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しおりを挟む「とりあえず、今の状況をマンションの掲示板に報告しておくか」
俺はスマホを開き、掲示板の投稿欄に手を伸ばした。
「注意喚起:本マンション内で感染者を確認しました。3階で異変が発生し、住人の一人が明らかに異常な行動を取っていました。可能な限り部屋から出ず、ドアの施錠を厳重にしてください。感染拡大の恐れがあります」
投稿ボタンを押し、深く息をつく。
「……これで、他の住人も警戒するはずだ」
「どうだろうな」
斉藤が腕を組みながら、スマホ画面を覗く。
「こういうときって、『デマじゃないか』って疑うやつもいるんだよな」
「まあ、それは仕方ないけどな」
安田がスマホを片手に、溜息混じりに言う。
「でも、実際に遭遇したら、そんな悠長なこと言ってられなくなる」
「それまでに備えておくしかないな」
俺はテレビのリモコンを手に取り、電源を入れた。
ニュース番組が流れ始める。
──その画面には、政府の記者会見の様子が映っていた。
「……政府は、現在発生している『暴徒化症状』について、これを感染症による異常行動であると認めました」
キャスターの声が、異様な緊張感を帯びている。
「すでに各地で警察や病院の機能が麻痺しつつあり、市民の皆様には不要不急の外出を控え、自宅での安全確保をお願いしております。また、感染者に遭遇した場合の対応策として、次の点を推奨しています」
画面が切り替わり、対処法のリストが表示された。
──**「感染者は打撃による制圧が困難な場合がある」**
──**「長物(棒状のもの)を使って押さえる、距離を取ることを推奨」**
──**「物理的に閉じ込める、転倒させて行動不能にする手段が有効」**
俺たちは無言で画面を見つめた。
「……やっぱり、打撃じゃなかなか止まらないってことか」
俺はさっきの佐々木さんの動きを思い返す。
「金属バットを持ってたけど……確かに、一撃で止めるのは無理そうだったな」
「だから、刺股を使って押し込んだのは正解だったってことか」
「閉じ込めるか、転ばせる……なるほどな」
高橋がハンマーを握りしめながら呟く。
「でも、これってつまり……政府も打開策がないってことじゃないのか?」
安田が苦笑混じりに言う。
「まあ、対策って言っても、結局『とりあえず自分で何とかしろ』って話だもんな」
「警察や病院も機能してないし、もう頼れるのは自分だけってことだ」
「……ってことは、今後、状況はさらに悪くなる」
俺たちは誰もが無言になった。
マンションの中にも感染者がいる。
政府はもはや、収束を諦めたかのような対応をしている。
「……どうする?」
斉藤が静かに問う。
「しばらくはここにいる。でも、そろそろ移動の準備も考えなきゃならないかもしれない」
俺は刺股を握りしめながら、テレビ画面の中で続く記者会見を睨みつけた。
このままでは、いずれマンションも安全ではなくなる。
それだけは、確実だった。
「……結局、政府は何もできねえってことか」
安田が乾いた笑いを漏らしながら、スマホをいじる。
「まあ、ここまで感染が広がったら、もう収束させるのは無理だろうな」
斉藤が冷静に分析する。
「問題は、俺たちがどうするかってことだ」
俺はテレビ画面を睨みながら、そう呟いた。
ニュースでは、記者が政府の代表に食い下がっていた。
「では、市民はどこへ避難すればいいのでしょうか? すでに各地の避難所がパニックになっていますが」
「……現在、自衛隊を中心に一部地域の安全確保を進めております。ただし、感染拡大が続いているため、安全な避難場所の確保が困難になっております」
「つまり、助けは来ないってことか」
高橋が静かに言う。
「まあ、どこに逃げても安全じゃないってことだな」
安田が溜息をつく。
俺はスマホを取り出し、藤木にメッセージを送った。
「政府の会見見たか?」
数分後、返事が来る。
「見た。あれはもう、完全に諦めてるな」
「そっちはどうだ?」
「藤木のいるショッピングモール、どうなってる?」
俺の問いに、しばらくして藤木から返信があった。
「橘の支配がますます強くなってる。物資管理は厳しくなったし、反対意見を言うやつは睨まれる空気になってる」
「……やっぱりか」
俺は仲間たちに藤木の状況を伝えた。
「ショッピングモールもそろそろ危なそうだな」
「どこも安全じゃないってことだ」
「でも、すぐにここを出るのは危険すぎる」
「だから、準備を進めつつ、状況を見極めるしかない」
俺は刺股を壁に立てかけ、深く息を吐いた。
「掲示板で、ほかに安全そうな場所の情報を探してみる」
安田がスマホを開き、指を滑らせる。
「マンションが崩壊する前に、次の拠点を見つけなきゃな」
「……だな」
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