終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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俺たちは手際よく荷物をまとめ、必要なものをリュックに詰めていった。

「食料と水は分担して持とう。持てる限り持っていくが、機動力は落としたくない」

斉藤がそう言いながら、リュックの中身を調整する。

「バールと刺股は持った。安田、バットは大丈夫か?」

「もちろん。手放せねえよ」

安田がバットを肩に担ぐ。

「高橋、工具は?」

「入れた。ハンマーもある」

高橋はリュックのジッパーを閉め、立ち上がる。

「問題は移動ルートだな」

俺はマンションの間取り図と、近隣の地図を確認する。

「正面玄関は使えない。ゾンビがいる可能性があるし、住人たちがまだ篭城してるから余計な騒ぎは避けたい」

「裏口か?」

「それがベストだ。駐車場を抜ければ、大通りには出ずに済む」

「よし、行くか」

全員が荷物を背負い、玄関前で最後の確認をした。

「藤木の位置は?」

俺はスマホを開く。

──藤木からの最新のメッセージが入っていた。

「駐車場の裏手で待ってる。モールの中はもう危ない」

「藤木もギリギリの状況っぽいな」

「急ごう」

俺たちは静かに玄関を開け、マンションの廊下に出た。

廊下は静まり返っていた。

すれ違う住人はいない。

「……誰も動いてねえな」

安田が小声で呟く。

「それだけ、みんな恐怖してるってことだ」

斉藤が冷静に言う。

「騒ぎを起こすな。静かに行くぞ」

俺たちは物音を立てないように慎重に階段を降り、裏口へと向かった。

途中、ドアの前に置かれたゴミ袋が不自然に動いた気がして、一瞬足が止まる。

「……気のせいか」

深呼吸し、再び歩き出す。

裏口のドアを慎重に開けると、外の冷たい空気が流れ込んできた。

「クリア」

高橋が周囲を確認し、小さく頷く。

「よし、行くぞ」

俺たちは闇に紛れるように、静かにマンションを後にした。


エンジンの音が夜の静寂を切り裂いた。マンションの駐車場に停めてあった車は、安田のものだった。

「お前、こんな状況でよく車で来たな」

運転席に座った安田が鼻を鳴らす。

「いや、正直めちゃくちゃ迷ったよ。でも、電車はもう危なかったし、車なら逃げられるかと思ってな」

助手席に座った斉藤が地図を確認する。

「ルートは決まってるな? 市街地のど真ん中は避ける。できるだけ裏道を使って、ショッピングモール近くの駐車場へ向かう」

「分かってる。で、藤木ってやつはどこにいるんだ?」

後部座席で武器を抱えながら高橋が短く尋ねる。

「モールの裏手の駐車場。今朝の時点で中の雰囲気がヤバかったらしい。橘が支配を強めすぎて、反対意見を言うやつが締め上げられてるとか」

「結局、そうなるんだよな。独裁は長くは続かない」

安田が軽くアクセルを踏む。

「それに、モール内で感染者が出たらしい。なのに橘はそれを認めないで、情報を封じ込めようとしてる」

「もう終わりかけてるな」

車は暗い道路を進んでいく。信号は点滅しているだけで、すでに交通規制は機能していない。

左手に見えたコンビニは、窓が割られ、中は荒らされていた。棚は空っぽで、床には食品の包装が散乱している。誰かが暴れた跡だった。

「もう略奪が始まってるのか……」

斉藤が低く呟く。

「そりゃそうだろ。物流が止まれば、店の商品なんて一瞬でなくなる。あとは奪い合いだ」

安田がフロントガラスを見つめながら、苦い顔をする。

遠くでクラクションがけたたましく鳴り響いた。

交差点の向こう、タクシーの屋根に何かが乗っている。

それが人間ではなく、うずくまるようにして運転席を引っ掻いているのが見えた。

「……ゾンビか?」

高橋が静かに呟く。

「いや、まだ完全に変わってないのかもしれない。でも、あれはもう無理だな」

タクシーの中では、運転手らしき男が必死に抵抗しているのが見えた。

その横を、俺たちの車はゆっくりと通り過ぎる。

誰も何も言わなかった。

それが、今の世界だった。

数分後、ショッピングモールの裏手に近づくと、遠くで黒い影が数人動いているのが見えた。

「いたな。あれが藤木か?」

安田が減速する。

俺は窓を開け、小声で呼んだ。

「藤木!」

その声に反応し、駐車場の隅にいた男が素早くこちらに走ってくる。

「急げ!」

藤木はリュックを背負い、息を切らしながら車に飛び乗った。

「助かった……!」

ドアが閉まると同時に、安田がアクセルを踏む。

「モールの中、もうダメだ。感染者が出てるのに、橘がそれを認めなくて、対処もしてない。あのままだと、内部で暴動が起きる」

「だろうな」

斉藤がハンドルを握りながら淡々と答える。

「で、お前らはどこへ向かってる?」

藤木が後部座席の俺たちを見回す。

「山奥の廃旅館だ。都市部は長く持たない。避難所はパニックだし、人の少ない場所で拠点を作る」

「なるほど……悪くないな」

藤木は短く頷いた。

「そういえば、こいつらとは初対面か」

俺が紹介すると、藤木は改めて後部座席の仲間たちに目を向けた。

「俺は藤木。三浦とは会社の同僚だった。営業やってる」

「安田だ。IT関係の仕事してたけど、まあ今はそんなの関係ないな」

「斉藤。公務員だ。こういう状況になるとは思わなかったが……まあ、考えるのは得意だ」

「高橋。工場勤務」

「お前、少しは自己紹介らしいこと言えよ」

安田が笑うが、高橋はただ静かに頷くだけだった。

そのやり取りに藤木が苦笑する。

「三浦がこういうメンツとつるんでるのは意外だったな」

「まあ、大学の頃からの付き合いだからな」

その会話をしている間にも、車は市街地を抜けようとしていた。

窓の外には、暗闇に沈む街が広がっている。

時折、遠くで悲鳴が響き渡る。

俺たちは誰も、その音の正体を確かめようとはしなかった。

ただ、車を走らせ続けた。

次の目的地、廃旅館へ向かって。
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