終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん

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午前中、俺たちはダム周辺の見回りをしていた。数日前の流れ者騒動もあり、まだ警戒を怠るわけにはいかない。

佐川が施設の入り口付近で足を止め、遠くを見つめながら呟いた。

「……おい、誰か来るぞ」

俺たちはすぐに身構えた。

ダムのゲート付近に、一人の男がふらふらと歩いてきていた。作業服を着ているが、肩で息をしており、かなり疲弊しているように見える。

「すみません……!」

男は力なく手を振りながらこちらに近づき、そのまま膝をついた。

「ゾンビに追われて……食いっぱぐれて……もう限界で……助けてくれ……」

俺たちは顔を見合わせた。

「……まずは、話を聞こうか」藤木が慎重に言う。

***

ダムの施設内に招き入れると、男は貪るように水を飲み、用意した食料にむさぼりついた。

「すまん、助かった……」

ようやく落ち着いた様子で、男は胸元の名札を指しながら名乗った。

「杉本 修一。発電関係のエンジニアだ」

「発電?」安田が首を傾げる。「こんな時に何の用で?」

杉本は疲れた様子ながらも、しっかりとした口調で言った。「俺は、日本各地で発電所や通信施設の復旧を試みてるグループの一員なんだ」

「復旧?」俺は思わず聞き返した。

「そうだ。生存者同士が情報を共有できるように、小規模な通信ネットワークを構築するための活動をしてる」

「でも、この世界でネットワークを復活させる意味ってあるのか?」高橋が尋ねる。「政府も崩壊してるし、通信会社も機能してないんだろ?」

「全国規模のネットワークはもう無理だ」杉本は否定しなかった。「でも、ローカルネットワークなら作れる。無線通信と簡易サーバーがあれば、近隣の生存者同士で情報をやり取りできる」

「そんなことが可能なのか?」藤木が眉をひそめた。

「可能だ。すでにいくつかのエリアでは、生存者が独自のネットワークを構築してる。俺たちはそれを広げるために、発電所や無線機器が使えそうな場所を回ってるんだ」

「なるほどねぇ」田辺さんが顎に手を当てた。「でも、あんた、そんな重要な仕事してるのに、なんでそんなに腹ペコでここに来たんだい?」

「……その話は、ちょっと情けなくてな」杉本は苦笑した。「ダム近くの発電関連施設を確認しに行ったんだが、途中でゾンビに出くわして……逃げることを優先してたら、物資をほとんど失っちまったんだ」

「つまり、逃げるのに必死で、何も食べられずにここにたどり着いたってわけか」斉藤が腕を組んだ。

「そんなとこだな」杉本は苦笑しながらまた食料に手を伸ばす。

「まぁ、腹が減ってちゃ、なんにもできないからねぇ。今日はしっかり食べて休むといいよ」田辺さんが豪快に笑いながら、追加の飯を盛った。「おかわりもあるよ!」

杉本の目が輝いた。「……助かる」

***

食事を終えた杉本は、俺たちに改めて頼みごとをしてきた。

「ダムの発電所が動いているなら、ここを通信の中継地点にできるかもしれない。施設内の無線機器や通信設備を調べてもいいか?」

佐川が腕を組みながら杉本をじっと見つめた。「……どう思う?」

俺たちは顔を見合わせる。

「今の時代、情報の価値は高い」斉藤が言う。「生存者同士のネットワークができるなら、それに越したことはない」

「でも、下手に電波を飛ばして、変な連中にダムの存在がバレたら厄介だぞ」藤木が慎重に言う。「無闇に発信してもいいもんじゃない」

「そこは、発信範囲を限定することで対応できる」杉本が説明する。「俺たちのグループは、既存のインフラを利用して、局地的なネットワークを作る技術を持ってる。政府の設備は使えなくても、生存者同士の情報共有は可能なんだ」

佐川はしばらく考えてから、ゆっくりと頷いた。「……まぁ、見てみるくらいならいい。だが、勝手なことはするなよ」

「了解だ」杉本は笑った。「まずは、施設の通信設備を調べさせてもらう」

***

午後、杉本は佐川とともに施設内の通信設備を調査し、俺たちはその様子を見守った。

「……これは、まだ生きてるな」杉本が端末を操作しながら言う。「ダムの発電施設が動いてるおかげで、通信機器もいくつか稼働してる」

「ってことは、無線の設備も使えるのか?」安田が尋ねる。

「可能性はある」杉本は頷いた。「この設備を調整すれば、最低限の通信は確保できるかもしれない」

「でも、どこと繋がるかわからないんじゃないか?」斉藤が指摘する。

「そこは試してみないとわからない。ただ、生存者同士が少しでも情報を共有できれば、それだけで大きな前進になる」

「まぁ、食料は増えないけど、今後の生存戦略を考えるうえで役に立つかもねぇ」田辺さんが腕を組む。「無線で村とのやりとりができれば、毎回山道を降りる手間が省けるしね」

「そうだな……」俺は考え込む。「でも、やるなら慎重にやるべきだ。外部の連中に知られるリスクを下げるためにも」

杉本は頷いた。「もちろん、そのつもりだ。今のところは、まず施設内の設備を確認して、どの程度使えるかを調べる」

俺たちは杉本の言葉を聞きながら、このダムの可能性について改めて考え始めた。

生存のために必要なのは、ただ食料や武器だけじゃない。

情報もまた、生き残るための武器になるのかもしれない。
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