夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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日常編

131 初雪の日

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 冬の訪れを教えてくれるキンと冷えた空気は、一晩にして外の世界を真っ白に染め上げた。どこを見ても、白、白、白。眩しいほどの白がキラキラと輝いていて、まるで宝石が散りばめられているようだった。
 二階の窓から、その美しい景色を楽しんでいると、そこにぽつんと僅かな黒が交じる。なんだ?と目を凝らして見れば、それは今日も元気よく駆け回る、コタローの姿だった。

「チナ―!雪だぞ!雪遊びするぞ!早く降りてこーい!」

 ぴょこぴょこ跳ね回りながら楽しそうに叫ぶコタローは、新雪にたくさんの足跡をつけていく。

「こたちゃん、さむくないの?」

 全身を毛で覆われているものの、ミカンやシエルと比べれば短く、さらに肉球は剥き出しのコタローにシンプルな疑問が浮かぶ。動きを止めたコタローは一度首をかしげて、大きな声で叫んだ。

「何いってんだ?寒いに決まってるだろ!もう、足の感覚がなくなってきたぞ!」
「たのしそうにいうことじゃない!」

 私は急いでコタローのもとに駆け出した。

 もこもこの毛皮に覆われた上着に、ボリュームたっぷりのマフラー、ミトン型の手袋と防水対策ばっちりなぬくぬくブーツを履いていても、冷えきった空気は突き抜けてくる。
 私とおそろいのマフラーと、こうなるだろうと予測して作っておいた専用の手袋……足袋?を持ってコタローへと駆け寄れば、なんだなんだ?と興味津々で近寄ってきた。
 ミトン型の手袋はは手先が動かしにくいため、一度脱いでからマフラーと足袋をつけてあげれば、少し寒さが緩和されたのか大喜びで駆け出した。
 ……が、足に違和感があるのか、ひょこっひょこっと情けない走り方になっている。それすらも楽しんでいる様子なので、まあいいだろう。そのうち慣れるはずだ。

 そんなコタローの不気味なダンスを微笑ましく見守っていると、ホムラが私の隣に降り立った。
 常に熱を放っているような状態のホムラは、足元の雪を一瞬にして溶かしてしまう。

「ああ!ホムラのバカ!おいらの雪が溶けてるじゃないか!」

 駆けていったと思ったコタローはいつの間にか戻ってきていた。そして、雪を溶かしてしまったホムラに文句を言い出す。
 雪は今後更に積もっていくだろうが、今年初の雪は振り始めてからまだ一晩しか経っていないということもあり、コタローからすればまだ充分とは言えなかったのだろう。貴重な雪を台無しにしやがって、と怒っていた。

 悪気があった訳では無いホムラは、少し黙っておけ、とコタローの頭を小突き、自分の翼にくちばしを突っ込んだ。
 何をしているんだ?とゴソゴソしているホムラを怪しんでみていた私は、突然ズイッと顔の前に出されたものに目を瞬かせる。

「これを持っておけ。少しはマシになるだろう」
 
 差し出されたのは、ホムラの羽根だった。赤から橙色のグラデーションが綺麗なその羽根を手にとってみると、それはカイロのようにじんわり暖かさが伝わってくる。少し手袋を外しただけで真っ赤に染まる指先を見かねてわざわざ渡しに来てくれたのだろうか。

「ありがとう、ホムラ。あったかいよ」

 両手で包むように羽根を持って言えば、照れたのかフンっとそっぽを向くホムラ。コタローは自分も綺麗な羽根が欲しいと思ったのか、そんなホムラに「おいらにもくれ!」とねだる。
 仕方ないといった風にホムラはため息をつき、マフラーの隙間に羽根を挿してあげていた。態度には示さずとも、なんやかんや優しくて思いやりのあるホムラなのだ。

「これで雪を溶かしたことはチャラにしてやる!これ以上は溶かすなよ!」
 
 雪が溶けてしまい剥き出しになった地面をテシテシと足で叩きながら、コタローは上から目線でそれだけ言ってまたひょこひょこと駆け出していった。

 ホムラはそのままふわりと飛び上がる。どうせなら、と私はそのまま屋根の雪を溶かしてもらうようにお願いした。ここくらいならコタローも文句は言わないだろうし、屋根の雪は放置しておくと危険なので早めに対処しておくのがいいだろうと考えたからだ。今年はホムラのお陰で雪下ろしの手間が省けそうだ。

 ホムラの羽根のお陰で指先は充分に温まった。羽根を懐に忍ばせ手袋をはめ直すと、私はその場にしゃがみこみ、せっせと雪玉を作る。少しはコタローの遊びに付き合ってあげよう。
 約一年ぶりに作る雪玉は歪で不格好だった。しかし、これはどうせ崩れるもの。投げられさえすればいい。そんな不格好な雪玉が10個ほど出来上がったところで、私は立ち上がりコタローの姿を確認する。
 幸いにも、コタローはさほど遠くへは行っていないようだ。こちらにおしりを向けて、雪の中に鼻を突っ込んでいる。格好の的となってくれていた。

 さほど固くはしていないから不意打ちで当ててしまっても問題は無いだろう。私はコタローに声をかけることはせず、狙いを定めて振りかぶった。

 標的へと真っ直ぐに飛んでいった雪玉は見事コタローのおしりにヒット!……することはなく、さっきまでそこにいたはずのコタローが消え、雪玉は雪の中へと潜っていた。
 コタローはいったいどこへ行ってしまったのか。キョロキョロと周りを見ても、その姿は見当たらない。あれ?と首をかしげたところに、私の背後から探していた声が聞こえてきた。

