6 / 84
6
しおりを挟む
テレビの画面が暗転し、唐突にCMが流れ始めた。
さっきまで映っていたのは、アナウンサーがカメラマンに噛みつく瞬間だった。
全国に生中継されてしまった異常な光景。
「……終わったな」
俺は小さく呟いた。
スマホを手に取り、SNSを開く。すでに「アナウンサー噛みつき事件」「生放送パニック」といったワードがトレンドに上がっている。
「今の見たか!?」「やばいやばいやばい」「もうゾンビ確定じゃん」「なんでCM入った?」
コメントが一気に流れている。
そのとき、スマホが震えた。
──グループ通話の通知。
ゲーム仲間のチャットが騒がしくなっていた。
安田:「今すぐ通話入れ」
斉藤:「……見た」
高橋:「これはまずいな」
俺はすぐにヘッドセットをつけ、通話に入る。
「おせえよ、三浦!」
安田の声が飛び込んできた。
「悪い、ちょっとニュース見てた」
「なあ、これマジで終わりじゃね?」
安田が興奮気味に言う。
「全国放送で噛みつく瞬間流れちまったぞ?」
「政府の対応は?」
斉藤が冷静な声で聞く。
「まだ何も発表してねえ。でも、どう考えても隠し通せねえだろ」
「確かに……」
俺はスマホを握りしめたまま、考える。
「今のうちに、買い出しを追加したほうがいいかもしれない」
「お前、昼間に買ったんじゃなかったか?」
「食糧はな。でも、まだ準備が足りない気がする」
「……だよな」
安田が息を吐く。
「俺、さっき掲示板で見たんだけどさ。東京の病院の一部で封鎖されてるところが出始めてるらしい」
「……病院が?」
「ニュースでは『内部トラブル』とか言ってるけど、中で何かあったんじゃないかって噂になってる」
「……」
病院の封鎖。
もし噂が本当なら、もうウイルスは都内に広がっている可能性が高い。
「……護身用の道具も揃えておくか」
俺はそう呟いた。
「お、ついに武器調達か?」
安田が少し笑う。
「いや、そういうのじゃなくて、一般人が持ってても違和感のない範囲でな」
「たとえば?」
「バットとか、工具とか」
「それならホームセンターだな」
斉藤がすぐに言う。
「作業用の手袋、防具も揃うし、あと防犯用品コーナーも見ておいたほうがいい」
「バールとかもあるだろうな」
高橋が静かに言う。
「お前、一人で行くのか?」
安田が聞いてくる。
「いや、会社の同僚と一緒に行くつもりだ」
「そいつも備えてるのか?」
「まぁな」
「じゃあ、なるべく早めに行っとけよ。ネットの情報見る限り、明日には店がパニックになる可能性がある」
「分かった。行ってくる」
通話を切り、すぐに藤木へメッセージを送る。
──「追加の買い出し。今からホームセンター行く」
──「了解。すぐ準備する」
リュックを背負い、部屋を出た。
エレベーターを降り、夜の静かな街へと足を踏み出す。
店内は昼間よりもさらに人が少なかった。
食品コーナーではそれなりに買い占めが始まっていたが、工具や防犯用品のコーナーはまだ手つかずだった。
「まずは武器になりそうなものからだな」
「金属バット……あるな」
藤木が棚を見上げながら言った。
「木製よりこっちのほうが耐久性あるだろ」
「そうだな」
俺たちはそれぞれ1本ずつ手に取る。
「他に何かないか?」
「工具もありじゃね? バールとか、モンキーレンチとか」
「バールか……扉こじ開けるのにも使えそうだな」
俺たちは金属バットに加えて、バールと懐中電灯、作業用の手袋をカゴに入れた。
そのとき、ふと目に入ったのが防犯用品コーナーだった。
「なあ、あれ……」
俺が指さすと、藤木が目を細める。
「刺股……?」
「こんなもん売ってんのか」
金属製の刺股が、一本だけ売れ残っていた。
「お前、使い方わかるか?」
藤木が不安そうに言う。
「まあ、相手を押し倒すくらいならいけるだろ」
「これでゾンビ押さえ込めるか?」
「いや、押さえ込むんじゃなくて、距離を取るために使うんだよ」
「なるほどな……」
俺たちは刺股を一本だけカゴに入れた。
「これで、一応最低限の準備はできたか」
「後は食料だな」
「手短に済ませるぞ」
俺たちは素早く店内を回り、水や缶詰、インスタント食品をカゴに詰め込んだ。
会計を済ませ、荷物をリュックとキャリーに詰める。
「……さて、帰るか」
「明日にはもう、こんな買い物すらできなくなってるかもな」
「かもな」
外の夜風がやけに冷たく感じた。
もう後戻りはできない。
さっきまで映っていたのは、アナウンサーがカメラマンに噛みつく瞬間だった。
