終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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「……助けるぞ」

俺の言葉に、全員が緊張した面持ちで頷く。

「素早くやるぞ。車はここに待機。俺と高橋で引っ張り上げる」

斉藤が助手席で地図を確認しながら言った。

「長く時間をかけられない。ゾンビの数が増えたら撤退する」

「了解」

俺はドアを開け、夜の冷たい空気の中へ飛び出した。

高橋とともに、横転した車のそばへ駆け寄る。

そこにいたのは、小太りの中年の男だった。

「動けるか?」

俺が声をかけると、男は顔を上げた。

「た、助けて……足が……」

「やべえな、転んで動けなくなってる」

高橋が男の腕を引っ張るが、体が重く、簡単には動かせない。

「くそ……」

ゾンビたちがゆっくりと距離を詰めてくる。

「立てるか?」

「む、無理……膝が……」

男の体重が重すぎて、引きずるのも難しい。

「高橋、片腕を持て。俺がもう片方を──」

その時、男の足元からかすかな音がした。

「……っ」

見ると、車の下にもう一体、ゾンビがいた。

「まずい!」

車の隙間から、ゾンビの手がぬるりと伸び、男の足首を掴む。

「うわあああ!!」

男が悲鳴を上げると同時に、ゾンビが勢いよく引っ張った。

「くそっ!」

俺は咄嗟に刺股を突き出したが、間に合わない。

男の体が車の下へと引きずり込まれる。

「ぎゃああああ!!」

血が飛び散る。

男の絶叫が響く。

「もう無理だ、戻るぞ!」

高橋が俺の腕を引き、後退する。

「くそっ……!」

ゾンビたちがこちらに向かってくる。

男の断末魔を背に、俺たちは車へと駆け戻った。

安田がドアを開け、俺たちを引きずり込むようにして乗せる。

「ダメだったか……」

藤木が苦々しく呟く。

「仕方ない……助けられる状況じゃなかった」

斉藤が冷静に言う。

「行くぞ!」

安田がアクセルを踏み、車が急発進する。

ミラー越しに、ゾンビたちが男の体に群がるのが見えた。

「……クソ……」

俺は拳を握りしめ、視線を逸らした。

「……これが、これから当たり前になるんだろうな」

安田が低く呟く。

「全員は助けられない。助けられる範囲で動くしかない」

「それでも……」

俺は息を吐いた。

「俺たちは、まだ生きてる」

誰もが静かに頷いた。

車は闇の中を走り続けた。

俺たちの目指す、次の拠点へ向かって。




エンジンの唸りだけが車内に響く。

都会の混乱を抜けると、景色は一変した。

道路脇には田んぼが広がり、遠くには静かな山々が連なっている。

「……ここ、本当に同じ日本かよ」

藤木が助手席から外を見ながら呟いた。

「嘘みたいだな」

俺も窓の外を眺める。

先ほどまでの市街地の混乱がまるで夢だったかのように、田舎の風景はのどかだった。

畑仕事をしている老人の姿も見える。

彼らは、まだ都会で何が起こっているのか知らないのかもしれない。

「……情報が届いてないんだろうな」

斉藤が冷静に分析する。

「テレビやネットがまだ機能してるなら、そのうち気づくだろうが……今のところ、ここは平和ってことか」

「その分、俺たちは助かる」

安田がほっとしたように言う。

「給油、すんなりできそうだな」

道沿いにぽつんとあるガソリンスタンドが見えてきた。

「営業してる……?」

高橋が目を細める。

看板の電気はまだ灯っており、スタンドの中には店員の姿があった。

「大丈夫そうだな。とにかく、給油しておこう」

安田がゆっくりと車を停める。

スタンドの店員は、何も知らないのか、のんびりと歩いてきた。

「いらっしゃいませー。満タンで?」

「お願いします」

斉藤が財布を取り出しながら応じる。

「ここ、テレビとか見てます?」

俺が何気なく尋ねると、店員の男は首を傾げた。

「いやー、あんまり。電波入りにくくてね」

「そうですか……」

どうやら、本当に都会の混乱はまだ届いていないらしい。

そのまま、何の問題もなく給油が終わった。

「……拍子抜けするな」

藤木が呟く。

「何か起こると思ってたのか?」

「いや……こんなにスムーズだと、逆に不安になる」

俺も同じ気持ちだった。

だが、それは次の道に入ってすぐ、現実のものとなる。

給油を終え、山へと続く道に入ると、状況は一変した。

「うわ……」

安田がハンドルを握りながら顔をしかめる。

舗装された道は徐々に草木に埋もれ、アスファルトはひび割れ、デコボコが激しくなっていく。

「このまま進めるか?」

藤木が尋ねる。

「ギリギリいける……が、めちゃくちゃ揺れるぞ」

「もう暗くなってきたしな……」

日が沈みかけ、周囲は次第に影に包まれていく。

「懐中電灯用意しとけ」

高橋がリュックから懐中電灯を取り出し、座席に置く。

「本当にこの道で合ってるのか?」

「合ってる。だが……相当荒れてるな」

斉藤が地図を睨みながら答える。

「そりゃそうだろ、数年放置されてるんだから」

俺たちは道のガタつきに耐えながら、ゆっくりと進んでいく。

窓の外に広がる森は、夜の闇に包まれ、不気味な静寂が漂っていた。

「……このまま、何事もなく着けるといいがな」

藤木がボソリと呟いた。

誰もがそれに返事をしなかった。

ただ、俺たちは慎重に、廃旅館へと続く道を進んでいった。
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