終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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帰り道、山道を走っていると、道路の真ん中に何かが横たわっているのが見えた。

「……鹿か?」

俺が速度を落とすと、安田が助手席から身を乗り出して確認する。

「みたいだな。まだ新しいな……」

車を停め、慎重に近づく。鹿は大きなオスで、立派な角を持っていた。地面には滑ったような跡があり、崖の方から転がり落ちたのかもしれない。

「事故じゃなくて、自然に落ちたっぽいな」

「だな……」

俺たちはしばらくそれを見つめた。都会ではまず見られない光景だが、ここではこういうことも珍しくないのかもしれない。

「これ……使えるか?」

安田がポツリと呟く。

「さすがに丸ごとは無理だろ」

「でも、肉は貴重だぞ。食料が手に入りにくくなるなら、こういうのを利用するのもありだろ」

「……そうだな」

俺たちは慎重に作業を進め、使えそうな部分だけをいただくことにした。特に足の部分は筋肉がしっかりしており、食べやすそうだった。

「こんな経験、初めてだな……」

「俺もだよ。でも、これからはこういうことが普通になっていくのかもな」

必要な分だけ確保し、あとはそのままにした。無闇に触るのも危険だし、何より俺たちは狩猟のプロではない。できる範囲で最低限のことをするだけだ。

「よし、これで戻るか」

「うん。早く旅館に戻ろう」

俺たちは車に乗り込み、旅館へ向けて出発した。

旅館に戻ると、仲間たちが広間で待っていた。車の音に気づいたのか、藤木が玄関の補強された引き戸を開けてくれる。

「おかえり。無事だったか?」

「まあな。スーパーは予想通り混雑してたけど、なんとか必要なものは確保できた」

俺と安田は、持ち帰った物資を広間の一角に置く。袋の中には、スーパーで買い込んだ食料品や日用品、そして農家の人から分けてもらった野菜が詰まっていた。

「おっ、これ新鮮じゃん」

安田が野菜の袋を開けながら言う。「地元の農家の人が配ってたんだよ。流通が止まったから、腐らせる前にってさ」

「いい話だな」斉藤が野菜を手に取りながら言う。「このご時世、善意で分けてもらえるのは貴重だ」

「でも、いつまでそういうことが続くかは分からない。だからこそ、今のうちにできるだけ備えたほうがいい」藤木が真剣な表情で言う。

「それで……ちょっとした“追加”もある」

俺は車の後部座席を開け、袋に包んだ鹿の足を持ち上げる。

「え?」

高橋が一瞬目を丸くし、他の仲間たちも驚いたように目を見開いた。

「途中で見つけたんだ。崖から落ちたらしくて、新鮮だった」

「マジかよ……」安田が苦笑する。「いや、でもこれ、貴重なタンパク源だぞ」

「うん。捌けば結構食えるはず」高橋が鹿の足を観察しながら言う。「問題は調理だな」

「旅館の厨房を使えばなんとかなるんじゃないか?」斉藤が言う。「ガスは止まってるけど、炭があるし、薪を用意すれば火は起こせる」

「じゃあ、さっそく準備するか」

俺たちは旅館の厨房へと移動し、できるだけ衛生的に鹿肉を処理することにした。斉藤がナイフを研ぎ、高橋が手際よく筋を取り除いていく。

「俺、こういうの初めてだけど……なんかサバイバルっぽくなってきたな」

安田が少し楽しそうに言うと、藤木が苦笑しながら「そういう余裕があるうちに、やれることはやっておかないとな」と返す。

鹿肉を切り分け、一部はすぐに食べられるように調理し、残りは保存できるように加工することにした。

「この分なら、しばらくは肉に困らなそうだな」

「でも、いつまでもあるわけじゃない。結局、長期的には自給のことを考えなきゃならない」

俺たちは、少しずつだが、確実にここでの生活を形にしていった。
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