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「春の足音」
しおりを挟むその日の夕暮れ時、森の中を歩く二人は、すっかり日が沈みかけた空を見上げていた。オレンジ色に染まった空は、まるで時間が止まったように静かで、周囲の木々がその光を受けて温かい色を帯びていた。
「もうこんな時間か…」紬はふと呟いた。最近、時間が過ぎるのが早く感じるようになったことに気づく。日々、いろいろなことを学び、感じ、経験しているからこそ、時間があっという間に流れていくような気がしていた。
「明日はどうする?」とグレンが尋ねる。
「明日?」紬は少し考えてから答えた。「村の周りをもっと歩いてみようかな。ここの景色、本当にきれいだから。」
「俺も行くよ。」グレンはにっと笑って答える。「一緒に行こう。」
「うん、楽しみにしてる。」紬は素直に嬉しそうに微笑んだ。
その微笑みにグレンも自然と顔が緩んだ。紬の笑顔を見ると、なんだかほっとするのだ。こんな穏やかな時間を過ごすことができるのは、紬のおかげだと感じていた。
二人はしばらく無言で歩き続けた。風が少し強くなり、葉っぱがざわざわと音を立てて揺れた。春の気配がより強く感じられ、気温も少しずつ温かくなってきた。
やがて、村が見えてきた。遠くに小さな家々が点在しているのが見えると、紬は自然と歩みを速めた。村に帰ることが、なんだか安心感を与えてくれる。
「今日は楽しかったな。」とグレンが言うと、紬はうんとうなずいて答えた。
「うん、ありがとう。グレンと一緒にいると、毎日が新しい発見みたいで、すごく楽しい。」
グレンは少し驚いたように顔を見合わせ、しばらく黙った後、「お前、そんな風に言うんだな。」と呟いた。
紬は少し照れたように頭をかきながら、「だって、本当に楽しいから。」と素直に答えた。
その言葉に、グレンは少しだけ心が温かくなった気がした。普段、あまり感情を表に出さない彼だが、紬と一緒にいると、自然と心が開かれていくような気がする。最初はあまり感情を見せることに不安があったが、今ではそれが心地よく思えてきていた。
「じゃあ、明日も楽しみにしてる。」とグレンは言う。
「うん!」紬はにっこりと笑った。その笑顔は、まるで春の陽射しのように明るく、温かかった。
二人は村へと向かって歩き続けた。その歩みは、確かに少しずつではあるが、お互いの心を繋げていくものだった。
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