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湯煙の中で体の疲れをほぐし、ようやくさっぱりとした俺たちは、夜になって広間に集まった。
フローラルな香りを漂わせる五人の男たち──この状況だけ切り取れば、なんとも滑稽だったが、俺たちはそんなことを気にしている余裕はなかった。
藤木と安田が、それぞれ集めた情報を整理し、報告を始めた。
「まず、ネットの情報だけど……」
安田がスマホを見ながら話し出す。
「都内はもう完全に機能してない。政府の発表もほぼ停止してて、テレビはNHKが緊急放送を続けてるけど、内容は数時間前の繰り返しだな。警察もほぼ麻痺してて、対応できるのは一部の自衛隊だけ。けど、その自衛隊も特定の拠点防衛が優先で、一般市民の保護はほぼ期待できない」
「まあ、予想通りだな」斉藤が腕を組む。「政府がすぐに機能しなくなるとは思ってたが……」
「あと、物流は完全に止まってる。高速は通行止めになった区間も多いし、ガソリンも手に入りづらくなってるみたいだ。もうまともな買い出しはできねぇな」
「物資が尽きたら、動かなきゃいけないか……」
「それと……」安田は少し口ごもった。「生存者同士の争いが増えてきてる」
「……争い?」
「スーパーやコンビニの略奪が本格化してるみたいだ。あと、ある程度の人数でグループを作って、食料を強奪してる連中がいる。生存者がゾンビだけじゃなく、人間にも警戒しなきゃならない状況になりつつある」
「……そうなるとは思ってたけど、早かったな」
「政府が機能してた時期はギリギリ秩序が保たれてたけど、それがなくなったら、結局こうなるんだよな」
「で、ショッピングモールのほうは?」
俺が尋ねると、藤木がゆっくりと口を開いた。
「……あそこはもう、終わったよ」
「終わった?」
藤木は少し間を置いてから、続けた。
「橘の支配は、最初こそ上手くいってた。でも、徐々に内部の不満が溜まり始めたんだ。物資の管理、警備の分担、そして感染の疑いがある奴の処遇……そういう問題が、どんどん積み重なっていった」
「やっぱり、閉鎖空間での共同生活には限界があったか」
「そういうことだ」藤木はため息をついた。「特にヤバかったのは、物資の独占だな。橘とその取り巻きが最優先で食料を確保し、その他の連中には最低限しか渡らなくなった。当然、反発が起きた。最初は言い争いだったが、最後は武力衝突だ」
「……殺し合いになったのか?」
藤木は黙って頷いた。
「俺が出る直前、モールの中は内戦状態だった。橘派と、それに反発したグループの間で、殴り合いどころか、刃物を持ち出すやつまでいた。で、その騒ぎで……」
「……ゾンビが集まったのか」
「そういうことだ」藤木が苦々しく笑う。「モールの外はまだゾンビで埋め尽くされてるわけじゃなかったが、それでも大勢の人間が争えば、当然目立つ。混乱の中で扉が破られ、ゾンビが流れ込んだ」
誰も言葉を発さなかった。
「最後に連絡を取った時点で、生存者はほぼ壊滅状態だったよ。俺が知ってる限り、あのモールに残った会社の同僚は……たぶん、もう生きてない」
静かな沈黙が広がる。
「結局、都市部で生き残るには、何かしらの組織が必要だった。でも、それが維持できなかったら、こうなる」
「橘は?」
「……生きてるかどうかはわからない。でも、あいつは最後までモールに残るって言ってた」
藤木の口調には、どこか他人事のような冷めた響きがあった。
「……俺は、あそこを見限って正解だったよ」
誰もが、その言葉に異論はなかった。
都市はもう終わりかけている。
その事実を、俺たちは改めて突きつけられた。
フローラルな香りを漂わせる五人の男たち──この状況だけ切り取れば、なんとも滑稽だったが、俺たちはそんなことを気にしている余裕はなかった。
藤木と安田が、それぞれ集めた情報を整理し、報告を始めた。
「まず、ネットの情報だけど……」
安田がスマホを見ながら話し出す。
「都内はもう完全に機能してない。政府の発表もほぼ停止してて、テレビはNHKが緊急放送を続けてるけど、内容は数時間前の繰り返しだな。警察もほぼ麻痺してて、対応できるのは一部の自衛隊だけ。けど、その自衛隊も特定の拠点防衛が優先で、一般市民の保護はほぼ期待できない」
「まあ、予想通りだな」斉藤が腕を組む。「政府がすぐに機能しなくなるとは思ってたが……」
「あと、物流は完全に止まってる。高速は通行止めになった区間も多いし、ガソリンも手に入りづらくなってるみたいだ。もうまともな買い出しはできねぇな」
「物資が尽きたら、動かなきゃいけないか……」
「それと……」安田は少し口ごもった。「生存者同士の争いが増えてきてる」
「……争い?」
「スーパーやコンビニの略奪が本格化してるみたいだ。あと、ある程度の人数でグループを作って、食料を強奪してる連中がいる。生存者がゾンビだけじゃなく、人間にも警戒しなきゃならない状況になりつつある」
「……そうなるとは思ってたけど、早かったな」
「政府が機能してた時期はギリギリ秩序が保たれてたけど、それがなくなったら、結局こうなるんだよな」
「で、ショッピングモールのほうは?」
俺が尋ねると、藤木がゆっくりと口を開いた。
「……あそこはもう、終わったよ」
「終わった?」
藤木は少し間を置いてから、続けた。
「橘の支配は、最初こそ上手くいってた。でも、徐々に内部の不満が溜まり始めたんだ。物資の管理、警備の分担、そして感染の疑いがある奴の処遇……そういう問題が、どんどん積み重なっていった」
「やっぱり、閉鎖空間での共同生活には限界があったか」
「そういうことだ」藤木はため息をついた。「特にヤバかったのは、物資の独占だな。橘とその取り巻きが最優先で食料を確保し、その他の連中には最低限しか渡らなくなった。当然、反発が起きた。最初は言い争いだったが、最後は武力衝突だ」
「……殺し合いになったのか?」
藤木は黙って頷いた。
「俺が出る直前、モールの中は内戦状態だった。橘派と、それに反発したグループの間で、殴り合いどころか、刃物を持ち出すやつまでいた。で、その騒ぎで……」
「……ゾンビが集まったのか」
「そういうことだ」藤木が苦々しく笑う。「モールの外はまだゾンビで埋め尽くされてるわけじゃなかったが、それでも大勢の人間が争えば、当然目立つ。混乱の中で扉が破られ、ゾンビが流れ込んだ」
誰も言葉を発さなかった。
「最後に連絡を取った時点で、生存者はほぼ壊滅状態だったよ。俺が知ってる限り、あのモールに残った会社の同僚は……たぶん、もう生きてない」
静かな沈黙が広がる。
「結局、都市部で生き残るには、何かしらの組織が必要だった。でも、それが維持できなかったら、こうなる」
「橘は?」
「……生きてるかどうかはわからない。でも、あいつは最後までモールに残るって言ってた」
藤木の口調には、どこか他人事のような冷めた響きがあった。
「……俺は、あそこを見限って正解だったよ」
誰もが、その言葉に異論はなかった。
都市はもう終わりかけている。
その事実を、俺たちは改めて突きつけられた。
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