜の甘みが魚の旨味を引き立ててるね!」

漁村の住人は満足げに笑いながら、「これは良い取引になりそうだ」とつぶやいた。

日が傾き始めた頃、広場の中心で獣人たちが音頭を取り、ダンスが始まった。陽気な音楽に合わせて次々と人々が輪に加わっていく。ミアが紬の手を引き、「一緒に踊ろうよ!」と誘う。

「え、私踊りなんて得意じゃないよ!」
「大丈夫、楽しく動けばそれでいいの!」

紬は少し恥ずかしそうにしながらも、輪に加わる。ふと視線を上げると、輪の外で見守っているグレンの姿が目に入った。

「グレンも来なよ!」ミアが声をかけるが、彼は少し照れくさそうに首を横に振る。
「……俺はここで見ているよ。」

紬は踊りながら彼に目配せし、ほんの少し微笑んだ。グレンも気づいたのか、控えめに笑みを返す。

夜になると、広場の中央に焚き火が焚かれ、住民たちが集まってその周りで語り合った。蜂蜜収穫祭の成功を祝う言葉が飛び交い、森の村全体が喜びに包まれていた。

「来年もやりたいね。」
「この祭りが、村の新しい伝統になるといいな。」

紬はその声を聞きながら、ゆっくりと空を見上げた。星が瞬く夜空の下で、森の村はまた一歩、大きく前進しているように思えた。

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