全国に生中継されてしまった異常な光景。
「……終わったな」
俺は小さく呟いた。
スマホを手に取り、SNSを開く。すでに「アナウンサー噛みつき事件」「生放送パニック」といったワードがトレンドに上がっている。
「今の見たか!?」「やばいやばいやばい」「もうゾンビ確定じゃん」「なんでCM入った?」
コメントが一気に流れている。
そのとき、スマホが震えた。
──グループ通話の通知。
ゲーム仲間のチャットが騒がしくなっていた。
安田:「今すぐ通話入れ」
斉藤:「……見た」
高橋:「これはまずいな」
俺はすぐにヘッドセットをつけ、通話に入る。
「おせえよ、三浦!」
安田の声が飛び込んできた。
「悪い、ちょっとニュース見てた」
「なあ、これマジで終わりじゃね?」
安田が興奮気味に言う。
「全国放送で噛みつく瞬間流れちまったぞ?」
「政府の対応は?」
斉藤が冷静な声で聞く。
「まだ何も発表してねえ。でも、どう考えても隠し通せねえだろ」
「確かに……」
俺はスマホを握りしめたまま、考える。
「今のうちに、買い出しを追加したほうがいいかもしれない」
「お前、昼間に買ったんじゃなかったか?」
「食糧はな。でも、まだ準備が足りない気がする」
「……だよな」
安田が息を吐く。
「俺、さっき掲示板で見たんだけどさ。東京の病院の一部で封鎖されてるところが出始めてるらしい」
「……病院が?」
「ニュースでは『内部トラブル』とか言ってるけど、中で何かあったんじゃないかって噂になってる」
「……」
病院の封鎖。
もし噂が本当なら、もうウイルスは都内に広がっている可能性が高い。
「……護身用の道具も揃えておくか」
俺はそう呟いた。
「お、ついに武器調達か?」
安田が少し笑う。
「いや、そういうのじゃなくて、一般人が持ってても違和感のない範囲でな」
「たとえば?」
「バットとか、工具とか」
「それならホームセンターだな」
斉藤がすぐに言う。
「作業用の手袋、防具も揃うし、あと防犯用品コーナーも見ておいたほうがいい」
「バールとかもあるだろうな」
高橋が静かに言う。
「お前、一人で行くのか?」
安田が聞いてくる。
「いや、会社の同僚と一緒に行くつもりだ」
「そいつも備えてるのか?」
「まぁな」
「じゃあ、なるべく早めに行っとけよ。ネットの情報見る限り、明日には店がパニックになる可能性がある」
「分かった。行ってくる」
通話を切り、すぐに藤木へメッセージを送る。
──「追加の買い出し。今からホームセンター行く」
──「了解。すぐ準備する」
リュックを背負い、部屋を出た。
エレベーターを降り、夜の静かな街へと足を踏み出す。
店内は昼間よりもさらに人が少なかった。
食品コーナーではそれなりに買い占めが始まっていたが、工具や防犯用品のコーナーはまだ手つかずだった。
「まずは武器になりそうなものからだな」
「金属バット……あるな」
藤木が棚を見上げながら言った。
「木製よりこっちのほうが耐久性あるだろ」
「そうだな」
俺たちはそれぞれ1本ずつ手に取る。
「他に何かないか?」
「工具もありじゃね? バールとか、モンキーレンチとか」
「バールか……扉こじ開けるのにも使えそうだな」
俺たちは金属バットに加えて、バールと懐中電灯、作業用の手袋をカゴに入れた。
そのとき、ふと目に入ったのが防犯用品コーナーだった。
「なあ、あれ……」
俺が指さすと、藤木が目を細める。
「刺股……?」
「こんなもん売ってんのか」
金属製の刺股が、一本だけ売れ残っていた。
「お前、使い方わかるか?」
藤木が不安そうに言う。
「まあ、相手を押し倒すくらいならいけるだろ」
「これでゾンビ押さえ込めるか?」
「いや、押さえ込むんじゃなくて、距離を取るために使うんだよ」
「なるほどな……」
俺たちは刺股を一本だけカゴに入れた。
「これで、一応最低限の準備はできたか」
「後は食料だな」
「手短に済ませるぞ」
俺たちは素早く店内を回り、水や缶詰、インスタント食品をカゴに詰め込んだ。
会計を済ませ、荷物をリュックとキャリーに詰める。
「……さて、帰るか」
「明日にはもう、こんな買い物すらできなくなってるかもな」
「かもな」
外の夜風がやけに冷たく感じた。
もう後戻りはできない。
10
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年中盤まで執筆
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる