家ごと異世界ライフ

川へ行こう！

ある初夏の日、森の広場に村の住人たちが集まっていた。温かく穏やかな天気が続く中、外の町から来た行商人が「川辺のキャンプ地」を紹介してくれたのがきっかけだ。

「みんなで行ってみよう！」と紬が提案すると、住人たちから歓声が上がった。温泉宿の主人や農業担当のドワーフたちも、「この時期の川魚は美味しい」と賛成し、あっという間にキャンプの計画が決まった。

翌日、村中が準備で賑わった。グレンが頑丈なテントを持ち出し、ミアは調理道具をまとめて荷車に載せていた。「紬さん、こんな感じでいいかな？」と、荷車を引きながら声をかける。
「バッチリ！あとは食材を少し足しておこう。川魚も取れると思うけど、念のためね。」

紬は住人たちに分担を指示しながら、自分もリュックに必要なものを詰め込んでいった。ジャム入りのパン、ハーブティーのティーバッグ、それに少しのお菓子――おやつタイム用だ。

午前中、荷車に荷物を積み終えた一行は、森を出発した。森を抜けるまでの道は涼しく、木漏れ日がキラキラと足元を照らしている。獣人のミアは先頭を歩きながら「この辺、野イチゴがあるかも！」と声を弾ませた。子どもたちはその言葉に反応して茂みを探し始め、途中でたくさんのイチゴを収穫する場面もあった。

やがて川辺のキャンプ地に到着すると、澄んだ川の水と広がる青空がみんなを迎えてくれた。「本当に素敵な場所だね！」と紬が感嘆すると、他の住人たちも一斉にうなずいた。

「さて、まずはテントを立てよう。」グレンが声を上げると、男性陣が手際よく木陰にテントを設置し始めた。ミアは調理場を整え、持参した鍋やフライパンを並べている。紬は子どもたちと一緒に火起こしを手伝いながら、「夕方にはバーベキューを始めるから、それまでは自由に遊んでね」と笑顔で声をかけた。

川遊びが始まると、子どもたちはもちろん、大人たちも童心に帰ったように楽しんだ。浅瀬では小さな魚が泳ぎ回っており、網を持った子どもたちが次々と魚を捕まえていく。ミアはその光景を見て、「今日の晩ごはんが楽しみ！」と笑顔を見せた。

一方、グレンは川辺に座り、自作の釣り竿をじっと見つめていた。紬が近づき、「釣れそう？」と尋ねると、グレンはわずかに微笑んで「まだだ」と答えた。その姿は普段よりもリラックスしており、紬もつられて柔らかな笑みを浮かべた。

夕方になると、焚き火を囲んでバーベキューが始まった。焼きたての川魚や野菜の香ばしい匂いがあたりに広がる。甘辛いタレを塗った肉や、ミアが持参したスパイスをまぶした野菜が次々と焼き上がり、住人たちは「美味しい！」と大満足だった。

「こういう時間がずっと続けばいいね。」と紬がポツリと呟くと、隣で魚を食べていたグレンが小さく頷いた。「そうだな。こういう平和な日々が一番だ。」

日が沈む頃、誰かが「そろそろホタルが出る時間だよ」と言い出した。一行は焚き火を後にし、川沿いを歩き始めた。そして、目の前に現れたのは、無数のホタルが舞う幻想的な光景だった。

「すごい……まるで星空みたい。」紬が感動に満ちた声を漏らすと、子どもたちも「きれい！」と目を輝かせた。

その夜、住人たちはテントに戻り、心地よい疲れとともに眠りについた。虫の声と川のせせらぎが、森の生活とはまた違った静けさを奏でていた。