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「冷えた心に春風が吹く」
しおりを挟む二人は森の中を歩きながら、春の陽気に包まれていた。雪解け水でぬかるんだ小道を踏みしめながら、グレンが前を歩き、紬が少し遅れてついて行く。時折、鳥のさえずりや小川の音が静かな森の中に響き、心地よい時間が流れていった。
「ここだ。」グレンが立ち止まり、少し息を切らせながら言った。
前方に、大小さまざまな木々が立ち並ぶ森の中に、小さな池が見えてきた。池の周りには、春の花がちらほらと咲いており、その中にひときわ目を引く花があった。紬はその花を見つけ、思わず息を呑んだ。
「これが…?」紬が目を輝かせて尋ねる。
グレンが頷きながら答える。「うん、これだ。見たことがないだろう?」
その花は、薄紫色の花弁が柔らかく広がっていて、まるで異世界の夜空に浮かぶ星のような輝きを放っている。周りの花々と一線を画すその美しさに、紬はしばらく言葉を失っていた。
「本当にきれい…。」と、紬は感嘆の声を漏らした。
グレンはその花を見つめながら、少し照れくさそうに言った。「実は、これを見つけたとき、すごく感動してな。なんでこんなところにこんな花が咲いているんだろうって思って。」
「グレンが感動するなんて珍しいね。」紬は笑いながら言った。
グレンは少しだけ口を歪めてから、「そうでもないだろ。」と反論しながら、手をポケットに突っ込んだ。「でも、まあ、見た瞬間、なんか特別だと思ったんだ。だから、君にも見せたくて。」
その言葉に、紬は胸が温かくなるのを感じた。彼の素直な言葉には、少しの照れと本気の気持ちが混じっているような気がした。
「ありがとう、グレン。」紬は心からそう言って微笑んだ。
しばらく二人はその花を見つめながら、静かな時間を共有した。空気はすがすがしく、花の香りがほんのりと漂う中で、二人だけの世界が広がっていった。
やがて、紬がふと思い立ったように言った。「この花、どうしてこんなにきれいなんだろうね。」
「それは…わからない。」グレンは少し考えてから答える。「でも、ここに咲いていることには意味がある気がする。」
紬はその言葉に何か引っかかるものを感じた。彼が言う「意味」という言葉には、ただの花に対するもの以上の何かが込められているような気がしてならなかった。
「もしかして、グレンって…こういう風に、何かを大切にすることができるんだね。」紬はふとそう思った。
「そうかもな。」グレンは少し肩をすくめながら答えた。「でも、そんなに大したことじゃない。お前が気に入ったなら、それでいい。」
その言葉には、いつもの不器用さと、少しだけの優しさが感じられた。
紬はその場で少し立ち止まり、花をもう一度見つめながら、心の中でひとつ決心をした。この異世界で過ごす時間、そしてここで出会った人々や出来事は、きっと大切な思い出になるだろうと。そして、その中でグレンとの絆も少しずつ深まっているのだと感じていた。
「ありがとう、グレン。こんなにきれいな場所に連れてきてくれて。」
「うるさいな、そんなの気にするなよ。」グレンは照れくさそうに頭をかきながら言った。
「でも、今日は本当に楽しかった。」紬は笑顔を見せた。
それを見て、グレンもつられて少しだけ口元を緩めた。二人はその後、池の周りを少し散策し、春の風景を楽しんだ。途中、ふとした瞬間に手が触れることもあったが、どちらもそれを気にすることなく、自然に歩き続けた。
帰り道、グレンがふと声をかけてきた。
「紬、明日もどこか行こうか?」
「うん、行こう!」と紬は即答した。
グレンの提案に、紬は心の中で嬉しさを感じていた。少しずつ、二人の距離が縮まっていくのを実感しながら、歩き続けるのだった。
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