「急になにするんだ!危なかったぞ!」
「なんでバレたの!」
「そんなの風の音ですぐわかるぞ。チナもまだまだだな」

 いや、普通分かるわけが無い。風の音って何だ。そんなに速度も出ていなかったはずなのに、僅かな空気の振動でも感じ取ったのだろうか。不意をついても避けられるのなら、私に勝ち目は無いだろう……。
 いや、そもそもコタローの手じゃ雪玉は作れないし、雪合戦は勝負にならなかったはずだ。私は負けを認めるんじゃない。勝負にならない戦いはフェアじゃないから辞めるだけだ。
 ……足元に量産してあった雪玉は、ぐしゃりと踏み潰しておいた。
 
 しかし、それなら何をして遊ぼうか。かまくらや雪だるまを作れるほどたくさん積もっている訳では無いし……いっそのこと、魔法で雪を量産しようか。
 考えれば考えるほどそれが名案に思えてきて、どうせなら小山になるくらいの雪を作り出そうと私は思い切って魔法を使った。

「おお!雪の山だ!」

 突如目の前に出現したその小山は、コタローの興味を見事に惹きつけたらしい。除草もなしに飛び込んでいったコタローは……
 ゴツン!と大きな音を立てて小山に激突した。

「いってー!なんだコレ!雪じゃなくて氷じゃないか!」
「え!うそ、なんで?」

 触ってみれば、それは確かにカチカチに固まった氷で、見た目は雪山そっくりなのに殴りつけても形が変わらないほどには硬い。
 結構な勢いで突っ込んでいったコタローは額を抑えてうずくまりながら、涙目で私に講義する。

「今日のチナはなんだかいじわるだぞ!おいらに何か恨みでもあるのか!」
「ち、ちがうよ!こんなにカチカチになったのは、わたしもそうていがいで……。ごめんね、こたちゃん。すぐなおすから!」

 コタローの額に触れてみればそこはぷっくり腫れていて、私は慌ててヒールを唱えた。途端にスッと収まっていく腫れに安堵のため息をもらす。
 たんこぶができるほどなんて相当痛かったに違いない。コタローには、本当に申し訳ないことをしたと思い、誠心誠意謝罪した。

 しかし、雪山を作ろうとしたはずなのに何故こんなにカチコチの山がうまれてしまったのか。見た目はイメージ通り、雪の山にしか見えない。きっと誰が見てもそう言う。現に、コタローが雪だと思い突っ込んでいったのだから。
 ただ、中身は似ているようで全くの別物。雪を固めてもここまで固くはならない、というほどにカチカチなのだ。まさに氷塊。こころなしか、ツルッとしている気さえする。
 
 この雪山を作り出すとき、確か私は最初に雪を思い浮かべた。空中で雨が凍り、雪ができる。そして、それをぎゅっと集めて山のように……。つまり、凍った雨の塊として出てきたってことだろうか?
 2つの工程を一度にまとめてしまったのが良くなかったのか。もっと空気を含ませるようにイメージできたら良かったのかもしれない。

 イメージしたものがイメージ通りにならない。これが、私の魔法の難しくも面白いところだ。原因を考え、方法を模索し、できるまで繰り返す。きっとこれにやりがいを感じる人は私だけではないだろう。
 いろいろと実験したい気持ちはあるが、今日はコタローが警戒しているためやめにしておく。素直にコタローのやりたいことに付き合うとしよう。

 
 ――その後は、延々と追いかけっこに付き合わされた。体力の限界を迎えてもやめさせてもらえないことにブチギレた私が、蹴り上げた泥混じりの雪をコタローにかけたことは悪くないと思う。

 一瞬の静寂の後、大きな笑い声が上がった。
 防寒着を脱ぎ散らかして、汗塗れのまま雪の上に倒れ込むのは、とても心地よかった。
 体の模様を覆い隠すほど雪にまみれたコタローは、綺麗に雪原の中に擬態できている。遠目に見れば、きっと気づかれないだろう。人のことを言えないほど雪をかぶった私もまた、こうやって寝転んでいれば擬態できているのかもしれない。

 ぼーっと空を見上げていると、次第に興奮が落ち着き、眠気が襲ってきた。このまま寝たいのは山々だが、ここで寝てしまえば確実に風をひく。最後の気力を振り絞り起き上がってみれば、隣で寝転ぶコタローはすでに半分夢の中だった。

「こたちゃん、風邪引くよ」

 神獣の子であるコタローが風邪なんてひくのかわからないけど、そのまま放置しておくわけにはいかない。
 体を揺さぶっても起き上がる気配の無いコタローを、仕方がないと抱き上げれば、むずがるように私の肩に頭をグリグリとこすりつけてきた。

 玄関を開ければ、そこには大判のタオルを広げたアルトさんが待ち構えている。

「ふたりとも、派手に遊んだねぇ」

 苦笑交じりのその声に、私は笑ってタオルの中に飛び込んだ。もう意識の無いコタローはアルトさんに任せ、私はお風呂でゆっくりと温まった。
 まだ朝ごはんも食べていなかったと気がついたのは、その時だ。私も、周りが見えなくなるほどには初雪にはしゃいでいたらしい。

 今年最初の雪遊びは、そうして幕を閉じた。
 ……これを雪遊びと言って良いのだろうか、という疑問を残して。
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