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誰も声を出さなかった。
ただ静かに、じわりじわりと後ずさる。
空気は湿った埃で満ちていて、喉が焼けるように痛い。だが、咳をする余裕すらない。
コト……コト……
微かな音が続いていた。原因は分からない。だが、俺たちは全員、本能的にここに長くいるべきではないと悟っていた。
「……出るぞ」
誰ともなく小声で言い、それぞれがそろそろと足を動かし始める。背中を向けるのは嫌だったが、正面を向いたまま後退するしかない。
一歩、また一歩と、俺たちは扉へと向かっていった。
幸いにも、邪魔をされることはなかった。俺たちは扉をくぐり、埃の立ち込める通路へと戻る。
「閉めるぞ……」
藤木が慎重に扉を元の位置に戻し、静かに押し込む。
ピタリ。
何の問題もなく閉まった。
「……はぁ」
全員が一斉に息を吐く。
「おい……何だったんだよ、あの部屋……」
安田が膝に手をつき、肩で息をする。
「知らん……でも、あそこにはもう入りたくねえ……」
「何かがいる、ってことなのか?」
「いや、それは……」
言いかけたその時。
ギィ……ン……
背後の壁をつたうように、不気味な鈴の音が響いた。
「っ!」
振り向いた瞬間、旅館の薄暗い廊下の先──
そこに、はっきりとした影があった。
ぼんやりとした白い輪郭。長い髪がゆらりと揺れる。
そして、顔のないのっぺりとした頭部が、こちらをじっと見つめているようだった。
「……!!!」
全員の視線が、完全にその影に吸い寄せられた。
だが、それ以上近づいてくることはない。ただ、じっとこちらを見ている。
「な……何、してる……?」
安田が震える声で呟く。
すると、幽霊(?)は、スッ……と微かに頭をかしげた。
まるで、**「やっと見た?」**と言いたげな仕草。
さらに、髪がふわりと揺れたと思うと、影はすうっと細くなり、そのまま霧が晴れるように消えていった。
完全に姿がなくなると、俺たちはようやく体の硬直を解くことができた。
「……今の、見たよな?」
「……ああ」
誰もが無言で頷く。
確かにいた。しかも、明らかに「こちらを見ろ」とでも言うように、俺たちを惹きつけていた。
「……満足そうだったな、なんか」
安田が気味悪そうに呟く。
「いや、満足も何も……」
俺は疲れたように頭を抱える。
「ついにハッキリ出たな」
藤木がぼそりと呟く。
「そういうことだ」
斉藤が静かに言った。「……この旅館、やっぱり“いる”」
それが敵なのか、味方なのかはまだ分からない。
だが、確かなのは──
この旅館の幽霊は、俺たちに無視されるのを嫌がっている。
ただ静かに、じわりじわりと後ずさる。
空気は湿った埃で満ちていて、喉が焼けるように痛い。だが、咳をする余裕すらない。
コト……コト……
微かな音が続いていた。原因は分からない。だが、俺たちは全員、本能的にここに長くいるべきではないと悟っていた。
「……出るぞ」
誰ともなく小声で言い、それぞれがそろそろと足を動かし始める。背中を向けるのは嫌だったが、正面を向いたまま後退するしかない。
一歩、また一歩と、俺たちは扉へと向かっていった。
幸いにも、邪魔をされることはなかった。俺たちは扉をくぐり、埃の立ち込める通路へと戻る。
「閉めるぞ……」
藤木が慎重に扉を元の位置に戻し、静かに押し込む。
ピタリ。
何の問題もなく閉まった。
「……はぁ」
全員が一斉に息を吐く。
「おい……何だったんだよ、あの部屋……」
安田が膝に手をつき、肩で息をする。
「知らん……でも、あそこにはもう入りたくねえ……」
「何かがいる、ってことなのか?」
「いや、それは……」
言いかけたその時。
ギィ……ン……
背後の壁をつたうように、不気味な鈴の音が響いた。
「っ!」
振り向いた瞬間、旅館の薄暗い廊下の先──
そこに、はっきりとした影があった。
ぼんやりとした白い輪郭。長い髪がゆらりと揺れる。
そして、顔のないのっぺりとした頭部が、こちらをじっと見つめているようだった。
「……!!!」
全員の視線が、完全にその影に吸い寄せられた。
だが、それ以上近づいてくることはない。ただ、じっとこちらを見ている。
「な……何、してる……?」
安田が震える声で呟く。
すると、幽霊(?)は、スッ……と微かに頭をかしげた。
まるで、**「やっと見た?」**と言いたげな仕草。
さらに、髪がふわりと揺れたと思うと、影はすうっと細くなり、そのまま霧が晴れるように消えていった。
完全に姿がなくなると、俺たちはようやく体の硬直を解くことができた。
「……今の、見たよな?」
「……ああ」
誰もが無言で頷く。
確かにいた。しかも、明らかに「こちらを見ろ」とでも言うように、俺たちを惹きつけていた。
「……満足そうだったな、なんか」
安田が気味悪そうに呟く。
「いや、満足も何も……」
俺は疲れたように頭を抱える。
「ついにハッキリ出たな」
藤木がぼそりと呟く。
「そういうことだ」
斉藤が静かに言った。「……この旅館、やっぱり“いる”」
それが敵なのか、味方なのかはまだ分からない。
だが、確かなのは──
この旅館の幽霊は、俺たちに無視されるのを嫌がっている。
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