家ごと異世界ライフ

「あたたかな季節の始まり」

村に到着した頃、すでに夜の帳が降り、星々が輝き始めていた。静かな夜空の下で、村の灯りがほんのりと温かく、心地よい安堵感を与えてくれる。二人は村の小道を歩きながら、まるでその温もりに包まれているかのような気分だった。

「もうすぐ家だな。」グレンが軽く言うと、紬は嬉しそうに頷いた。

「うん、今日はたくさん歩いたから、少し疲れたけど楽しかった。」

「そうか。」グレンは視線を少し横に向けて、紬の顔をちらりと見た。「お前、最初にここに来たときはどうだった？」

紬は少し考えた後、静かに答える。「最初は、すごく不安だった。知らない場所に来て、みんながどう思うかとか、どうやって過ごしていけばいいのか、全然わからなかった。でも、今は…」

「今は？」

「今は、すごく安心している。」紬はしばらく歩きながら、少し遠くを見るような視線を送りながら言った。「村のみんなが優しくて、グレンがいてくれるから、すごく心強い。」

その言葉に、グレンは少し驚いたような顔をした。いつも冷静で落ち着いていると思っていた彼だが、こういう言葉を言われると、どこか照れくさい気持ちになってしまう。

「ありがとう、グレン。」紬が顔を向けて言うと、グレンはうつむいて「別に」と答えるのが精一杯だった。

「でも、これからどうなるんだろうな。」と紬はふと呟く。

「どうなる？」グレンは少し眉をひそめた。

「うん。これからも、この村で生きていくのか、それとも…いつか帰らなきゃいけないのかなって。」紬の言葉には少しの不安が含まれていた。

その問いに、グレンはしばらく黙った。今まで紬が何も言わなかっただけに、こういう気持ちを抱えていることに驚いたのだ。

「お前がどうしたいかだろ。」グレンはやっとのことで答えた。「村で過ごすのがいいのか、元の世界に戻るのがいいのか。」

「うん、それはそうだけど…」紬は少し間を置いてから言った。「私は、この村にいるのが嫌じゃない。むしろ、みんなと一緒にいると、すごく幸せだって思う。でも、もし帰らなきゃいけない時が来たら、それはすごく寂しいなって。」

グレンはその言葉を胸に響かせながら、少し考えた。そして、目を少し伏せると、そっと言った。

「俺は…お前がここにいるなら、俺もここにいる。」その言葉には、どこか確信のようなものが込められていた。

「グレン…」

「だから、無理して帰らなくてもいいんじゃないか？」グレンは少し照れたように笑った。「お前がいるなら、ここで何でもやっていけるだろ。」

その言葉に、紬は嬉しそうに微笑んだ。そして、静かに答えた。

「ありがとう、グレン。」その言葉には、心からの感謝が込められていた。

二人はそのまま歩き続けた。夜の森の中、月の光が二人を照らし、温かな風が髪を揺らす。これからどんな日々が待っているのか、わからない。でも、今はその瞬間が一番大切だと感じていた。

やがて、村の入り口が見えてきた。家々の灯りが遠くに見え、穏やかな夜の静けさが広がっている。

「今日もお疲れさま。」グレンがふと呟く。

「うん、ありがとう。」紬は軽く微笑んで答えた。