終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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車はガタガタと揺れながら、細くなった山道を進んでいた。

「マジで……道がひどいな」

安田がハンドルを必死に握りしめながら唸る。

「このまま進んで大丈夫か?」

藤木が助手席で前方を見据えながら尋ねる。

「引き返すのも難しいだろう。まだ車が走れるうちに、できるだけ進んでおくべきだ」

斉藤が冷静に言う。

「それに、今さら市街地には戻れない」

俺は窓の外の景色を眺めながら答えた。

すっかり日が暮れ、森の影が黒々と道路に伸びている。

車のヘッドライトだけが、道の先を照らしていた。

「……一応聞いておくが、旅館にたどり着いても、中に何もいない保証はないよな?」

藤木が呟く。

「その可能性はあるな。人がいたとしても、生存者とは限らない」

高橋が低く言う。

「最悪、ゾンビが潜んでるかもな」

「それなら、まずは偵察だな。正面から突っ込むんじゃなくて、慎重に様子を見る」

「それと、逃げ道の確認もしておこう」

斉藤が地図を確認する。

「旅館の裏手に崖があるなら、万が一のときに逃げ場がない」

「そんなに高い場所じゃないはずだが……実際に行ってみないと分からんな」

藤木が腕を組む。

「……とりあえず、もうすぐだ」

安田がスピードを落としながら言った。

森の影がさらに濃くなり、ヘッドライトの光が木々に反射する。

道の両側は完全に森に覆われ、建物の気配はまだ見えない。

「ここから先、車は慎重に進めるしかないな」

「最悪、車を置いて徒歩で行くことも考えないと」

「それは最後の手段だ」

俺は窓の外をじっと見つめる。

どこか遠くで、枝が揺れるような音がした。

「……気のせいか?」

藤木が小声で呟く。

「いや、俺も聞こえた」

高橋がそっと刃物を手に取る。

「動物か、それとも……」

安田がエンジンを少し落とし、スピードを緩める。

「どっちにしろ、慎重に行くぞ」

俺たちは息を詰め、旅館が見えるまでの道を進んでいった。

車はさらに奥へと進んでいった。道の両側には背の高い木々が生い茂り、まるでこの先に進むなと警告しているかのようだった。

ヘッドライトが照らす先に、ようやく建物の輪郭が浮かび上がる。

「……あれか?」

藤木が小声で呟いた。

「間違いない。地図と位置が一致してる」

斉藤がスマホの画面を確認しながら言う。

旅館の外観は思った以上に荒れていた。

木造の建物は朽ちかけ、二階部分の窓ガラスは割れ、軒下には落ち葉が積もっている。

「うーん……思ったよりもボロいな」

安田がぼそりと呟く。

「まあ、数年放置されてりゃこうなる」

俺は慎重に周囲を見回した。

「まずは偵察だな」

「車のライトは消しておくぞ」

安田がエンジンを切ると、辺りは一気に闇に包まれた。

「懐中電灯、最小限の光で頼む」

高橋がトランクから懐中電灯を取り出し、最低限の光量にして建物を照らす。

旅館の入り口には、古びた木製の看板が掛かっていた。

「翠風館」

その文字は風雨に晒され、半分ほどしか読めなかった。

「さて、問題は中に何がいるかだ」

藤木が刃物を手にしながら言う。

「ゾンビか、それとも他の生存者か」

「もしくは、何もいない可能性もある」

斉藤が淡々とした口調で続ける。

「最初に誰かが潜入して、内部の状況を確認するべきだな」

「俺と高橋で行く」

俺はそう言って、高橋と視線を交わした。

高橋は無言で頷くと、刺股を片手に持った。

「入り口の扉は……」

そっと手をかけてみると、案外あっさりと開いた。

「開いてるな……」

「罠ってことはないだろうが……慎重にいこう」

俺たちはゆっくりと中に足を踏み入れた。

旅館の内部は、時間が止まったように静まり返っていた。

埃っぽい空気が鼻をつく。

畳の敷かれたロビーには、壊れたソファや受付カウンターが残っていた。

「……誰かが使った形跡は?」

高橋が低く訊ねる。

「分からない……でも、完全に無人とも言い切れないな」

俺は慎重に奥へと目を向けた。

何かがいる気配はしない。

だが、だからといって安心はできなかった。

「とりあえず、一旦戻って報告するか」

高橋が小さく頷く。

俺たちはゆっくりと外へ引き返した。

「どうだった?」

藤木が小声で訊く。

「今のところ、生きてる人間やゾンビの気配はない。でも、完全に安全とは言い切れない」

「まずは、一晩ここで様子を見よう」

斉藤が決断する。

「内部のチェックは明日、明るくなってからにするべきだ」

「そうだな……今は不用意に動くのは危険だ」

俺たちは車から荷物を運び出し、旅館の一室に身を潜めた。

とりあえず、ここは一時的な避難場所にはなりそうだ。

だが、この静けさが不気味なのは気のせいだろうか。

俺たちはまだ、この場所の全貌を知らなかった。
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