終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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テレビの画面が暗転し、唐突にCMが流れ始めた。

さっきまで映っていたのは、アナウンサーがカメラマンに噛みつく瞬間だった。

全国に生中継されてしまった異常な光景。

「……終わったな」

俺は小さく呟いた。

スマホを手に取り、SNSを開く。すでに「アナウンサー噛みつき事件」「生放送パニック」といったワードがトレンドに上がっている。

「今の見たか!?」「やばいやばいやばい」「もうゾンビ確定じゃん」「なんでCM入った?」

コメントが一気に流れている。

そのとき、スマホが震えた。

──グループ通話の通知。

ゲーム仲間のチャットが騒がしくなっていた。

安田:「今すぐ通話入れ」
斉藤:「……見た」
高橋:「これはまずいな」

俺はすぐにヘッドセットをつけ、通話に入る。

「おせえよ、三浦!」

安田の声が飛び込んできた。

「悪い、ちょっとニュース見てた」

「なあ、これマジで終わりじゃね?」

安田が興奮気味に言う。

「全国放送で噛みつく瞬間流れちまったぞ?」

「政府の対応は?」

斉藤が冷静な声で聞く。

「まだ何も発表してねえ。でも、どう考えても隠し通せねえだろ」

「確かに……」

俺はスマホを握りしめたまま、考える。

「今のうちに、買い出しを追加したほうがいいかもしれない」

「お前、昼間に買ったんじゃなかったか?」

「食糧はな。でも、まだ準備が足りない気がする」

「……だよな」

安田が息を吐く。

「俺、さっき掲示板で見たんだけどさ。東京の病院の一部で封鎖されてるところが出始めてるらしい」

「……病院が?」

「ニュースでは『内部トラブル』とか言ってるけど、中で何かあったんじゃないかって噂になってる」

「……」

病院の封鎖。

もし噂が本当なら、もうウイルスは都内に広がっている可能性が高い。

「……護身用の道具も揃えておくか」

俺はそう呟いた。

「お、ついに武器調達か?」

安田が少し笑う。

「いや、そういうのじゃなくて、一般人が持ってても違和感のない範囲でな」

「たとえば?」

「バットとか、工具とか」

「それならホームセンターだな」

斉藤がすぐに言う。

「作業用の手袋、防具も揃うし、あと防犯用品コーナーも見ておいたほうがいい」

「バールとかもあるだろうな」

高橋が静かに言う。

「お前、一人で行くのか?」

安田が聞いてくる。

「いや、会社の同僚と一緒に行くつもりだ」

「そいつも備えてるのか?」

「まぁな」

「じゃあ、なるべく早めに行っとけよ。ネットの情報見る限り、明日には店がパニックになる可能性がある」

「分かった。行ってくる」

通話を切り、すぐに藤木へメッセージを送る。

──「追加の買い出し。今からホームセンター行く」

──「了解。すぐ準備する」

リュックを背負い、部屋を出た。

エレベーターを降り、夜の静かな街へと足を踏み出す。

店内は昼間よりもさらに人が少なかった。

食品コーナーではそれなりに買い占めが始まっていたが、工具や防犯用品のコーナーはまだ手つかずだった。

「まずは武器になりそうなものからだな」

「金属バット……あるな」

藤木が棚を見上げながら言った。

「木製よりこっちのほうが耐久性あるだろ」

「そうだな」

俺たちはそれぞれ1本ずつ手に取る。

「他に何かないか?」

「工具もありじゃね? バールとか、モンキーレンチとか」

「バールか……扉こじ開けるのにも使えそうだな」

俺たちは金属バットに加えて、バールと懐中電灯、作業用の手袋をカゴに入れた。

そのとき、ふと目に入ったのが防犯用品コーナーだった。

「なあ、あれ……」

俺が指さすと、藤木が目を細める。

「刺股……?」

「こんなもん売ってんのか」

金属製の刺股が、一本だけ売れ残っていた。

「お前、使い方わかるか?」

藤木が不安そうに言う。

「まあ、相手を押し倒すくらいならいけるだろ」

「これでゾンビ押さえ込めるか?」

「いや、押さえ込むんじゃなくて、距離を取るために使うんだよ」

「なるほどな……」

俺たちは刺股を一本だけカゴに入れた。

「これで、一応最低限の準備はできたか」

「後は食料だな」

「手短に済ませるぞ」

俺たちは素早く店内を回り、水や缶詰、インスタント食品をカゴに詰め込んだ。

会計を済ませ、荷物をリュックとキャリーに詰める。

「……さて、帰るか」

「明日にはもう、こんな買い物すらできなくなってるかもな」

「かもな」

外の夜風がやけに冷たく感じた。

もう後戻りはできない。
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