終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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深夜の見張り中、旅館の廊下に微かな足音が響いた。

ピタッ、ピタッ……

俺たちは即座に反応し、それぞれ武器を手に取る。安田は刺股、藤木は金属バット、高橋は手斧を持ち、廊下の奥を警戒する。

「……聞こえたか?」

「聞こえた。外じゃない、館内だ」

緊張が走る。これまで旅館の中でゾンビの気配はなかった。しかし、もし誰かが外から侵入していたとしたら? それとも、俺たちがまだ見落としていた場所に潜んでいたのか?

藤木が小声で指示を出す。「音がしたのは、奥の部屋の方だ。慎重に行こう」

俺たちは静かに歩みを進め、長い廊下の奥へ向かう。周囲は薄暗く、懐中電灯の光が木の柱や古びた掛け軸を揺らした。旅館の構造上、視界が悪い。どこからでも何かが飛び出してきそうな雰囲気だ。

そして、音がしたと思われる部屋の前にたどり着いた。襖が少しだけ開いている。

「……行くぞ」

藤木がバットを構え、俺たちも息を呑んで襖を静かに開いた。

だが、そこには何もいなかった。

ホコリが積もった畳、乱雑に置かれた布団、そして奥にある障子がわずかに揺れているだけだった。

「……風か?」

「いや、でも……」

安田が言いかけたその瞬間、障子に突然ベタッと真新しい手形が現れた。

「……っ!」

誰もが息を呑む。ゾンビではない。だが、何かがいる。

一瞬の静寂の後、安田が小さく「あのさ……こういうのはナシでよくね?」と震えた声で言った。

俺たちはそれを合図にしたように力を抜き、武器を下ろした。

「……マジでゾンビかと思った」藤木が深いため息をつく。

「おいおい、心臓に悪すぎるだろ……」高橋も苦笑いしながら斧をしまう。

「ゾンビじゃなくて幽霊かよ……」安田は大げさに肩を落とした。「どっちも怖いんだけど、正直、ゾンビの方が対処しやすい気がするんだが」

「まあ、幽霊なら噛まれても感染しないしな」

「そういう問題か?」

全員が苦笑しながらも、どこかホッとした空気が流れる。

結局、それ以上の異変はなく、俺たちは慎重に見回りを続けた。旅館は静かで、外の様子も変わりはなかった。

「……とりあえず、見回りは続けるけど、次からは心霊現象には驚かされないようにしようぜ」

「それができたら苦労しないけどな」

俺たちは苦笑しながら廊下を歩き、見回りを再開した。背後には、先ほどまで騒いでいた部屋がひっそりと静まり返っている。

誰も気にすることなく立ち去ったその場所に、ひとつ、低く掠れた嘆き声が響いた。

「……ぁぁ……」

静寂の中、誰にも届かない声が、無人の部屋に消えていく。障子に残った手形は、じわじわと薄れていった。
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