終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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バリケードの設置作業を終え、俺と安田はダムの管理施設の外で一息ついていた。

「ふぅ……ひとまず、最低限の防御はできたな」

俺が額の汗を拭いながら呟くと、安田も手に持っていた工具を放り出し、大きく伸びをした。

「なぁ……ネットが使えないの、やっぱ不便すぎね?」

突然、安田がぼやく。

「まあな……でも、今さら言っても仕方ないだろ」

「いや、仕方ないのは分かってるよ? でもさ、何か調べようと思っても、スマホ開いても繋がんねぇんだぜ? これ、改めて絶望的すぎるだろ」

安田はスマホを取り出して、電波のアイコンが完全に消えている画面を見せた。

「マジで終わったな……いや、ほんと、こういうときネットがあったらどれだけ助かるか……」

「確かに……情報収集もできないし、娯楽もない」

「それ! ただでさえこんな状況で精神すり減るのに、ネットがないせいで気晴らしすらできねぇ」

安田が嘆くように頭を抱える。

「ゲームもできないし、動画も見れないし、掲示板も漁れない……」

「そっちかよ」

俺は苦笑したが、確かにその通りだった。

これまで当たり前だったネットが、一切使えない。この喪失感は想像以上に大きい。

「SNSが使えたら、もしかしたらどこかでまだ安全な場所があるって情報も拾えたかもしれないしな」

「政府の発表とか、最後のニュースとかも見れねぇもんな……これって、もう文明崩壊ってことでいいんだよな?」

安田の言葉に、俺は曖昧に頷いた。

「……そうだな。少なくとも、俺たちはもう、ネット社会の外にいるってことだ」

「くそ……もうちょい早く、オフラインでも役立つ情報をスマホに保存しとくんだった」

「それは俺も思う」

地図、応急処置のマニュアル、狩猟や罠の作り方、保存食の作り方……ネットがあればすぐに調べられたものが、今は何も見られない。

「ネットに頼りすぎてたってことか」

「まぁな。でもさ、今さらそんなこと言われても困るよなぁ」

安田はスマホをいじりながら、何度も圏外の表示を見つめていた。

俺たちはしばらく、ダムの静かな水面を眺めながら、ネットのない世界の現実を噛み締めていた。




ダムの管理施設での生活が軌道に乗り始めた頃、俺たちは以前山を登る途中で見かけた農村のことを思い出した。

「そろそろ、あの村の様子を見に行ってみないか?」

昼食後、ふと藤木が言った。

「山道の途中にあった農村か?」

俺が確認すると、斉藤が頷く。

「今後の食糧確保のことを考えると、周辺にどんな人がいて、どんな環境なのかを知っておくのは大事だ」

「確かに。都会ほど酷いことにはなってないかもしれないし、むしろまともな生活をしてる可能性もあるな」

安田が腕を組む。

「でも、警戒は必要よ。こっちが何か奪いに来たと思われたら厄介だからね」

田辺さんが鋭い目つきで言う。

「じゃあ、俺たちは手ぶらじゃなくて、何か持っていくべきだな」

高橋がぽつりと呟いた。

「鹿肉はどう?」

「いいな、それ。保存用に残してあるやつを持っていけば、交換に使えるかもな」

藤木が賛同する。

「なら決まりだな。何人かで行ってみよう」

昼過ぎ、俺、藤木、斉藤、田辺さん、高橋の5人は、鹿肉をリュックに詰めて農村へ向かった。

山道を歩き、以前見かけた村の入口にたどり着くと、遠くの田畑で作業をしている人影が見えた。

「思ったより、普通に生活してるみたいだな」

安田が驚いたように呟く。

「そりゃ、都会とは違うもの。元々ここで暮らしてる人たちは、自給自足の要素が強いはずよ」

田辺さんが静かに言う。

俺たちが村に近づくと、作業をしていた数人の村人がこちらを警戒するように振り向いた。

「誰だ?」

中年の男が鋤(すき)を握りながら、警戒心をあらわにする。

「俺たちは、山の上にあるダムの施設で暮らしている者です。通りがかりに、この村を見かけたので、状況を知りたくて来ました」

俺が落ち着いた声で答えると、男は仲間たちと視線を交わしながら、じっとこちらを観察した。

「……お前ら、何か売りつけに来たんじゃないだろうな?」

「いや、そういうわけじゃない。ただ、俺たちも物資が限られてるんで、何か交換できるものがあればと思って」

藤木がリュックを開け、鹿肉の包みを見せる。

「鹿肉か……」

男は眉をひそめたが、後ろにいた初老の女性が目を輝かせた。

「あらまぁ! 鹿肉なんて贅沢だねぇ。最近はなかなか狩りに出る余裕もないし、ありがたいよ」

「そうか……まぁ、悪いやつらには見えんしな」

男はようやく警戒を解き、こちらに歩み寄った。

「交換するなら、何が欲しい?」

「そうだな……保存が効くものがあれば助かる。米とか、干し野菜とか」

斉藤が具体的に尋ねると、村の人たちはしばらく相談し、やがて米と干し野菜、少量の味噌を出してきた。

「助かるな。ありがとう」

「いや、こっちも肉をもらえてありがたい。お互い困ってる時は助け合わんとな」

村人たちは穏やかに笑った。

「ちなみに、村の外の様子はどうです?」

藤木がそれとなく尋ねると、男が渋い顔をした。

「都会のほうはひどいらしいな。こっちはそこまで荒れちゃいないが、流れ者が時々来ては物を盗んでいこうとする。まぁ、基本的に村のもんで固まってるから、簡単にはやらせねぇけどな」

「流れ者……」

俺たちは顔を見合わせた。

「今のところ、大きなトラブルはないんですか?」

「今はな。でも、今後どうなるかは分からん。食い物がなくなりゃ、どこも必死になるだろ」

村人たちは、慎重に周囲を警戒しながら暮らしているようだった。

「いずれ、また来てもいいか?」

高橋が尋ねると、男は肩をすくめた。

「まぁ、交換できるもんを持ってくるなら歓迎するよ。何もなしで頼りにされるのは困るがな」

「それは当然だな」

俺たちは頷き、村人たちに礼を言ってその場を後にした。

「なんとかうまくいったな」

山道を歩きながら藤木が言う。

「まぁ、最初の接触は悪くなかったな。しばらくは慎重に距離を詰めるべきだろうけど」

斉藤が冷静に分析する。

「物資のやり取りができるなら、うまく付き合っていきたいところね」

田辺さんが満足そうに頷いた。

こうして、俺たちは初めての外部との交流を終え、ダム管理施設へと戻った。
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